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The Topic of This Month Vol.33 No.9(No.391)

HIV/AIDS 2011年

(Vol. 33 p. 229-230: 2012年9月号)

 

わが国では、エイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年~1999年3月はエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html)。本特集のHIV感染者数*とAIDS患者数**は厚生労働省エイズ動向委員会による平成23年エイズ発生動向年報(2012年3月28日確定)に基づく(同年年報は厚生労働省疾病対策課より公表されている(http://api-net.jfap.or.jp/status/2011/11nenpo/nenpo_menu.htm)。
 

1.1985~2011年のHIV/AIDS報告数の推移:2011年に新たに報告されたHIV感染者は1,056(男994、女62)で、2008年(1,126)、2007年(1,082)、2010年(1,075)に次ぐ過去4位の報告数であった。AIDS患者は473(男440、女33)で、過去最多であった(図1)。1985~2011年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)はHIV感染者13,704(男11,564、女2,140)、AIDS患者6,272(男5,604、女668)で、2011年10月1日人口10万対累積HIV感染者は10.723、同AIDS患者は4.908となった。また、2011年に厚生労働省疾病対策課に病変報告***として、HIV感染者→AIDS患者が6例、生存→死亡が16例(いずれもすべて日本国籍男性)報告された。なおこの他に、「血液凝固異常症全国調査」(2011年5月31日現在)において血液凝固因子製剤によるHIV感染者が累計で1,439(2008~2010年と同数:生存中のAIDS患者164および死亡者674を含む)報告されている。

国籍・性別:2011年は日本国籍男性がHIV感染者923(2010年956)、AIDS患者419(2010年421)と、ともに減少はしたが、依然としてそれぞれ全体の87%、89%を占めた(参考図)。日本国籍女性、外国国籍男性・女性のHIV感染者の報告数はそれぞれ42、71、20で、AIDS患者は16、21、17であった。

感染経路・年齢群別:日本国籍男性では、HIV感染者・AIDS患者ともに同性間性的接触(両性間性的接触を含む)によるものが多い(図2)。2011年の日本国籍男性HIV感染者のうち、同性間性的接触によるものは74%(686/923)を占め、その年齢群別では30代(249)、20代(246)が多いが、30代は2008年(290)以降減少傾向が続き、20代は2008年(252)のピークを超えていない(図3a)。また、2011年に初めて10~14歳の同性間性的接触によるものが1報告された。日本国籍男性AIDS患者のうち、同性間性的接触によるものは61%(255/419)を占め、30代(85)、40代(79)が多く、30代は2年連続して減少したが、40代は2009年以降の増加が著しい(図3b)。日本国籍女性の感染経路はほとんどが異性間性的接触である。静注薬物使用によるものはHIV感染者、AIDS患者合計5(日本国籍者3、外国国籍者2)(2010年7)で、これ以外に「その他」として静注薬物使用と性的接触の両方によるものが9(日本国籍者9)(2010年12)あった。母子感染の報告は2007~2009年には無く、2010年はHIV感染児が3報告され、2011年も1報告された。

推定感染地域:日本国籍者では男女ともに国内での感染が多く、2011年はHIV感染者の91%(男性92%、女性81%)、AIDS患者の81%(男性81%、女性75%)を占めた。また、外国国籍男性のHIV感染者でも2001年以降国内感染が国外感染を上回っており、2011年は51%を占めた。

報告地(医師により届出のあった地):報告地の地域別では、HIV感染者、AIDS患者ともに、関東・甲信越、近畿、東海地域の報告数が多い。東京を除く関東・甲信越、東海、九州地域で増加がみられた。都道府県別報告数をみると、東京、大阪、愛知ではHIV感染者、AIDS患者ともに減少したものの上位3位の状況が続いた(表1)。人口10万対でみると、報告数で10位に入らなかった県が上位に加わった。
 
2.献血者のHIV抗体陽性率:2011年は献血件数5,252,182中89(男81、女8)の陽性者がみられ、献血10万件当たり1.695(男2.251、女0.484)であり、2010年(1.617)をやや上回った(図4)。
 
3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:過去2年連続して減少していた自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は、2011年は131,243(2010年130,930)とほぼ横ばいであった(図5)。陽性件数は462(2010年473)、陽性率は0.35%(2010年0.36%)であった。このうち保健所での検査陽性率は0.27%(281/102,946)であるのに対し、自治体が実施する保健所以外での検査陽性率は0.64%(181/28,297)と、昨年までと同様に利便性の高い保健所以外での検査の陽性率が高かった。また、2011年の相談件数は163,006件(2010年164,264件)と3年連続で減少した。
 
まとめ:2011年のHIV感染者の報告数は減少し、2008年のピークを超えなかった。AIDS患者の報告数は増加が続き過去最多であった。わが国では、HIV感染者・AIDS患者ともに、日本国籍男性の同性間性的接触による国内での感染が多数を占め、HIV感染者は20~30代が多く、AIDS患者は特に30~40代の増加が続いている。地域別では、東京、大阪、愛知を中心とする地域に多いことに加え、九州など他の地域においても増加傾向にある。一方で、自治体が実施しているHIV検査件数は、2008年が最多で、その後減少している。国および各自治体においては、各々の感染者・患者発生の特徴を把握し、予防や早期発見の啓発とそれを推進する効果的な対策を立案・実施し、感染拡大の抑制・早期治療の促進を図る必要がある。対策が重要な男性同性愛者(特に増加が著しい20~40代)、青少年、性風俗産業従事者およびその利用者などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供、受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。なお、対策を講ずる際には、人権への配慮や、必要な関係者(企業、NGO、医療関係者、教育関係者等)と協力して実行することが重要である。
 

*HIV感染者:感染症法に基づく後天性免疫不全症候群発生届により、HIV感染症と診断されたものであって、症状がないもの(無症候性キャリア)またはAIDS指標疾患の基準を満たさない何らかの症状があるもの

**AIDS患者:初回報告時にAIDSと診断されたもの(既にHIV感染者として報告されている症例がAIDSを発症する等病状に変化を生じた場合は除く)

***病変報告:厚労省疾病対策課結核・感染症対策室長通知(平成7年4月1日健医感発第30号)において、既に報告されたHIV感染者あるいはAIDS患者に病状の変化(HIV感染者がAIDS発症または死亡、AIDS患者が死亡)があった場合に、「エイズ病原体感染者報告票(病状に変化を生じた事項に関する報告)」により報告を依頼しているもの(任意報告)

 

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