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麻疹ウイルス遺伝子型情報(渡航先と年齢について)

(IASR Vol. 36 p. 57-58: 2015年4月号)

麻しんは、麻疹ウイルス感染により生じる発熱、全身性発疹、カタル症状を特徴とする急性の熱性発疹性疾患である。麻疹ウイルスはA~Hの8クレード、24の遺伝子型に分類され1)、遺伝子型によって麻疹患者の疫学リンクが明確になり、感染地域の推定にも役立つ。今回、我々は2008~2014年までの病原微生物検出情報(病原体サーベイランス)に報告された情報を、麻疹ウイルスの遺伝子型に着目し解析した。なお集計は2015年2月4日現在のものであり、今後、追加報告等により数値が若干変動する可能性がある。

2008年第1週~2014年第52週に病原体サーベイランスに報告された麻疹症例は896例であった()。これは同時期に感染症発生動向調査(NESID)に報告された患者数の6.5%に当たる。年齢中央値は15歳(範囲:0~67)、男性が489例(55%)、ワクチン接種歴有の症例が189例(21%)、無・不明が707例(79%)、渡航歴は有が164例(18%)であった。

遺伝子型は、B3型287例(32%)、D4型65例(7.3%)、D5型191例(21%)、D8型127例(14%)、D9型104例(12%)、G3型2例(0.2%)、H1型34例(3.8%)、型不明86例(9.6%)であった。最も報告の多かったB3型の年齢中央値は12歳(範囲:0~67)、女性患者が149例(52%)、ワクチン接種歴有63例(22%)、無・不明224例(78%)で、国外の感染推定地域はフィリピンが最多(88%)であった。また、同様にフィリピンが感染推定地として多かったD9型の年齢中央値は12歳(範囲:0~46)、男性患者が60例(58%)、ワクチン接種歴有が16例(15%)、無・不明88例(85%)であった。2番目に報告数の多かったD8型の年齢中央値は22歳(範囲:0~58)、男性患者が67例(53%)で、ワクチン接種歴有が22例(17%)、無・不明104例(83%)、国外の感染推定地域はベトナム7例、タイ5例等であった。D4型の年齢中央値は24歳(範囲:0~46)、男性患者が43例(66%)で、ワクチン接種歴有10例(16%)、無・不明55例(84%)で、感染推定地域はフランス4例、英国2例、ニュージーランド2例等であった。さらに、H1型の年齢中央値2(範囲:0~42)、男性患者が19例(56%)、ワクチン接種歴有6例(18%)、無・不明28例(82%)で、国外の感染推定地域は中国10例、ベトナム4例、台湾1例であった。

次に2008~2014年の各遺伝子型報告数を年齢群別にに示した(報告数が少ないD5型とG3型を除く)。B3型は0~4歳が92例、5~9歳が41例と多く、また25~29歳が32例であり、乳幼児と成人の二峰性にピークを認めた。D8型も同様に二峰性にピークを認めた(0~4歳が22例、5~24歳が12例前後、30~34歳が20例)が、B3型に比べピークはなだらかであった。一方、D4型は30~34歳が14例と最も多く、0~29歳までは7例前後であり、ほぼ一峰性にピークを認め、H1型も25~29歳をピークとした(9例)一峰性のピークを認めた。また、D9型は0~4歳が30例で最も多く、年齢が上がるにつれ減少する傾向であった。

B3型、D9型の推定感染地域はフィリピンが大部分を占めた。これは2010~2011年にD9型が、2013~2014年にB3型がフィリピンで流行し、輸入例から国内感染への拡大が影響しているものと思われた2,3)。また、他の遺伝子型に比べ患者の年齢が低い傾向にあり、乳幼児での感染が多かった。特にB3型は患者分布が二峰性であり、家族内および集合住宅内でのアウトブレイクも過去に報告されていることから4)、病原体サーベイランスの限られた情報からではあるが、親子間を中心に感染拡大が起こった可能性も示唆された。一方、D4型、H1型は年齢中央値が20代であり、分布も30代まで比較的均等であった。これは、感染推定地域はD4型が欧米オセアニア地域、H1が中国中心であり、渡航先がB3型、D9型と違っていることが影響していると考えられた。

日本は2015(平成27)年度までの麻疹排除を目標としている5)。2008年度から5年間行われたMRワクチン2回目の追加接種を含め、国内の麻疹含有ワクチンの接種率が高くなり、2010年5月を最後に、これまで国内で流行していたD5型ウイルスによる麻疹症例の報告は認められていない。今後は国内の高い麻疹含有ワクチン接種率の維持とともに、海外、特にアジアにおける麻疹ウイルス遺伝子型を含めた流行の動向に注意、対策が必要である。

 
参考文献
  1. 駒瀬勝啓, 他, 病原体検出マニュアル 麻疹(第3版), 平成27年3月
  2. IASR 35: 132, 2014
  3. Takahashi T, et al., Western Pac Surveill Response J 5: 31-33, 2014
  4. IASR 35: 178-179, 2014
  5. 麻しんに関する特定感染症予防指針(平成24年12月14日一部改正・平成24年4月1日適用)

国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース
同 感染症疫学センター

 

 

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