※PDF版よりピックアップして掲載しています。
※PDF版よりピックアップして掲載しています。
logo40

弁当を原因食品とするA群溶血性レンサ球菌集団食中毒事例―岐阜市

(IASR Vol. 34 p. 268-269: 2013年9月号)

 

2013年6月に岐阜市内の飲食店が調製した弁当を原因食品とする食中毒疑い事例が発生し、疫学調査および病因物質検査を実施した。その結果、A群溶血性レンサ球菌による集団食中毒であると判明したのでその概要を報告する。

事例概要:2013(平成25)年6月28日に岐阜県関市内の病院で開催された医療関係者の勉強会に参加し、提供された弁当を喫食した複数の参加者が体調不良を訴えたため、同病院内で簡易検査を実施したところ、溶血性レンサ球菌が検出された旨、同病院から岐阜県関保健所に連絡があった。弁当を調製したのは岐阜市内の飲食店であったため、7月1日、岐阜県関保健所から岐阜市保健所に通報があり、調査を開始した。

調査の結果、6月26~30日に当該飲食店が調製した弁当を喫食したり、当該飲食店で食事をした8グループ190名のうち143名が有症者だった(発症率75.3%)。主な症状は、のどの痛み、発熱(平均38.5℃)、倦怠感で、潜伏時間は、4.5~74時間(平均28.7時間)だった。有症者および調理従事者の咽頭ぬぐい検査を実施したところ、検査を行った4グループの有症者24名中16名、調理従事者5名中1名からA群溶血性レンサ球菌が検出された。岐阜市保健所は、7月2日、当該飲食店が提供した弁当を原因とする食中毒と判断し、当該飲食店を5日間(平成25年7月2日~7月6日)の営業停止処分とした。

検査結果:有症者の咽頭ぬぐい液10検体、調理従事者の咽頭ぬぐい液5検体、調理従事者の手指のふきとり1検体、調理場のふきとり4検体、食品残品8検体を対象に、A群溶血性レンサ球菌について検査を実施した。検体を血液寒天培地に直接塗抹し37℃、5%CO2下にて、24~48時間培養した。血液寒天培地上でβ溶血環を示したコロニーについて、グラム染色、カタラーゼ試験を実施し、BHI brothでの液体培養所見を確認した。さらにアピストレップ20(biomerieux)にて、菌種の同定を行った。その結果、調理従事者5検体中1検体、有症者の咽頭ぬぐい液10検体中6検体からStreptococcus pyogenesが検出された。調理場および手指のふき取り5検体、食品残品8検体からS. pyogenesは検出されなかった。

岐阜市分離株7株(うち調理従事者由来1株、有症者由来6株)および岐阜県分離株10株(すべて有症者由来株)について群の決定、T型別、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行った。連鎖球菌キットストレプトLA「生研」(デンカ生研)で群分けを行ったところ、すべてA群であった。T型は、T型別用免疫血清(デンカ生研)を使用して型別し、すべてTB3264型であった。PFGEによる解析の結果、制限酵素Sma I およびSfi I によるPFGEパターン(図1)がそれぞれ一致し、同一由来株であることが考えられた。

考察:今回、有症者が複数の医療関係者であったため、溶血性レンサ球菌の簡易検査が速やかに行われ、溶血性レンサ球菌による集団食中毒と判明したが、通常消化器系以外の症状の場合は食中毒であることは見過ごされる可能性がある。本事例は原因菌が最初に判明していたため、速やかに調査および検査を実施することができた。

調理従事者から分離されたS. pyogenes と有症者から分離されたS. pyogenes はT型別、PFGEの解析結果により同一と考えられる。食中毒防止のため、調理従事者の健康管理および食品の衛生的な取り扱いが重要である。

最後に検査法について助言していただきました岐阜県保健環境研究所の関係各位に深謝します。

 

岐阜市衛生試験所  
    土屋美智代 中山亜由美 日比奈央実 松原祐子 田中保知  
岐阜市保健所食品衛生課   
    各務政志 西部尚史 加納康光

logo40

石垣島内複数の保育所等で発生したA群ロタウイルスによる集団感染性胃腸炎事例―沖縄県

(IASR Vol. 34 p. 264-265: 2013年9月号)

 

