国立感染症研究所

 

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第18報)

 

国立感染症研究所
2022年7月1日9:00時点

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変異株の概況

  •   新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第17報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルス株のほぼ全てをオミクロン株が占め、その他の変異株はほとんど検出されていない。オミクロン株の中では、BA.2系統、BA.2.12.1系統、それ以外のBA.2系統の亜系統(BA.2.x)、BA.4系統、BA.5系統がそれぞれ36%、17%、12%、9%、25%を占めた(WHO, 2022a)。国内では、令和4年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株のBA.1系統に置き換わり、その後、さらにオミクロン株のBA.2系統に置き換わり、現在の感染の主流系統となっている。B.1.1.529系統については、各国での流行拡大に伴い変異が進み、亜系統の分類が進められている。また、国内外でオミクロン株間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)はこれらのB.1.1.529系統の亜系統であるBA.x系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称する一方、いくつかの亜系統(BA.4、BA.5、BA.2.12.1、BA.2.9.1、BA.2.11、BA.2.13)を「懸念される変異株(VOC)における監視下の系統(VOC-LUM; Variants of Concern linages under monitoring)」としている。
  •   BA.4系統、BA.5系統、BA.2.12.1系統は一部の国でBA.2系統から置き換わると共に、BA.2系統と比較して感染者増加の優位性や免疫逃避が指摘されており、今後の国内外の動向を注視する必要がある。一方で、BA.4系統、BA.5系統、BA2.12.1系統いずれも既存のオミクロン株と比較して重症度の上昇につながる証拠はみられない。ヒト血清等を用いた抗原性評価により、BA.2に比べてこれらの系統に対しては軽度の中和活性の低下が指摘されているが、武漢株とオミクロン株との抗原性の乖離に比べると、その差は小さいと考えられ、既存のオミクロン株に比べてヒト免疫逃避能が向上しているかどうかについては、ワクチン効果等の疫学的評価も重要である。 また、現在、ワクチン接種率の向上や感染者の増加により、SARS-CoV-2に対する免疫を持つ人口が飛躍的に増加しており、免疫学的背景が多様化している。このような状況において現在のヒト集団での病原性がこれらの有する変異だけで決定される可能性は低いと考える。しかし、動物実験で従来のオミクロン株と比べて病原性が上昇している可能性を示唆する結果もあることから、特に、免疫不全者や重症者のウイルス系統については注意深く監視を継続する必要がある。
  •   オミクロン株の組換え体は、ほとんどの形質がまだ明らかでは無く、分類法も含めて今後の国内外の動向を注視する。
  •   B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)については、2020年12月にインドで初めて検出され、2021年7月頃から世界的に支配的な状況が続いていたが、オミクロン株の流行が起きた2022年1月以降世界での検出数は限りなく少なくなっている。また、国内でも2022年3月14日以降約3ヶ月間検出が途絶えていることから、監視下の変異株(VUM)に位置付けを変更する。

 

オミクロン株の亜系統について

BA.2系統について

  • 国内ではBA.2系統が大半を占めている。BA.2系統はさらに亜系統のBA.2.1系統からBA.2.75系統まで分類されている(Cov-lineages.org, 2022)。国内では、割合が多い順にBA.2、BA.2.3、BA.2.3.1、BA.2.10、BA.2.24、BA.2.29、BA.2.10.1、BA.2.10.2、BA.2.18、BA.2.12.1、BA.2.3.2、BA.2.5、BA.2.9、BA.2.1、BA.2.17、BA.2.7、BA.2.12、BA.2.4、BA.2.6、BA.2.38系統といった亜系統が検出されている。これらの亜系統間での形質の差異は、BA.2.12.1を除き、明らかではない。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.12.1系統が3月中旬にニューヨーク州など米国東海岸で検出された。以降米国内での検出割合が上昇し、5月下旬以降は米国全体で検出された株の約60%を占める状態が続いている(CDC, 2022)。また、6月24日時点でGISAIDデータベースに69カ国から139,215件が登録されているが、その約86% が米国からである(Outbreak.info, 2022)。米国でBA.2系統からの置き換わりが進んだことから、BA.2系統に比較して25%程度の感染者増加の優位性が示唆されている(New York State, 2022)。一方で、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a)。     
  •   BA.2.12.1系統は、ベータ株やデルタ株が有していたスパイクタンパク質の変異箇所であるL452Qを有している。L452Q変異は中和抗体の結合に影響し、免疫逃避につながる可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。また、いくつかの研究によると、ヒト血清等を用いた抗原性評価により、軽度の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al., 2022、Wang, Q. at al., 2022)。
  • 6月24日時点で、BA.2.12.1系統は検疫及び国内で検出されているが、国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない。
  • 引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

 

