国立感染症研究所

logo40

<速報>成田空港検疫所で確定診断されたデング熱・チクングニア熱症例(2013)

(掲載日 2014/4/1) (IASR Vol. 35 p. 112- 114: 2014年4月号)

 

はじめに:検疫所では感染症法および検疫法の改正〔1998(平成10)年および2011(平成23)年〕により検疫法第13条に基づいて、検疫感染症としてのデング熱、チクングニア熱、マラリアに対する診察および血液検査が実施されている。成田空港検疫所で2013年にこれらの血液検査において陽性と確認された症例についてまとめたので報告する。

 

対象および方法:成田国際空港検疫所では2013年1月1日~12月31日までにマラリア、デング熱、チクングニア熱が疑われ採血の同意を得た有症者283名に対して血液検査が実施された。採血実施の基準は、流行地での滞在中に蚊に刺される危険性の高い状況にあり、かつ帰国時に、38℃以上の発熱または38℃未満であっても解熱剤を使用している場合で検疫感染症に感染しているリスクが高いと診断された有症者とした。デング熱についてはReal-time RT-PCR法および迅速NS1検査が、チクングニア熱に対してはReal-time RT-PCR法が、マラリアに対してはpLDH/HRP2 Combo Card 簡易試験および塗抹標本のアクリジンオレンジおよびギムザ染色での顕微鏡検査、Real-time PCRが実施された。健康相談記録票には、渡航地、渡航期間、蚊刺の有無などの基本情報と体温、自覚症状などが記述された。一部の検体では血球検査も実施された。

結 果:2013年に血液検査で、デング熱11例(男性5例、女性6例)、チクングニア熱3例(男性2例、女性1例)が陽性と判定された。マラリア検査での陽性例はなかった。年齢、性別などの基本情報を表1に示す。推定感染国は、デング熱ではタイ(3例)、ラオス(2例)、スリランカ(2例)、その他東南アジアおよび南アジアの国々であった。チクングニア熱3例も東南アジアからの帰国者であった。滞在期間はデング熱では10日間~在住(在住者を除く10例の中央値24日間)、チクングニア熱では6~15日間(中央値11日間)であった。蚊刺の自覚について、デング熱では4例が、チクングニア熱では1例が自覚なし、または不明であった。最初に症状を自覚してから検査までの発症病日はデング熱では1~10日までの幅がみられ、チクングニア熱では3日であった。

検査時の体温はデング熱では38℃以上、チクングニア熱も1例を除いて38℃以上であった(表2)。発熱以外の複数例でみられた自覚症状は、デング熱では倦怠感(7例)、頭痛・頭重感(8例)、眼窩痛(3例)、関節痛(3例)、嘔吐(3例)、下痢(2例)であった。チクングニア熱では倦怠感(3例)、頭痛・頭重感(2例)、関節痛(2例)であった。一部で血球検査も行われたが白血球は2,000~3,000/mm3を呈することが多く、デング熱で低下するといわれている血小板数は10万/ mm3未満を示した症例は2例(デング患者No.1:発症病日10日目、5.1/mm3、No.11:同5日目、5.7/mm3)であった。

考 察:2013年の1年間に血液検査でデング熱またはチクングニア熱が陽性と確認された症例は14例で、検疫感染症3疾患に対する臨床診断例のpositive predictive valueは4.9%であった。滞在中の蚊刺の既往を確認したところ、4症例ではその自覚が認められなかった。したがって、渡航地の流行状況および本人の活動様式など感染リスクに対する検討も重要であることが示された。

成田国際空港で発見されたデング熱およびチクングニア熱は大半の有症者が東南アジア~南アジアからの旅行者であった。また、この時期の検査件数(7~9月:128件)は他の時期の検査数(1~3月:52件、4~6月:46件、10~12月:57件)よりも多かったが、それ以上に7~9月の夏場に陽性者の割合が高かった。これらの傾向は中村ら1)が報告した感染者の傾向を支持するものである。デング熱やチクングニア熱は地域ごとに発生状況に違いのあることから、流行地域をもつ国に旅行する際に地域別の詳細な情報が待たれるところである。実際に一部では詳細な地域別の調査研究も行われている2)。また、国別の流行の情報は既に発信されており3)、渡航地の感染リスクへの認識を渡航者にも深めてもらうことが望ましい。

また、デング熱の3例で消化器症状を伴っていた。多くの有症者が39℃前後の高熱を発現しているために発熱、頭痛などの全身症状に注意を向けがちであるが、デング熱の症状としての消化器症状以外にも旅行者下痢症等との重複感染の可能性の確認も診断およびその後の対応を考える上で重要であることが示された。

一方、成田国際空港では3例のチクングニア熱が発見された。2013年の日本全国でのチクングニア熱は13例しか報告されておらず4)、249例の報告のあったデング熱に比べて検疫所での検出率は高いといえる。チクングニア熱は潜伏期間が約2~4日5)と、デング熱に比較し短いので日本到着時に発症する割合が高いためと推察された。一方、デング熱に比べてチクングニア熱は国内での認識度が低いために他のウイルス感染症として見過ごされている、または、軽症にとどまっていたために医療施設に行かず調査で捕らえられていない可能性も考えられる。しかしながら、デング熱での異なる型への感染、チクングニア熱での長期間持続する可能性のある関節痛の発現を考えれば、今後、海外での感染症流行状況を含め国内に向けての情報発信になお一層の努力が必要と思われた。

検疫所での発熱スクリーニングに現在サーモグラフィーが利用されている。類似する潜伏期間をもつインフルエンザに対するサーモグラフィーの有用性が報告されている6)ので、同様な発熱症状を呈するチクングニア熱にも、今後もその効果に注目して観察を継続していきたい。

世界ではデング熱、チクングニア熱とも患者数が増加している。両疾患の原因ウイルスを媒介するネッタイシマカは日本でも定着していた歴史があり7)、2012(平成24)年は成田空港でも幼虫が捕獲されている8)。また、日本にも生息するヒトスジシマカはデング熱やチクングニア熱を媒介する。日本での流行の潜在性は高まっていると思われる。今後も流行に関するきめ細やかな情報の収集と提供、患者の発見が重要である。

謝 辞:本報告にあたり、データをまとめ、資料の作成および有力な助言を与えてくれた浅沼克夫、小林雪子両氏をはじめとする検疫課職員、および検査課職員に厚くお礼申しあげます。

 

参考文献
1)Nakamura N, Arima Y, Shimada T, Matsui T, Tada Y, Okabe N, Incidence of dengue virus infection among Japanese travellers, 2006 to 2010, WPSR 3(2): 39-45, 2012
2)Nagao Y, Tawatsin A,Thammapalo S, Yhavara U, Geographical gradient of mean age of dengue haemorrhagic fever patients in northern Thailand, Epidemiol Infect 140(3): 479-490, 2012
3)Western Pacific Regional Office of the WHO, WPRO Dengue Situation Update, 23rd July 2013, available at http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/DengueSituationUpdates/en/index.html
4)Ministry of Health, Labour and Welfare/National Institute of Infectious Diseases, Infectious Diseases Weekly Report 52: 2013 available at https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2013/idwr2013-52.pdf 
5)Gubler DJ, "Dengue viruses", in Mahy BWJ, Van Regenmortel MHV, Desk Encyclopedia of Human and Medical Virology, Boston: Academic Press, pp. 372-382, 2010
6)Bitar D, Goubar A, Desenclos JC, International travels and fever screening during epidemics: a literature review on the effectiveness and potential use of non-contact infrared thermometers, Euro Surveill 14(6): pii= 19115, 2009
7)津田良夫, デング熱媒介蚊の生態(東南アジアを例として), IASR 25: 34-35, 2004
8)Sukehiro N, Kida N, Umezawa M, et al., First Report on Invasion of Yellow Fever Mosquito, Aedes aegypti, at Narita International Airport, Japan in August 2012, Japan J Infect Dis 66 (3): 189-194, 2013

 

成田空港検疫所  
 検疫課 牧江俊雄 本馬恭子 古市美絵子 磯田貴義  
 所 長 三宅 智

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version