2013年5~7月に沖縄県石垣島内26カ所の保育所および児童館等の放課後児童が利用する施設(以下、保育所等)において、A群ロタウイルス(RVA)による感染性胃腸炎事例が発生した。沖縄県ではこれまで経験したことがない大規模なRVA集団感染となった本事例について、その概要を報告する。

2013年5月14日に沖縄県八重山保健所は、石垣島内の1カ所の保育所から10名以上の集団感染性胃腸炎が発生していると報告を受けた。さらに24日までに2カ所の保育所から同様の報告を受けた。八重山保健所は報告を受けた3保育所への感染対策の指導を行うと同時に、6月4日に石垣市と共に島内全保育所等を対象とした胃腸炎発症者数調査を行った。その結果、5月1日~6月10日の間に、島内43カ所の保育所等のうち19カ所で感染性胃腸炎が発生していることが明らかとなった。医療機関への聞き取りにより簡易キットによる迅速検査で小児患者がRVA陽性を示しているとの情報を得たことから、本事例はRVAによる集団感染性胃腸炎と考えられた。八重山保健所および石垣市は6月13日に保健所管内の保育所等施設長を対象に衛生講習会を実施するとともに、胃腸炎発症者数調査を継続したところ、7月13日までに新たに7カ所の保育所等から患者の報告があった。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生したこととなり、そのうち9カ所の保育所等では10名以上の集団感染となった。また小児28名が入院、そのうち2名が脳症を発症した。

八重山保健所管内に2カ所ある小児科定点から報告される2013年の感染性胃腸炎患者発生状況を図1に示す。石垣島内の小児科専門医はこれら2カ所の定点医療機関に限定しており、小児患者の大部分が受診していると考えられる。感染性胃腸炎患者は第19週(5/6~5/12)までは各週10名以下、合計68名が報告された。しかし、保育所等における集団発生が報告された第20週(5/13~5/19)に患者報告数が急増し、第20~31週(5/13~8/4)の間に220名の患者が報告された。衛生講習会が開催された第24週(6/10~6/16)から患者数の減少がみられることから、衛生講習会が感染拡大防止に寄与したことが考えられた。第20~31週の年齢別感染性胃腸炎患者報告数を図2に示す。1~2歳が220名中105名で47.7%を占め、流行の中心であったことが示された。

沖縄県衛生環境研究所において、簡易キットによりRVA陽性と診断された小児5名および大人1名、計6名の患者便について、Gouveaら1)およびWuら2)が報告したVP7およびVP4遺伝子を標的としたプライマーを用いてRT-PCR法によるRVAの検出を実施したところ、患者6名(100%)からいずれの遺伝子も検出された。そのうち小児3名と大人1名から得られたVP7VP4遺伝子のPCR産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定したところ、いずれもG1P[8]型に遺伝子型別され、DDBJのBlast検索ではVP7VP4遺伝子ともにRVA/Human-wt/USA/2007719635/2007/G1P[8] (VP7; JN258368、VP4; JN258371)と最も高い相同性を示した。

RVAは小児の感染性胃腸炎の主要な病原体であり、非常に感染力の強いウイルスである。RVAによる小児の重症化や成人の集団感染性胃腸炎も報告されている。本事例では島内の半数以上の保育所等で感染性胃腸炎が発生し、10名以上の児童が発症した保育所等もみられた。流行期間中に入院した小児のうち2名が脳症を発症した。1~2歳が流行の中心であったが、一部では保育所等職員や児童の父母への感染があったとの報告もあり、流行期間中に胃腸炎を発症した大人1名から小児と同じ遺伝子型のRVAが検出された。八重山保健所管内の感染性胃腸炎患者報告数は第29週(7/15~7/21)以降、各週1名以下となり、本事例はほぼ終息したと考えられる。保育所等における感染対策としては、日頃からの衛生対策、乳児へのワクチン接種によるRVA感染対策、さらには保育所等職員や児童の家族内での感染防止が重要である。

八重山保健所は感染性胃腸炎発生のあった複数の保育所等間の児童や家族が接触する場として共通のものがなかったか調査したが、感染を拡大させた要因として明確なものは見出せなかった。沖縄県内のRVA流行状況は不明な点が多く、本事例が島内で既に流行していた株が保育所等に持ち込まれたことにより発生したのか、島外から持ち込まれた株により発生したのかは不明である。それを明らかにするためには、継続した患者および病原体サーベイランスが重要と考えられた。

