国立感染症研究所 実地疫学研究センター・同感染症疫学センター・同細菌第二部

2023年1月5日現在

(掲載日:2023年12月15日)

 百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)の気道感染により、約7~10日間の潜伏期間を経てカタル症状を呈して発症する。その後長く続く咳嗽に加え、連続性の咳嗽発作や咳嗽後の嘔吐、吸気性の笛声(whoop)といった特徴的な症状を呈する。合併症として二次性の肺炎やけいれん、脳症などを発症することがあり、特にワクチン未接種の乳幼児が罹患すると重篤化し易い。新生児やワクチン未接種の乳児が発症すると咳が明確でないまま重篤な無呼吸発作などを起こし、それに伴いチアノーゼやけいれんを認めることがある。呼吸管理のため入院加療となった症例や死亡例も報告されてきた1)

 2017年12月31日まで、百日咳は感染症法上の5類感染症定点把握対象疾患であった。全国約3,000の小児科定点医療機関において診断された百日咳患者の年齢(群)、性別が毎週報告され、小児における年別・性別分布、流行状況などを把握する重要な情報源として活用されてきた。しかし、小児科定点からの報告では成人症例や定点医療機関の診療圏外で発生した集団感染例を把握することが困難であった。また、届出基準として臨床診断(2週間続く咳嗽と特徴的な咳嗽)のみが定められていたため、重症例でありながら咳嗽の期間が短く届出基準を満たさない症例は報告の対象外となっていた。その他、感染源や予防接種歴などの情報が報告に含まれないなどの課題があり、百日咳の疾病負荷全体を評価する報告システムが必要であった2)

 より正確な国内の百日咳の把握の必要性が高まるなか、わが国では2018年1月1日から国内の百日咳サーベイランスはすべての医師が届出を行う5類全数把握対象疾患へと変更された。全数把握対象疾患としての届出基準は百日咳の臨床的特徴を有するもの(百日咳に特有な咳嗽、白血球数増多、肺炎、痙攣、脳症)を診察した結果百日咳を疑い、かつ検査診断により百日咳と診断した場合である。特異度の高い検査法として、遺伝子検査の1つである百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)が開発され3)、同検査の健康保険適用認可などの環境も整ったことがその背景にあった。なお、前述のように、届出にあたっては原則として検査診断が求められている。2021年6月3日からは、イムノクロマト法による病原体の抗原の検出が届出基準に追加された4)

 全数把握対象疾患への変更に伴い、サーベイランスの充実を図るため、届出の手順や最適な検体の採取時期などを示したガイドラインが作成され、現在は「感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)(以下、届出ガイドラインと略す。)」5)として示されている。本稿においては、2022年1月3日から2023年1月1日まで(2022年第1週から第52週まで)に診断された百日咳のサーベイランス結果のまとめを還元することを目的とする。なお、過去のまとめについては国立感染症研究所、百日咳のウェブサイトを参照のこと(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/pertussis.html)。

 2022年1月3日から2023年1月1日までに感染症発生動向調査(NESID)へ499例の百日咳の報告があった(2023年1月5日現在)。全届出症例499例のうち、百日咳患者の都道府県別人口10万人あたりの報告数は、徳島県(9.4例)が最も多く、次いで福島県(2.5例)、宮崎県(1.4例)であった。

  感染症法上の届出基準を満たし、かつ届出ガイドラインに合致するとみなされた患者は469例(94%)であった。以下は、特記しない限り届出ガイドラインの基準を満たした患者について述べるものである。2022年の患者報告数は2021年(712例)より減少した(図1)。

 

図1. 2018年~2022年診断週別百日咳報告数*

(*)百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)に則った症例のみを抽出 https://www.niid.go.jp/niid/ja/pertussis-m/610-idsc/10875-pertussis-guideline-211228.html

 

図2. 百日咳症例の年齢分布と予防接種歴(2022年第1週~第52週(診断週))(n=469*)

