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蚊媒介ウイルス感染症(デング熱, チクングニア熱, ジカウイルス感染症)の動向について, 2015年1月~2016年4月

(IASR Vol. 37 p. 131-132: 2016年7月号)

感染症発生動向調査システム(NESID)に報告された, 主な蚊媒介ウイルス感染症(デング熱, チクングニア熱, ジカウイルス感染症)の動向について, 2015年1月~2016年4月までのデータをまとめた(2016年5月10日現在)。

デング熱症例は, 計406例で, いずれも国外感染例であった。図1に推定感染地別の流行曲線を示す。報告例は通年的に認められるが, 2015年では9月が51例と最多であり, 次いで8月の38例であった。また, 2016年3月は, インドネシアを推定感染地とする報告例が前年の同月に比べ約2倍(30例)に増加した。

渡航先は少なくとも23カ国/地域に及んだが, 推定感染地は, 複数カ国渡航していた症例を除いた385例のうち, 363例(94%)がアジア地域であった。推定感染地として多い国は, 順に, インドネシア116例(29%), フィリピン87例(21%), タイ36例(9%), マレーシア33例(8%), ベトナム18例(4%)であった(本号3ページ表4)。アジア地域以外の推定感染地として最も多かった国は, ブラジル10例(2%)であった。

渡航国別の国外感染デング熱報告例の増減は, 渡航国別の渡航者数の増減に影響を受ける場合があるため, 適切な分母データとともにその推移を評価することは有効である1)。推定感染地として多い上位4カ国について, 2015年の月ごとの報告数を, 同月の渡航者数10万当たりの頻度で国別に算出し, 比較した(図2)。なお, 各国の月ごとの日本人渡航者数は, 公開されているデータを基にした2,3)

渡航者数10万当たりの報告例の推移は, 渡航国ごと, 月ごとに異なっていた(図2)。インドネシアでは3~4月, フィリピンとタイでは9月にピークを認め, マレーシアでは3月と7月に二峰性の増加を認めた。これらの所見は渡航国における, これまでのデング熱流行の季節性を反映しており4-6), 中村らの報告と一致していた1)

性・年齢分布については, 男性が406例中250例(62%)と多く, 年齢中央値は38歳(範囲:3~79歳)であり, 20代が105例(26%), 30代が100例(25%), 40代が83例(20%)の順に多く, これまでの傾向と同様であった7)。なお, 各国への渡航者の性・年齢分布は公開されていない。病型は, デング熱398例(98%), デング出血熱8例(2%)で, 届出時点で死亡例はなかった。

チクングニア熱症例は, 計19例で, いずれも国外感染例であった。推定感染地は, 中南米が8例(42%), アジア地域が6例(32%), オセアニアが5例(26%)であったが, 国別ではインドが4例と最多であった(本号3ページ表3)。性・年齢分布は, 男性9例と女性10例であり, 年齢中央値は37歳(範囲:18~71歳), 報告例の多い順に40代が6例(32%), 20代・30代が各4例(21%)であった。診断方法は, PCR法による遺伝子の検出が12例(63%), IgM抗体の検出が6例(32%), ペア血清によるIgG抗体の検出によるものが1例(5%)であり, いずれも血液検体での診断であった。頻度の高い症状は, 関節痛ないし関節炎が18例(95%), 発熱が16例(84%), 皮疹が12例(63%)であった。

ジカウイルス感染症は, 2016年2月15日より4類感染症(全数把握)に追加され, 2016年4月30日までに, 5例の国外感染例が報告された。推定感染地は, ブラジルが3例, オセアニアが1例, 中南米が1例であった。性・年齢分布は, 男性2例, 女性3例で, 10代が2例, 30代・40代・不明が各1例であった。診断方法は, 全例でPCR法での遺伝子の検出によりなされ, 2例で血液・尿検体の両方から, 2例で尿検体のみ, 1例で血液検体のみから検出された。全例に発熱, 皮疹を認め, 骨関節痛が2例, 血小板減少は1例で認めた。ジカウイルス感染症は特異的な臨床症状・検査所見に乏しく, デングウイルスIgMとの交差反応が認められるため, PCR法による遺伝子検出による実験室診断は重要である。

蚊媒介ウイルス感染症の国外感染例は毎年報告されており, 2014年には, デング熱の国内流行が起こった。デング熱と同様に, チクングニア熱, ジカウイルス感染症の動向についても, 引き続き注視が必要である。また, 渡航者当たりの報告数の推移に着目することは, 根拠に基づく渡航者への注意喚起と日本国内における二次感染のリスクアセスメントに役立つ。

 

参考文献
  1. Nakamura N, et al., Western Pac Surveill Response J 2012; 3: 39-45
  2. JTB総合研究所ホームページ
    http://www.tourism.jp/tourism-database/statistics/outbound/
  3. インドネシア共和国観光省公式ホームページ
    https://www.visitindonesia.jp/media/01.html
  4. Health Situation in the South-East Asia Region 2001?2007, New Delhi, WHO, 2008
    http://www.searo.who.int/entity/health_situation_trends/documents/en/
  5. Dengue Situation Updates, Manila, WHO, Updated 13 January 2016
    http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/dengue_biweekly_20160113.pdf?ua=1
  6. Limkittikul K, et al., PLoS Negl Trop Dis 2014; 8: e3241
  7. 金山敦宏, 他, IASR 36: 137-140, 2015

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