国立感染症研究所

 

2022年12月13日

 
 
端 緒

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で高い有効性(vaccine efficacy)が示された1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関や民間検査会社の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施し、実社会における有効性(vaccine effectiveness;発症予防効果)を検討している。これまでの暫定報告においては、B.1.1.7系統(アルファ)およびB.1.617.2系統(デルタ)に対して、高い有効性を示すことが確認された一方で4-5、2021年末に出現したオミクロンにおいては、発症予防効果が一定程度みられたものの、相対的に低く、免疫の減衰も示唆された6-8。こうした中で、ファイザー社およびモデルナ社は、オミクロンの亜系統であるBA.1およびBA.4-5にそれぞれ対応した2種類のオミクロン対応2価ワクチン(以下、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)およびオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5))を開発し、国内においてこれらが承認され、接種が開始された9-10。ファイザー社製およびモデルナ社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.1)は9月20日に、ファイザー社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)は10月13日に、モデルナ社製のオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)は11月28日に、それぞれ接種が開始されている9-10。そこで今回は、2価ワクチンの接種が開始された9月20日から11月30日の調査における暫定結果を報告する。なお同時期には、関東地方において、BA.5が75-90%以上を占めるとされた11

方 法

 2022年9月20日から11月30日までに関東地方の複数医療機関の発熱外来等を受診した16歳以上の者(一部医療機関では成人)を対象に、検査前に基本属性、新型コロナワクチン接種歴などを含む問診票に記載いただいた。意識障害のある者、直ちに治療が必要な者、日語での問診票に回答できない者には問診票の配布を行わなかった。のちに各医療機関で新型コロナウイルス感染症の診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類した。発症から14日以内で、37.5℃以上の発熱、全身倦怠感、寒気、関節痛、頭痛、鼻汁、咳嗽、咽頭痛、呼吸困難感、嘔気・下痢・腹痛、嗅覚味覚障害のいずれか1症状のある者に限定して解析を行うこととした。また、期間中にすでに受診した記録のある者は本解析においては除外した。解析に際して、製造会社の区別はせず、mRNAワクチン以外を一度でも接種された者、接種されたワクチンの種類が一回でも不明であった者は除外した。

 ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種または2回接種から13日以内、(3)2回接種から14日-3ヶ月(14-90日)、(4)2回接種から3-6ヶ月(91-180日)、(5)2回接種から6ヶ月以降(181日以降)、(6)3回接種から13日以内、(7)3回接種から14日-3ヶ月(14-90日)、(8)3回接種から3-6ヶ月(91-180日)、(9)3回接種から6ヶ月以降(181日以降)、(10)4回接種から13日以内、(11)4回接種から14日-3ヶ月(14-90日)、(12)4回接種から3-6ヶ月(91-180日)、(13)4回接種から6ヶ月以降(181日以降)、(14)オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)接種から13日以内、(15)オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)接種から14日以降、(16)オミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)接種から13日以内、(17)オミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)接種から14日以降、の17つのカテゴリーに分けた(1-13まではいずれも1価ワクチン(従来株ワクチン)のみを受けた者である)。

 ロジスティック回帰モデルを用いて、オッズ比と95%信頼区間(CI)を算出した。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、年代、性別、基礎疾患の有無、職業(医療従事者かそれ以外)、医療機関、カレンダー週、濃厚接触歴の有無、過去1ヶ月の新型コロナウイルス検査の有無、3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴、マスクの着用状況、飲酒を伴う夕方・夜の会食への参加、今シーズン(2022-2023シーズン)のインフルエンザワクチン接種有無をモデルに組み込んだ。ワクチン有効率は(1-調整オッズ比)×100%で推定した。さらに、国民の多くが2回以上の接種を完了していることから、2回以上の1価ワクチンと比較した、オミクロン対応2価ワクチンの相対的な有効率も算出した。この際、1価ワクチン接種から3-6ヶ月および6ヶ月以降の者との比較を行った。

 特記事項として、国立感染症研究所やその他国内外の過去の知見から、接種回数よりも接種からの期間が有効率に影響を与えることが示唆されており、サンプルサイズの制限もあることから、オミクロン対応2価ワクチンの接種者において、オミクロン対応2価ワクチンの接種までに1価ワクチンを何回接種しているかによるカテゴリー分けは行わなかった(1価ワクチンを2回接種した者から4回接種した者までいる)。また、相対的な有効率についても同様に、1価ワクチンを何回接種しているかによるカテゴリー分けは行わなかった。
本調査は国立感染症研究所および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された(国立感染症研究所における審査の受付番号1332、1392)。