(*)百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)に則った症例のみを抽出

 

 百日咳患者の年齢分布並びにワクチン接種回数を図2に示す。初回ワクチン接種前の時期を含む6か月未満児(3%)、6か月から5歳未満までの小児(25%)、5歳から15歳未満までの学童期の小児(27%)、さらには小児科定点報告では把握できていなかった20〜30代の成人(19%)においても患者が散見された。全体の42%に当たる196例に4回の百日せき含有ワクチン接種歴があり、5~15歳未満がその51%(100/196例)を占めた。

 検査診断方法について複数の検査方法の記載がある場合、診断の確からしさに基づいて分離同定>遺伝子検査>ペア血清>単一血清抗体価高値>イムノクロマト法、の順に一つの診断方法を選択した(今回の更新情報でイムノクロマト法以外の診断方法を優先した理由については後述)。そのうち、全届出症例499例では、単一血清抗体価高値とイムノクロマト法がそれぞれ45%であった。血清抗体価に基づく診断では、ペア血清を用いることが望ましいが、ペア血清による有意な抗体価上昇で診断された患者は1%であった。その他、百日咳菌の分離同定2%、遺伝子検査5%、臨床診断に加えて疫学的リンクありの患者は2%であった。単一血清抗体価高値のみで診断、報告された全227例のうち、届出ガイドラインの基準を満たす検査結果(抗PT-IgG抗体100 EU/mL以上、百日咳IgM/IgA抗体のいずれか、あるいは両方陽性)に基づいた報告例は199例(88%)であった。実施された検査方法の年齢別割合をみると、15歳未満ではイムノクロマト法の実施割合が高く、15歳以上では単一血清抗体価による診断例の割合が50%以上と高かった(図3)。各種検査法については、発症日からの経過期間に基づいて推奨されるそれぞれの検査法を選択することが重要であり、詳細は届出ガイドラインを参照されたい5)。なお、国内で保険収載されている百日咳菌LAMP法は、感度・特異度が高いうえに迅速に結果を得ることができるため、百日咳の早期診断において積極的に活用することが推奨される。

 

図3. 年齢群別の検査診断法の割合(2022年第1週~第52週(診断週))(n=469*)

(*)百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)に則った症例のみを抽出

 

 全届出症例のうち、重症化のリスクが高い6か月未満児の患者は、報告対象期間に14例の報告があった。このうちワクチン未接種者が7例(50%)存在し、1回目の百日せき含有ワクチン接種前の時期に当たる3か月未満児の症例が6例(43%)含まれていた。また、6か月未満児の症例において推定される感染源は、同胞が最も多く(43%)、次いで母親(14%)であった。感染源不明の症例は半数を占めた(家族内不明7%、不明43%)(推定感染源の重複あり)。診断方法はイムノクロマト法が12例(86%)で最も多く、次いで遺伝子検査2例(14%)であった(2022年はこの年齢群に国際的に推奨されていない血清学的診断例は認めなかった)。症状・所見としては、肺炎1例 (7%)があった。入院歴の記載があった症例は、6か月未満児の症例では1例(7%)であり、生後6か月以上の症例では7例(1%)であった。6か月未満の患児の感染源の多くが兄姉であったことから、これらの年齢層、特に学童期における百日せき含有ワクチンの追加接種等の対策の必要性が示唆された。

