Kayama S, Yahara K, Sugawara Y, Kawakami S, Kondo K, Zuo H, Kutsuno S, Kitamura N, Hirabayashi A, Kajihara T, Kurosu H, Yu L, Suzuki M, Hisatsune J, Sugai M
Nat Commun. 2023 Dec 5;14(1):8046.
doi: 10.1038/s41467-023-43516-4.
日本全国を対象とした薬剤耐性菌のサーベイランスとして厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業JANISがある。JANISは3,000以上の参加医療施設で分離された細菌の薬剤感受性データを集計しているが耐性菌の遺伝情報を得ることはできない。そこで、日本における薬剤耐性菌の実態をゲノムレベルで明らかにすることを目的として、JANISにリンクして耐性菌を収集する日本初の全国ゲノムサーベイランスを実施した。その結果、4,195株のゲノム情報と、統一規格にて再測定されたMIC値を公開した。この研究により、大腸菌、肺炎桿菌の第三世代セファロスポリン耐性メカニズムの完全な分類が可能となり、その過程で各blaCTX-MやAmpC β-ラクタマーゼを保有するプラスミドの特徴を明らかにした。また、3つの主要なカルバペネマーゼ遺伝子をコードする183個の完全長プラスミド塩基配列を解析し、レプリコンの種類、菌種の関係を明らかにすると共に、その地理的分布についての洞察が得られた。この研究は、抗菌薬耐性のより深い理解を得る上で今後の世界標準となる指標を示すと共に、薬剤耐性菌の脅威と戦うための戦略開発に貴重な情報を提供した。
本研究は、独立行政法人 日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症研究プログラム」(助成番号:JP23fk0108604)の支援を受けて実施された。
続きを読む: 標準化した薬剤感受性検査を加えたナショナル・ゲノムサーベイランスにより明らかになった腸内細菌目細菌の薬剤耐性
Kimura-Someya T, Katsura K, Kato-Murayama M, Hosaka T, Uchikubo-Kamo T, Ihara K, Hanada K, Sato S, Murayama K, Kataoka M, Shirouzu M, Someya Y.
遺伝子型GI.4ノロウイルス特異的抗体CV-1A1とChiba株由来ウイルス様中空粒子(VLP)との複合体構造、GIの様々な遺伝子型に交叉反応する抗体CV-2F5とVP1タンパク質のPドメインとの複合体構造をそれぞれクライオ電子顕微鏡単粒子解析、X線結晶構造解析により決定した。CV-1A1はVLPを構成するVP1タンパク質のP2領域を、CV-2F5はP1領域を認識することが明らかになった。P2領域は遺伝子型間で変化に富むのに対し、P1領域は遺伝子型間で保存性が高く、これらの抗体の特異性が裏付けられた。CV-1A1はVLPのルイスb抗原結合を阻害し、抗体の一部領域がルイスb結合部位に入り込む構造解析結果と一致する。また、CV-2F5はVLPを破壊する特性が明らかになった。本研究の成果は構造情報に基づく創薬に貢献するものと期待している。
本研究はAMED(to TKS, TH, YS)およびAMED-BINDS(to MS)の支援により実施された。
続きを読む: クライオ電子顕微鏡解析とX線結晶構造解析による遺伝子型GI.4ノロウイルスのヒト型モノクローナル抗体結合部位の解明
Mami Matsuda, Asuka Hirai-Yuki, Osamu Kotani, Michiyo Kataoka, Xin Zheng, Daisuke Yamane, Masaru Yokoyama, Koji Ishii, Masamichi Muramatsu, and Ryosuke Suzuki
PLOS PATHOGENS 2024, 20(3): e1012091.
A型肝炎ウイルス(HAV)感染によって発症するA型肝炎は、開発途上国のみならず先進国においても流行し死者も出ていますが、現在HAV感染の治療に使える抗ウイルス薬はありません。我々は統合失調症の治療薬としてFDAに承認されているロキサピンがHAV複製の阻害剤であることを発見しました。HAVに対するロキサピンの効果はドーパミンD2受容体(抗精神病活性の標的)を介さずに、HAV 2Cタンパク質に直接作用する事が示唆されました。ロキサピンの抗HAV効果は培養細胞のみならず感染マウスモデルでも認められました。この研究成果はA型肝炎治療薬開発において有用な知見となることが期待されます。本研究は感染研、東京都医学研との共同研究で、厚労省、文科省、AMEDの研究支援を受け実施しました。
Sayaka Shizukuishi, Michinaga Ogawa, Eisuke Kuroda, Shigeto Hamaguchi, Chisato Sakuma, Soichiro Kakuta, Isei Tanida, Yasuo Uchiyama, Yukihiro Akeda, Akihide Ryo & Makoto Ohnishi
Cell Reports 43, 113962 (2024)
肺炎球菌は主にヒトの鼻咽頭に常在し、小児や免疫力が低下した高齢者に対して敗血症や髄膜炎といった侵襲性肺炎球菌感染症を引き起こすことがある。その発症経路の一つとして、宿主細胞に侵入した菌が膜孔形成毒素Pneumolysin(Ply)によってエンドソーム膜を損傷させることでエンドサイトーシスによる殺菌を逃れ、血中や髄液へと移行する経路が明らかとなってきた。このようにPlyは肺炎球菌の宿主細胞内生存に必須の病原因子であるが、一方で、過度なエンドソーム損傷は宿主殺菌機構であるオートファジー誘導のきっかけとなる。したがって、肺炎球菌は宿主内生存のためにPlyの活性を適切に調節する必要がある。今回、我々は、Plyが膜に作用する際の足場となるシアル酸を肺炎球菌自身が産生するシアリダーゼNanAが刈り取ることで、肺炎球菌はPlyによる過度のエンドソーム膜損傷とそれに伴う菌の排除を回避していることを見いだした。本成果はシアリダーゼ阻害剤等による肺炎球菌の新規治療法開発に貢献することが期待される。
続きを読む: 肺炎球菌はエンドソーム膜上のシアル酸を刈り取ることで自身が産生する膜孔形成毒素の過剰な働きを抑制し、宿主細胞による排除から身を守る
Yorihiro Nishimura, Kei Sato, Yoshio Koyanagi, Takaji Wakita, Masamichi Muramatsu, Hiroyuki Shimizu, Jeffrey M. Bergelson, Minetaro Arita
PLOS Pathogens 2024 Feb 15;20(2):e1012022. doi: 10.1371/journal.ppat.1012022.
これまで、エンテロウイルスA71(EV-A71)は細胞表面で受容体SCARB2に結合して細胞内に侵入するとされてきました。今回、国立感染症研究所ウイルス第二部と京都大学、ペンシルベニア大学、フィラデルフィア小児病院、神戸医療産業都市推進機構との共同研究により、細胞表面にSCARB2は無いことを明らかにしました。EV-A71は細胞表面に付着するための受容体(PSGL-1など)に結合して侵入し、後期エンドソームやリソソームでSCARB2に出会い、ゲノムを放出すると考えられます。今回の研究成果により、EV-A71が細胞に侵入する機構の全容解明が進むと期待されます。
本研究はJSPS科研費、AMED等の支援を受けました。