結 果

 関東地方の10医療機関において、2022年9月20日から11月30日までに発熱外来等を受診した者で解析可能であった4473名が組み入れられた。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した者133名、mRNAワクチン以外を接種された者30名、接種されたワクチンの種類が1回でも不明の者270名を除外して解析した。解析に含まれた4,040名(うち陽性2,089名(51.7%))においては、年齢中央値(範囲)36(16 -93)歳、男性2,189名(54.3%)、女性1,840名(45.7%)であり、何らかの基礎疾患を1,004名(24.9%)で有していた(表1)。また、ワクチン接種歴について、未接種者は435名(10.9%)、1回接種した者は46名(1.2%)、2回接種した者は927名(23.2%)、3回接種した者は2,009名(50.2%)、4回接種した者は550名(13.8%)、5回接種した者は34名(0.9%)、であった(ワクチン接種回数の欠損39名を除く)(表2)。また、オミクロン対応2価ワクチンを接種された者のうち、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)を接種された者は102名(52.8%)、オミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)を接種された者は91名(47.2%)であった。さらに、オミクロン対応2価ワクチンを接種された者において、それまでに1価ワクチンを2回接種された者は20名(10.4%)、3回接種された者は138名(71.5%)、4回接種された者は35名(18.1%)であった。

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 ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で17つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した。未接種者を参照項とする調整オッズ比は、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)接種後14日以降で0.27 (95%信頼区間[95%CI] 0.15-0.51)、オミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)接種後14日以降で0.31 (95%CI 0.14-0.68)であった(表3)。

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 調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出したところ、BA.1かBA.4-5を問わないオミクロン対応2価ワクチン接種後14日以降で71% (95%CI 52-83)、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)接種後14日以降で73% (95%CI 49-85)、オミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)接種後14日以降で69% (95%CI 32-86)であった(表4)。調整オッズ比を元に2回以上の1価ワクチンと比較したオミクロン対応2価ワクチンの相対的な有効率については、オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)とオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)で未接種と比較した有効率が大きく変わらなかったため、サンプルサイズの制限から、これらをまとめて解析した。結果、1価ワクチン接種から3-6ヶ月と比較した有効率は30% (95%CI -13-57)であった。1価ワクチン接種から6ヶ月以降の者と比較した有効率は、オミクロン対応ワクチン接種後14日以降で44% (95%CI 11-65)であった。

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考 察

 本報告ではBA.5流行期におけるオミクロン対応2価ワクチンの有効性を検討し、発症予防効果は高程度であることがわかった。オミクロン対応2価ワクチン(BA.1)とオミクロン対応2価ワクチン(BA.4-5)とで有効率に大きな差は認めなかった。相対的な有効率としても、1価ワクチン接種から6ヶ月以降の者においては中程度であり、特に半年以上経過した者におけるワクチンの有効性が示唆された。オミクロン対応2価ワクチンの有効性に関する疫学的なデータとしては非常に限られているが、米国で行われた観察研究では、未接種と比較したBA.4-5対応2価ワクチン(それまでの1価ワクチン接種回数を問わない)の絶対有効率は18-49歳で43% (95%CI 39-46)、50-64歳で28% (95%CI 22-33)、65歳以上で22% (95%CI 15-29)であった12。また、この研究では、相対有効率は、前回1価ワクチン接種から2-3ヶ月経過した者と比較して、18-49歳で30% (95%CI 22-37)、50-64歳で31% (95%CI 24-38)、65歳以上で28% (95%CI 19-35)である一方、前回1価ワクチン接種から8ヶ月以上経過した者と比較すると、18-49歳で56% (95%CI 53-58)、50-64歳で48% (95%CI 45-51)、65歳以上で43% (95%CI 39-46)であった16。今回の調査結果では、オミクロン対応2価ワクチンと未接種を比較した絶対有効率が米国のデータより高い値であったが、これは既感染者の割合や感染対策(マスク着用等)、リスク行動の違い等が影響している可能性がある(特に本報告では交絡因子となりうる複数の因子で調整している)。相対有効率については、米国と類似の結果であった。本報告におけるオミクロン対応2価ワクチンの絶対有効率は、1価ワクチン(従来株ワクチン)の従来株やアルファ株、デルタ株に対する有効性4-5(約85-95%)よりも低い値であったが、これはサンプルサイズの制限や残存するバイアス・交絡の可能性の他、従来株に対する免疫の刷り込み(immune imprinting)の影響もあるかもしれない13-14。ただし、本報告からは、オミクロン対応2価ワクチンの高程度の発症予防効果が示唆されており、接種を検討することが重要である。ただし、有効率は100%ではないため、接種後も、場面や流行状況、医療逼迫の程度等に応じた適切な感染対策を継続することも重要となる。