 百日咳のサーベイランスが原則として検査診断による全数報告に変更され、5年が経過した。小児科定点サーベイランスでは情報が不十分であった成人の百日咳や、診断方法、予防接種歴、さらには重症化のリスクが高い6か月未満児症例の感染源に関する情報が得られた。2022年の年齢別報告数では四種混合ワクチンを4回接種して間もない小児の患者の割合が大きくなっていた。この疫学的変化は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による行動変容が大きく影響していると考えられた。COVID-19対策として、「人と人の距離の確保」「マスクの着用」「手洗いなどの手指衛生」などの感染対策の実施が推進された6)ことにより、大幅に百日咳患者数が減少した一方、対策が実施しにくい年齢群の患者数の減少幅が小さかったため、相対的にこの年齢群の患者割合が増えたと考えられた。また、検査診断法におけるイムノクロマト法の割合は、2021年には全届出症例746 例中208例(28%)であったが、2022年は全届出症例499例中224例(45%)と増加した。本検査法は利便性が高い一方で、百日咳菌以外のBordetella属細菌等に交差反応を示すほか、患者検体にhuman anti-mouse antibody(HAMA)が含まれる場合にも陽性となる可能性が指摘されるなど注意が必要である7)。2023年以降は、新しい検査法の普及に加え、COVID-19の行動制限の緩和、個人判断による感染対策等により百日咳の発生動向が変化する可能性が高い。現行の全数報告の維持と詳細なデータの分析、それらの情報に基づいた予防策の提言および実施を引き続き行うことが重要である。

 なお、感染症発生動向調査における届出基準、特に百日咳の届出ガイドラインにおける基準は、サーベイランスとして標準的な診断による患者報告を収集するためのものであり、臨床現場において医師が患者個々に対して行う診断とは異なることがあることに留意されたい。

 

関連資料

2022年第1週から第52週(*)までにNESIDに報告された百日咳患者のまとめ(2022年第52週週報データ集計時点 )

 

【参考文献】

1.Kilgore PE, Salim AM, Zervos MJ, Schmitt HJ. Pertussis: Microbiology, Disease, Treatment, and Prevention. Clin Microbiol Rev. 2016. 29: 449-86.

2.国立感染症研究所「百日せきワクチンファクトシート」平成29(2017)年2月10日

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000184910.pdf

3.Kamachi K, Toyoizumi-Ajisaka H, Toda K, Soeung SC, Sarath S, Nareth Y, Horiuchi Y, Kojima K, Takahashi M, Arakawa Y. Development and evaluation of a loop-mediated isothermal amplification method for rapid diagnosis of Bordetella pertussis infection. J Clin Microbiol. 2006. 44:1899-902.

4.厚生労働省健康局結核感染症課長「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について」の一部改正について 令和3年6月3日

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000788097.pdf

5.百日咳 感染症法に基づく医師届出ガイドライン(第二版)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/pertussis-m/610-idsc/10875-pertussis-guideline-211228.html

6.新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針令和2年3月 28 日(令和2年5月 14 日変更)新型コロナウイルス感染症対策本部決定

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/kihon_h_0514.pdf

7.Kenji Okada, Yuho Horikoshi, Naoko Nishimura, Shigeki Ishii, Hiroko Nogami, Chikako Motomura, Isao Miyairi, Naoki Tsumura, Toshihiko Mori, Kenta Ito, Shinichi Honma, Kensuke Nagai, Hiroshi Tanaka, Toru Hayakawa, Chiharu Abe, Kazunobu Ouchi Clinical evaluation of a new rapid immunochromatographic test for detection of Bordetella pertussis antigen Sci Rep. 2022; 12

 

 


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国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学センター
2023年2月3日現在
(掲載日:2023年12月14日)

 

カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症は、2014年9月19日より感染症法に基づく5類全数把握対象疾患となった。届出対象はCREによる感染症を発症した患者であり、保菌者は対象外である(届出基準、届出票についてはhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-140912-1.html参照)。なお、感染症法に基づく届出の基準として示されたCREの判定基準値は病院で用いられている判定基準値と異なることがある(文末参考)。

2023年2月3日現在、2021年第1週~第52週(2021年1月4日~2022年1月2日)にCRE感染症と診断され、報告された症例は2,066例であり(図1)、うち届出時点の死亡例は49例(2%)であった。報告数は、2019年は2,333例と過去最多であったが、2020年は1,956例へ減少し、2021年は2,066例であった。