BA.4/BA.5系統について 

  • BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカで検出された。BA.4系統、BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。また、BA.4系統の亜系統としてBA.4.1系統、BA.4.1.1~4系統があり、BA.5系統の亜系統としてBA.5.1~5.6系統があるが(Cov-lineages.org, 2022)、それぞれBA.4系統、BA.5系統との形質的な差については知見が得られていない。
  • 2022年6月24日までに、BA.4系統は60カ国から13,827件、BA.5系統は63カ国から17,361件が報告されている。 いずれも当初は南アフリカからの検出が多くを占めたが、検出国は欧州を中心に変化している(Outbreak.info, 2022)。
  • 米国疾病対策センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)はBA.4、BA.5系統を他のオミクロン株と同様にVOCに含めている(CDC. 2022, ECDC. 2022b)。WHOはVOCの中で、伝播性の増加の兆候や他のVOCと比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、VOC-LUMに分類している(WHO, 2022b)。英保健安全保障庁(UKHSA)は5月20日にBA.4、BA.5をともにvariantsからVOCへ区分変更している(UKHSA, 2022a)。
  • 南アフリカ国内では2022年4月から5月にかけてBA.4系統、BA.5系統が占める割合が上昇し、BA.2系統からの置き換わりが進むと共に同時期の感染者数の増加が見られ、ポルトガルにおいても5月にBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進み、感染者数の増加が見られたことから、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が指摘されている(ECDC, 2022a)。また、英国でも5月以降BA.4系統、BA.5系統の検出割合が上昇しており、BA.4系統、BA2.12.1系統に比較して、BA.5系統が優位となる可能性が示唆されている(UKHSA, 2022a)。米国ではBA.2.12.1系統が優位であったが、6月以降BA.4系統、BA.5系統の占める割合が上昇しており、引き続きゲノムサーベイランスによる監視が行われている(CDC, 2022)。また、BA.4系統、BA.5系統はL452R変異を有しており、BA.2.12.1系統同様、L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。一方で、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a、UKHSA, 2022a)
  • 新型コロナウイルスワクチン接種者及びオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4系統、BA.5系統に対する抗体価はBA.1と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al.. 2022、Wang, Q. at al.. 2022)。
  • BA.2系統ウイルス株にオミクロン亜系統のスパイク遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも高くなったことを示した報告がある (Kimura I et al, 2022)。ただし、デルタ株等のオミクロン株以外の従来株との比較はなく、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がオミクロン株出現前のSARS-CoV-2に比べて高くなっているのかについては不明である。
  • BA.4系統、BA.5系統の持つF486V変異は中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されており、スパイクタンパク質の構造上casirivimab/imdevimabのcasirivimab、tixagevimab/cilgavimabのtixagevimabの効果に影響を与える可能性が示唆されている(UKHSA, 2022c)
  • 6月24日時点で、BA.4系統及びBA.5系統は検疫及び国内で検出されており、国内の一部の地域ではBA.5の検出割合が上昇しているとの報告がある。既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性が指摘されているため、今後国内でBA.5の占める割合が上昇する可能性があり、感染者数、重症者数の推移を注視すると共に、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

 

組換え体について

  • SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え( 2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •   これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)にPANGO系統が付与されてきた。
  •   最近では、世界的なオミクロン株感染者の急増、そしてBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが進行する中で、世界各地からこれらの組換え体が報告されており、PANGO系統が付与されてきている(XE、XG、XH、XJ、XK、XL、XM、XN、XP、XQ、XR、XT、XU、XV、XW、XY、XZ、XAA~XAH)(cov-lineages org, 2022)。また、PANGO系統がまだ付与されていない組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体も世界各地から報告されている。
  •   2022年6月24日現在、検疫及び国内で組換え体が検出されているが、現在もなお、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、組換え体の分類の在り方が確立しているとは言い難く、検疫で検出された3例がXE系統である以外はいずれも系統の分類は決定していない。
  •   組換え体については、現在XE系統がBA.2系統と比較して12.6%の成長率の上昇が示唆されており、UKHSAはXE系統をvariantsに指定している(UKHSA, 2022b)。ただし、これ以外に感染の広がりを強く示唆するデータや、重症化やワクチンの効果が減衰するなどの懸念すべき影響を示唆するデータは報告されていない。また、世界的には2022年4月をピークとしてXE系統のGISAIDへの登録数は減少している(outbreak. info, 2022)。
  •   組換え体は、世界全体で検出数が少ないため、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年6月28日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

英国 HSA

CDC

B.1.617.2
系統

(デルタ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

variants

VBM

B.1.1.529
系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

※BA.4, BA.5, BA.2.12.1, BA2.9.1, BA2.11, BA.2.13:VOC-LUM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2+L452X: VOI

BA.3: VUM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.12.1, BA.3: signals in monitoring

VOC

B.1.1.7 系統

(アルファ株)

VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

Variants

VBM

VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOC-LUM:VOC lineages under monitoring(VOCにおける監視下の系統)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VOI: Variant of interest (注目すべき変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

     

 

引用文献

 

注意事項

  • 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 18報 2022/07/01 9:00時点
第 17報 2022/06/03 9:00時点
第 16報 2022/04/26 9:00時点
第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」
第 14 報 2021/10/28 12:00 時点
第 13 報 2021/08/28 12:00 時点
第 12 報 2021/07/31 12:00 時点
第 11 報 2021/07/17 12:00 時点
第 10 報 2021/07/06 18:00 時点
第 9報 2021/06/11 10:00 時点
第 8報 2021/04/06 17:00 時点
第 7報 2021/03/03 14:00 時点
第 6報 2021/02/12 18:00 時点
第 5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」
第 4報 2021/01/02 15:00 時点
第 3報 2020/12/28 14:00 時点
第 2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更
「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」
第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

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