 

参考文献
1)Gouvea, et al., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
2)Wu, et al., Epidemiol Infect 112: 615-622, 1994

 

沖縄県衛生環境研究所   
    仁平 稔 久場由真仁 加藤峰史 喜屋武向子 新垣絵理 高良武俊 岡野 祥 久高 潤
沖縄県八重山保健所   
    前津政将 桑江沙耶香 饒平名長令 大屋記子 宮川桂子

logo40

山口県の一医療機関における重症熱性血小板減少症候群症例の接触者調査

(IASR Vol. 34 p. 269-270: 2013年9月号)

 

山口県在住の成人患者が発熱、嘔吐、下血を伴う下痢を発症、2012年秋に山口県内の病院に入院し死亡した。その後の検査で国内初の重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)の患者であることが確認された1)。SFTSは主にマダニ咬傷により感染すると考えられているが、中国ではSFTS患者の血液との直接接触によると思われるヒトからヒトへの感染事例、院内感染事例も報告されている2-6)。また、中国での研究では健常者でのSFTSウイルス(SFTSV)抗体保有率は 0.8~ 1.3%と報告されており、低頻度ではあるが不顕性感染もあると考えられている7,8)。当該患者の周辺で勤務していた医療従事者の中で明らかな有症状者は報告されていないが、彼らはSFTSVに曝露された可能性があり、未発症あるいは症状が軽い感染者がいた可能性も否定できない。そこで、患者と接触した医療従事者における感染の広がりを把握するために、患者と最も濃厚な接触があったと考えられる病院において接触者の調査を施行した。 接触者は患者の体の一部と触れた人、患者の血液・痰・尿・便と接触した人、飛沫・飛沫核を産生する医療行為に関わった人、患者病室へ入室した人と定義した。患者の入院期間に患者周辺で勤務していた医療従事者の中から接触者を割り出した。その後、接触者には2013年6月に自記式質問紙による接触状況調査と血清抗体価測定を行った。血清抗体価は国立感染症研究所ウイルス第一部にて、SFTSV感染Vero細胞(HB29 strain)を抗原とした間接蛍光抗体法で測定した。

この病院において患者周辺で勤務していた医療従事者144人のうち、接触者は合計31人であった。その接触状況と予防策の実施状況を表1に示す。接触者31人の血清SFTSV抗体は全例陰性であった。しかし、標準予防策が十分でない状態で血液、痰、尿、便に触れた、或いは飛沫・飛沫核を産生する行為でマスクや目の防護具を装着しなかった人が存在していたことも判明した。

患者体液に曝露された人でもSFTSVは感染していなかったが、調査対象者が少ないため、本調査のみからSFTSVの感染性に関する結論を導くことはできないと考えられた。SFTSは致死率の高いウイルス性出血熱の一つであると考えられており、中国ではSFTSVが患者との濃厚な接触でヒト-ヒト感染が報告されていること2-6)、SFTS患者ではウイルスが血液のみならず尿・便等の体液からも検出されること9)なども合わせて考えると、普遍的な対応として医療機関において標準予防策を適切・確実に実施する体制を強化し、さらにウイルス性出血熱への予防策に準じて、標準予防策に加え接触、飛沫予防策とフェイスシールドを使用することが望ましい。また、保健当局は医療機関と協力して濃厚接触者における感染対策の実施状況を早期に確認し、必要時には速やかに実地疫学調査を実施することが望ましい。

 

参考文献
1) IASR 34: 40-41, 2013
2) Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249-252, 2012
3) Tang X, et al., J Infect Dis 207: 736-739, 2013
4) Liu Y, et al., Vector borne Zoonotic Dis 12: 156-160, 2012
5) Chen H, et al., Int J Infect Dis 17: e206-208, 2013
6) Bao C, et al., Clin Infect Dis 53: 1208-1214, 2011
7) Zhao L, et al., Emerg Infect Dis 18: 963-965, 2012
8) Cui F, et al., Am J Trop Med Hyg 88: 510-512, 2013
9) Zhang Y-Z, et al., Clin Infect Dis 54: 527-533, 2012

 