男性が1,292例(63%)、診断時の年齢中央値は77歳(四分位範囲 68-85)、70歳以上の症例は1,493例(72%)であった。診断名は、尿路感染症 696例(34%)、菌血症・敗血症 519例(25%)、肺炎406例(20%)の順に多かった(表1)。菌が分離された検体は、尿613例(30%)、血液579例(28%)、喀痰 368例(18%)の順に多かった(表2)。2019年から2021年の3年間において、診断名および菌が分離された検体の内訳は同様の傾向であった。分離された菌種は、Klebsiella aerogenes 800例(39%)、Enterobacter cloacae 514例(25%)、Klebsiella pneumoniae 215例(10%)、Escherichia coli 128例(6%)の順に多く報告された(表3)。これらの4菌種が多く報告される傾向は、2019年から2021年の3年間で同様であった。薬剤耐性の確認に用いた薬剤名の記載があったのは1,992例(96%)で、メロペネムの基準のみが432例 (22%)、イミペネムかつセフメタゾールが1,037例 (52%)、両方が記載されていたものが523例(26%)だった。2021年は、全ての都道府県から報告があり、東京都 (208例)、大阪府(186例)、愛知県(160例)の順に多く報告されていた。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(令和5年厚生労働省令第79号)により、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症からカルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症へ名称変更 (https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001101196.pdf

診断名は症状として報告された情報を用い集計した

 

鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応

2022年4月22日現在
2023年12月8日一部更新
国立感染症研究所

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更新点

 2023年12月8日 「日本人渡航者が感染するリスク」内に受診時に鳥類との接触歴を伝える必要性について追記

 

目次

  •    背景
  •    疫学的所見
     1)事例の概要
     2)臨床情報
     3)感染源・感染経路
  •    ウイルス学的所見
  •    日本国内の対応
  •    リスクアセスメントと今後の対応

 

背景

 A型インフルエンザウイルス(H7N9亜型)(以下、H7N9ウイルス)は、家きんや野鳥で流行していた少なくとも3種類の異なるA型インフルエンザウイルスの遺伝子再集合体であると考えられ (Liu WJ, 2021)、ヒトに感染すると重篤な症状を来し得ることが報告されている(CDC, 2017)。中国における2018-2019年シーズン以降のH7N9ウイルスの感染者数は1例のみであった。2018-2019年シーズン以降の状況について疫学情報及びリスクアセスメントを更新する。

 

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インフルエンザ抗体保有状況 -2023年度速報第1報- (2023年11月21日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種開始前、流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
  わが国におけるインフルエンザワクチンは、2015/16シーズンからA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統と山形系統)の4つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした4価ワクチンが用いられている。本稿では今シーズン(2023/24シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスに関する抗体保有状況のまとめと検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2023年度の調査は、16都道府県から各198名、合計3,168名を対象として実施されており、2023年11月21日までに入手できた8道県の速報データについて報告する。 インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2023年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつ当該シーズンのワクチン接種前)とした。

a)A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)亜型]
b)A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Austria(オーストリア)/1359417/2021 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示している。
 

2. 調査結果
 2023年11月21日現在、北海道、栃木県、新潟県、福井県、長野県、三重県、愛媛県、沖縄県の8道県から合計1664名の結果が報告された 。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:94名、5-9歳群:74名、10-14歳群:65名、15-19歳群:112名、20-24歳群:142名、25-29歳群:188名、30-34歳群:215名、35-39歳群:126名、40-44歳群:122名、45-49歳群:118名、50-54歳群:127名、55-59歳群:136名、60-64歳群:94名、65-69歳群:45名、70歳以上群:6名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 今シーズンのA(H1N1)亜型のワクチン株は2022/23シーズンのA/ビクトリア/1/2020から変更された。本調査株に対する1:40 以上のHI抗体保有率は、全年齢群で2022/23シーズン前の結果と比べ非常に低く、15-19歳群の11%を最大としてその他の全年齢で10%以下(0-10%)となった。

