2020年の新型コロナウイルス感染症流行開始以降、国内の麻しん症例報告数は年間10例以下に減少していましたが、2023年には28例へ増加しました。世界的にも麻しん症例報告数は増加しており、これまでも多くの症例が報告されていた地域だけでなく、麻しん排除を達成している英国や米国においてもアウトブレイクが確認されており、国内における輸入例の発生と輸入例を発端としたアウトブレイクの発生が懸念される状況となっています。2024年は、4月3日時点ですでに21例が東京都、岐阜県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県で確認されています。
感染症法に基づく疫学調査により、少なくとも13例に海外渡航歴があり、うち8例は同一の航空機を利用していたことが明らかとなっています。
なお、21例のうち10例(48%)は20歳代です。また、3例は入院したことが確認されています。麻しん含有ワクチン接種歴は、少なくとも17例(81%)が2回接種未完了者でした。
麻しんは空気感染を含む多様な感染経路を有する感染性の強いウイルス感染症で、予防接種が最も有効な予防法です。特に、1歳児(第1期)と小学校入学前1年間の小児(第2期)は定期接種の対象となっており、期間内に接種することが積極的に勧められます。また、医療従事者含め予防接種を2回受けていない方でり患したことがない方は、接種を検討ください。診療の際には、海外渡航予定のある方、渡航者と接する機会の多い方への2回の予防接種歴の確認をお願いします。
医療機関で麻しんの疑いがある方から相談を受けた際、受診を要する場合は、医療機関への移動は公共交通機関の利用を可能な限り避けるようにお伝えください。受診の際は、飛沫感染する他の疾患の可能性もあることから外出時からマスクの着用を促すとともに、麻しんの感染性の高さを考慮し、外来の待合室等の院内で他の患者と接触することがないように、速やかに個室管理体制(可能な場合は陰圧室)で診療を行ってください。
患者の対応にあたる職員は、麻しんウイルスに対する基準値以上の抗体陽性が確認されている者、あるいは2回の予防接種が記録により確認されている者に限定し、原則N95マスクを着用してください。麻しんウイルスに対する基準値以上の抗体陽性が確認されていない、あるいは2回接種が記録により確認されていない医療従事者は対応しないことが望ましいですが、やむを得ず対応せざるを得ない場合は、必ずN95マスクを着用してください。
発熱、発疹、結膜炎、上気道炎症状(咳嗽、鼻汁など)など臨床的に⿇しんを疑う、さらに海外渡航歴や予防接種歴等により麻しんの可能性が高い患者を診察した際は、感染症法に基づき、臨床診断をした時点で、直ちに最寄りの保健所に届け出てください。血清IgM抗体検査等の血清抗体価の測定とともに、地方衛生研究所等におけるPCR検査などのウイルス学的検査の実施が必要であり、保健所の求めに応じて検体(咽頭ぬぐい液、血液、尿)を提出してください。
麻しんを診断した場合は、学校安全保健法で、解熱後3日を経過するまでは出席停止の措置が必要とされており、その期間は可能な限り他者との接触を避け、公共交通機関や人の集まる施設を使用しないように指導下さい。
なお、疑い例も含めた麻しん対応時の詳細は、「医療機関での麻疹対応ガイドライン」を参考に感染対策を講じていただきますようお願いします。
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