 本調査は迅速な情報提供を目的としている暫定的な解析であり、今後も解析を適宜行い、経時的に評価していくことが重要である。

制 限

 本調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、1つ目に交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。特に、ワクチンの接種が進むにつれて、ワクチン接種者とワクチン未接種がワクチン接種歴以外の部分で異なる可能性が高くなるが、これによって起こりうる交絡として、過去の感染やマスクの着用状況、感染のリスク因子と考えられる行動の有無についても変数として解析に組み込んだ。2つ目の制限として、接種された時期や対象(特に4回目接種の接種対象は限られていた)が異なるため、1価ワクチン(従来株ワクチン)とオミクロン対応2価ワクチンの有効性を直接比較するのは困難であり、行っていない。3つ目の制限として、ワクチン接種歴等について欠損値のある者は本解析では除外している。4つ目の制限として、今回の調査は軽症例を対象としており、無症状病原体保有者・中等症例・重症例・死亡例における有効性を評価しておらず、ワクチンの製造会社ごとの有効性は評価していない。5つ目の制限として、本研究では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していない。ただし、BA.5流行期における解析であり、大部分はBA.5への感染であったとの想定のもとで実施している。6つ目の制限として、サンプルサイズの制約から有効率の信頼区間が広いため、点推定値の解釈には注意が必要である。7つ目の制限として、本報告では、オミクロン対応2価ワクチン接種〜検査までの期間が非常に短期間であるため(表2)、今後、1価ワクチン(従来株ワクチン)と同様に免疫が減衰するかについて検討していくことが重要である。

本調査および報告は以下の研究資金を利用して行われた:

 • 厚生労働科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制の構築に向けた研究」
 • AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「ワクチンで予防可能な疾病のサーベイランス及びワクチン効果の評価に関する研究」

 
参考文献
  1. Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. doi:10.1056/NEJMoa2034577
  2. Baden LR, El Sahly HM, Essink B, et al. Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416. doi:10.1056/NEJMoa2035389
  3. Voysey M, Clemens SAC, Madhi SA, et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet. 2021;397(10269):99-111. doi:10.1016/S0140-6736(20)32661-1
  4. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報).国立感染症研究所.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10614-covid19-55.html
  5. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性.国立感染症研究所.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
  6. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第三報):オミクロン株流行期における有効性.国立感染症研究所.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10966-covid19-71.html
  7. Arashiro T, Arima Y, Muraoka H, et al. COVID-19 vaccine effectiveness against symptomatic SARS-CoV-2 infection during Delta-dominant and Omicron-dominant periods in Japan: a multi-center prospective case-control study (FASCINATE study). Clin Infect Dis. 2022;ciac635. doi:10.1093/cid/ciac635
  8. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第四報):オミクロン株(BA.1/BA.2およびBA.5)流行期における有効性.国立感染症研究所.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11405-covid19-999.html
  9. 厚生労働省.ファイザー社のオミクロン株対応2価ワクチンについて.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_pfizer_bivalent.html
  10. 厚生労働省.モデルナ社のオミクロン株対応2価ワクチンについて.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_moderna_bivalent.html
  11. 厚生労働省.アドバイザリーボード資料.
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001021503.pdf
  12. Link-Gelles R, Ciesla AA, Fleming-Dutra KE, et al. Effectiveness of Bivalent mRNA Vaccines in Preventing Symptomatic SARS-CoV-2 Infection - Increasing Community Access to Testing Program, United States, September-November 2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022;71(48):1526-1530. Published 2022 Dec 2. doi:10.15585/mmwr.mm7148e1
  13. Reynolds CJ, Pade C, Gibbons JM, et al. Immune boosting by B.1.1.529 (Omicron) depends on previous SARS-CoV-2 exposure. Science. 2022;377(6603):eabq1841. doi:10.1126/science.abq1841
  14. Collier AY, Miller J, Hachmann NP, et al. Immunogenicity of the BA.5 Bivalent mRNA Vaccine Boosters. medRxiv. doi:10.1101/2022.10.24.51361

注意事項

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FASCINATE study group
国立感染症研究所 感染症疫学センター 新城雄士 有馬雄三 鈴木基
インターパーク倉持呼吸器内科 倉持仁 仁平侑希
クリニックフォア田町 村丘寛和
KARADA内科クリニック 佐藤昭裕
中鉢内科・呼吸器内科クリニック 中鉢久実
町田駅前内科クリニック 伊原玄英
聖路加国際病院 柳井敦 有岡宏子
国際医療福祉大学成田病院 加藤康幸
日本赤十字社医療センター 上田晃弘
横浜市立大学付属病院 加藤英明 田中克志
埼玉医科大学総合医療センター 岡秀昭 西田裕介

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