A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]:図1下段
  今シーズンのA(H3N2)亜型のワクチン株は昨シーズンから変更されておらず、2年連続同じ株となっている。1:40以上のHI抗体保有率は10-14歳群で37%、35-39歳群で47%、70歳以上群で50%となだらかな多峰性を示し、5歳以上においては多くの年齢群でおおむね30%以上であった。0-4歳群の抗体保有率は10%と2022/23シーズン前の結果とほぼ変わらず低かった。

B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
  B型(山形系統)のワクチン株は2015/16シーズンから変更されていない。0-4歳群でHI抗体保有率が1%と最も低い割合を示した。2022/23シーズン前と同様に、抗体保有率の最も高い年齢群は30-34歳群であったが、14歳以下の年齢群では2022/23シーズン前の結果より大幅に低下していた。35歳以上では抗体保有率が30%以上となり概ね2022/23シーズン前の結果より高かった。

B/Austria(オーストリア) /1359417/2021[B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 B型(ビクトリア系統)のワクチン株は2022/23シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は55歳以上で抗体保有率30%以上を示した。その他の年齢群ではすべて30%未満であったが、2022/23シーズン前の結果と比較して、15歳以上の年齢群では高かった。しかし、14歳以下では0-4歳群で0%、5-9歳群で1%、10-14歳群で6%と低い抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株が変更となり、A(H3N2)亜型、B型山形系統、B型ビクトリア系統では変更がなかった。本調査では、これら4つのワクチン株抗原に対するHI抗体保有状況を調査している。今後、検査データが追加され変化すると予想されるが、抗体保有率の低かった2022/23シーズン前よりA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株に対する抗体保有率が低く、際立っていた。
   2023/24シーズンにおける2023年11月21日時点でのインフルエンザウイルス分離・検出報告数は、2023年37週に130件と最も多く報告され、その後は減少し、46週と47週では報告数は0となっている (https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html インフルエンザウイルス シーズン別週別 2019/20~2023/24シーズン data2j.csv 11月22日時点、
参考グラフ:https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/inf3/2019_36w/sinin1_231116.gif  11月22日アクセス )。
 また、感染症発生動向調査において、2023年第45週の定点当たりのインフルエンザ報告数は17.35(患者報告数85,766)、前週以前は44週定点当たり報告数21.13(患者報告数10,3631)、43週定点当たり報告数19.68(患者報告数9,7356)となり既にインフルエンザシーズンに突入している。今後の推移については不確定であるが、例年の傾向として今後さらに患者数が増加する可能性示唆される。抗体保有率の低い年齢層においては注意が必要である。特に0-4歳群での抗体保有率の低値が懸念される。
  今回の結果は2023年度速報第1報で11月21日時点の暫定値であることに注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター

 

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インフルエンザ 2022/23シーズン

(IASR Vol. 44 p165-167: 2023年11月号)
 

2022/23シーズン(2022年第36週~2023年第35週)のインフルエンザは, 報告が非常に低調であった過去2シーズンとは異なり, 全国的な流行開始の指標である1.00を上回る定点当たり報告数を認めた。

 

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高齢で発症し, 完全閉じ込め症候群を呈したボツリヌス症の一例

(IASR Vol. 44 p184-185: 2023年11月号)
 

ボツリヌス症はボツリヌス菌毒素により, 神経筋伝達が阻害されることで発症する麻痺性疾患であり, 病態により食餌性ボツリヌス症(ボツリヌス食中毒), 乳児ボツリヌス症, 創傷ボツリヌス症, 成人腸管定着ボツリヌス症に分類される1)。ボツリヌス症は全数の届出が義務付けられている感染症であるが, 届出報告は稀であり, しばしば医療機関においても行政機関においても対応が難しい。今回, 発症10日目に完全閉じ込め症候群(totally locked-in syndrome: TLS)を呈し, 発症から診断までに1カ月を要したボツリヌス症例を報告する2)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan