国立感染症研究所

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沖縄県におけるCOVID-19推定感染場所に基づく患者数の傾向の把握

(速報掲載日 2021/9/17)(IASR Vol. 42 p225-227: 2021年10月号)
 

 国内の保健所は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例の感染場所を丁寧な疫学調査により把握しており、得られる情報からどのようなリスク行動が感染伝播に寄与したかを分析し、市民への注意喚起に結び付けることは重要である。これまで、流行の拡大から縮小に至るまで、主となる感染場所は会食、家庭、医療・介護の順に推移していることが考えられている1)

 2021年7月以降、沖縄県ではCOVID-19流行拡大(いわゆる第5波)がみられ、急激な患者数の増加を認めた。その際、保健所業務のひっ迫にともない、疫学調査を縮小せざるを得ない状況になり、特に感染源調査については、簡素化を余儀なくされる保健所もあった。そこで、過去の流行拡大期や縮小期における推定感染場所の傾向から、業務がひっ迫し、疫学情報が制限される中においても推定感染場所を推測し、流行全体の患者数の傾向を把握できないか検討を行った。

 沖縄県感染症情報センター(県衛生環境研究所内に設置)では、県内の保健所で作成されたCOVID-19患者の疫学調査票を収集、リスト化を行っており、調査票の記載内容から各患者の推定感染場所を検討し、接待を伴う飲食、会食、職場、家庭、医療・介護、学校・保育、基地、県外からの持ち込み、その他、不明、調査中に分類している。これらの情報を基に2020年12月24日(第3波の始まり)~2021年8月22日時点までの分析を行った。

 第3波、第4波(前半・後半)において、推定感染場所別の患者数(いずれも前7日間平均)は、会食、家庭の順で数が多く、また全体の患者数が増加すると調査中や感染経路不明の数の割合も増えていた。全体の患者数のピークの直前で会食がピークに達し、その後に家庭がピークに達するパターンを繰り返していた。割合は、全体の患者数のピークの前2~3週間に会食がピークに達し、家庭は会食の割合のピーク前後で増加し始め、全体の患者数のピークから1~3週間後にピークに達していた(図B中破線矢印)(図A-①B-①)。これに対して、保健所業務に一段と大きな影響が生じた第5波(8月22日時点)では、本稿の分析時点では分類に至る作業が遅れてしまう状況も相まって、患者数の増加を認める一方で、調査中のままで推移する患者数やその割合が増加していた(図A-②B-②)。第5波における、調査中の患者の推定感染場所の内訳を推定するために、第3波、第4波(前半・後半)の上昇期(2020年12月24日~2021年1月18日、2021年3月1日~4月9日、2021年4月29日~5月25日と定義)において、県発表時点(保健所届出から1~2日程度)で推定感染場所(経路)が調査中であった患者(2,790例)について、後に推定感染場所が判明した割合を検討した。推定感染経路の割合は、会食(接待を伴う飲食を含む):30.5%、職場:6.7%、家庭:8.7%、学校・保育:1.4%、医療・介護:2.2%、県外からの持ち込み:4.9%、米軍:0.0%、その他:0.6%、不明27.6%、調査中:17.3%であった。過去の上昇期における感染場所の傾向が第5波でも同様と仮定し、これらを第5波の疫学調査中の数に外挿することで、調査中の患者を再分類し、各推定感染場所に計上した。再分類の結果、第5波では、直近の会食、家庭の患者数は上昇、割合は横ばいが続いていた(図A-③B-③)。一方で、第3波、第4波(前半・後半)の上昇期における最終的な推定感染場所の内訳は、会食(接待を伴う飲食を含む):32.0%、職場:8.6%、家庭:22.4%、学校・保育:2.7%、医療・介護:4.9%、県外からの持ち込み:5.3%、米軍:0.2%、その他:0.8%、不明15.3%、調査中:7.8%であり、県公表時点で調査中であった患者の割合と比較すると、会食の割合は同程度、家庭の割合は低かった。この結果から、家庭で感染した患者数は疫学調査の早期から把握され、安定していると考えられたため、各推定感染場所の患者数を家庭の患者数で除した比を基に傾向をみたところ、第3波、第4波(前半・後半)では、会食/家庭のピークから2~3週間後に、全体の患者数の減少を認めた。ただし、日々の患者数が少ない場合は集団発生の影響が大きいため、おおよそ100名以上/週の時期に限る(図C-①)。第5波のピーク時では、過去の波と比較して家庭の増加がより緩やかで、会食が継続して増加していた。このため、第5波では会食/家庭はいったんピークを形成したが、過去の波と比較すると下がり幅が小さく、その後横ばいとなっていた(図C-②③)。

 第3波~第4波(前半・後半)の県内全体の推定感染場所の状況から、沖縄県内では会食での感染機会が多く続いている間は、患者数全体が上昇する傾向があった。また、会食の患者報告数は、家庭の患者報告数の前にピークがある傾向があり、会食の割合の減少とともに、家庭での割合の増加が認められ、感染場所の首座が会食から家庭にシフトしたタイミングから約2~3週間してから全体の患者数が減少してくる傾向があった。第5波では感染場所が調査中の割合が多かったが、直近の患者数、割合の補正を行ったところ、第3波、第4波(前半・後半)の傾向とは異なり、第5波ではいったん会食での感染患者が減少したようにみえたが、直近でも増加傾向であり、全体の患者数の減少には至っていないと考えられた。また、過去の調査中に占める家庭の割合は最終的な家庭の割合よりも低く、保健所の調査で比較的早期に把握しやすい(調査中になりにくい)ことが分かった。このことから、調査中の患者数から、会食で感染した患者数を推測せずとも、家庭における感染の割合を把握することで全体の傾向が推測できる可能性があった。家庭の割合が増加していない状況では会食での感染の割合も低下しておらず、感染拡大傾向が続いていることが予想された。

 今回、調査中に占める感染場所の推定を行ったが、最終的に感染経路不明が25%ほど存在しており、これらのうち会食や家庭が占める影響も懸念された。東京都の施設で行われた研究では、保健所の調査で感染場所不明とされたうち、56%の感染者が会食等のリスク行動をともなっていたという情報があり、さらに会食における感染の影響が大きいことが懸念された2)

 保健所業務がひっ迫し、疫学的な情報が限られている中で、各自治体における感染拡大傾向の把握および市民への啓発のポイントを探るための参考とされたい。

 

参考文献
  1. 新型コロナウイルス感染症対策分科会, 第19回新型コロナウイルス感染症対策分科会資料,2020
  2. Hikida S, et al., Global Health & Medicine, 2021

沖縄県保健医療部衛生環境研究所
沖縄県保健医療部ワクチン接種等戦略課
国立感染症研究所実地疫学研究センター、感染症疫学センター

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