山口県立総合医療センター血液内科 
     高橋 徹 石堂亜希
山口県立総合医療センター感染対策室  
     田中智子 井上 康        
国立感染症研究所ウイルス第一部  
     福士秀悦 下島昌幸 西條政幸        
国立感染症研究所感染症疫学センター  
     山岸拓也 中島一敏 大石和徳

logo40

神奈川県の高齢者施設で発生した血清型3による肺炎球菌性肺炎の集団感染事例

(IASR Vol. 34 p. 270-271: 2013年9月号)

 

背 景
肺炎球菌は高齢者肺炎の主要な呼吸器病原菌である1)。肺炎球菌性肺炎の多くは散発性に発生するが、保育所や病院、軍隊などの閉鎖空間において集団発生する事例が報告されている2-4)

今回神奈川県内の高齢者施設内で発生した肺炎球菌性肺炎の集団発生事例の臨床細菌学的調査を行ったので報告する。

事例概要
2013(平成25)年3月28日から約1カ月の間に、県内の高齢者施設の同一階に入所していた31名のうち10名が肺炎で入院し、ほかに16名が上気道炎症状を発症した。同期間中に施設職員30名中11人にも上気道炎症状が認められた。

調査および結果
全入所者および職員の基本情報を、標準調査票を用いて収集した。肺炎入院症例については病院診療録から臨床情報を収集した。

事例の発生した階の入所者(n=31)は74%が女性で、年齢中央値は84歳であった。81%は認知症患者であった。入所者の87%に2012/13シーズンのインフルエンザワクチンが接種されていたが、23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPV23)は入所者の7%にしか接種されていなかった。 肺炎症例(n=10)は80%が女性で、年齢中央値は87.5歳であった()。全例にインフルエンザワクチンの接種が行われていたが、PPV23は接種されていなかった。1例が併発した心不全の増悪のため死亡した。

10例の肺炎症例中5例の喀痰から肺炎球菌が分離同定され、ほか2例の尿中から肺炎球菌抗原が検出された。また、同期間中に上気道炎症状を呈した入所者16例中3例から咽頭ぬぐい液を採取したところ、1例から肺炎球菌が分離同定された。これらの肺炎球菌株(n=6)について、微生物学的検査を行ったところ、いずれもペニシリン感受性(PSSP)で血清型は3型であった。制限酵素Sma Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法では()、同一のDNAパターンを示した。Multilocus sequence typingによる遺伝子型はST180であった。

集団発生の探知後、感染防止対策として、外出・外泊・面会の制限、入所者・職員のマスク着用、うがい・手洗いの励行、入所者全員の体温測定による発症者の早期発見、および発症者の居室分離などの措置を講じた。その結果、4月25日以降は新たな発症者は認められず、集団発生は終息した。

6月に入所者と職員全員を対象とした肺炎球菌の保菌調査を行ったところ、職員1名の鼻腔ぬぐい液より肺炎球菌が分離同定されたが、血清型は38であった。7月に入所者に対してPPV23の接種を施行した。

考 察
本事例は、高齢者施設で発生した肺炎球菌血清型3の同一株による集団発生である。1カ月という短期間に、同一階の入所者の8割以上が上気道炎症状を発症しており、呼吸器ウイルスの集団感染が先行していた可能性が考えられる。

高齢者の肺炎、とくに肺炎球菌性肺炎は生命予後に影響するだけでなく、日常生活動作(ADL)低下および介護負担の増加につながる。超高齢化社会を迎えるわが国において、肺炎球菌感染予防対策は重要な課題であり、PPV23接種率の向上を含め、有効な公衆衛生対策が必要である。

 

参考文献
1) Loeb M, Clin Infect Dis 37: 1335-1339, 2003
2) Cherian T, et al., JAMA 271: 695-697, 1994
3) Millar MR, et al., J Hosp Infect 27: 99-104, 1994
4) Crum NF, et al., Am J Prev Med 25: 107-111, 2003

 

神奈川県茅ヶ崎保健福祉事務所  近内美乃里 相原雄幸       
神奈川県衛生研究所微生物部  渡辺祐子 大屋日登美 古川一郎 黒木俊郎       
長崎大学熱帯医学研究所臨床感染症分野  鈴木 基 森本浩之輔       
国立感染症研究所細菌第一部  常 彬 大西 真       
国立感染症研究所感染症疫学センター  大石和徳       
寒川病院・長崎大学熱帯医学研究所  臨床感染症分野 石田正之

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan