国立感染症研究所

IASR-logo

百日咳の検査診断

(IASR Vol. 38 p.33-34: 2017年2月号)

百日咳の主な原因菌は百日咳菌(Bordetella pertussis)であり, ヒトの気道上皮に感染することにより乾性咳嗽や発作性の咳を引き起こす。百日咳菌以外にヒトに感染する百日咳類縁菌としてパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)とBordetella holmesiiが挙げられるが, 百日咳菌に比較して国内感染例は少ない。ただし, 患者の臨床症状から百日咳菌と百日咳類縁菌の感染を区別することは困難であり, 鑑別には検査診断が必要となる。わが国では菌培養検査, 血清学的検査, 遺伝子検査が健康保険適用となっており, 本稿ではこれらの検査診断について解説を行う()。

 菌培養検査

百日咳菌の培養検査には, Bordet-Gengou血液寒天培地や市販のボルデテラCFDN寒天培地など専用の分離培地が用いられる。患者から採取した呼吸器検体(鼻腔, 咽頭検体など)を寒天培地に塗布し, 培養7日後に菌同定と判定を行う。菌培養検査は特異性に優れるが, 感度は乳児患者でも60%以下と低く, ワクチン既接種者や成人患者からの菌分離はほとんど期待できない。この原因として, 成人患者の百日咳菌保菌量が小児患者に比較して有意に少ないことが指摘されている(乳児の1/3,400量, 年長児の1/65量)1)。分離菌は流行株の性状解析, 例えば遺伝子型や抗原性解析に用いることができる。

血清学的検査

世界的に抗百日咳毒素抗体(抗PT IgG)が測定されている。わが国では抗PT IgG以外に抗繊維状赤血球凝集素抗体(抗FHA IgG)も同時に測定されるが, 国外では抗FHA IgGは診断に使用されていない。抗PT IgGを用いた血清診断では患者のワクチン歴を考慮する必要があり, 世界保健機関(WHO)では免疫系が十分に発達していない乳児および百日せきワクチン接種後1年未満の患者には適用できないとしている2)。抗PT IgGの診断基準値は各国で異なり, わが国では2016年に日本小児呼吸器学会・日本小児感染症学会から患者のワクチン歴を考慮した診断基準と診断のフローチャートがガイドラインとして出された3)

2016年には百日咳菌のIgAとIgM抗体を測定する百日咳抗体測定キットが体外診断薬として新たに承認された(健康保険適用)。このIgMとIgA抗体はワクチン接種の影響を受けないことから, 単血清での診断が可能とされている。IgM抗体は病日15日, IgA抗体は病日21日をピークに誘導され, IgA抗体はIgM抗体よりも持続することが臨床試験で確認されている。本法は百日咳の早期診断に有用とされるが, 2016年12月時点では民間検査会社での受託検査はまだ開始されていない。

遺伝子検査

遺伝子検査は最も感度の高い検査法であり, 世界的にリアルタイムPCR法が採用されている。わが国では特異性の高い検査法として百日咳菌LAMP法(loop-mediated isothermal amplification)が開発され, リアルタイムPCR法よりも簡便かつ迅速に診断することが可能である。本法を用いた百日咳菌検出試薬キットは早期診断に有用とされ, 国内外で流行する百日咳菌に対し高い検出感度を持つことが確認されている4)。現在, このLAMP法を用いた遺伝子検査は検査会社での受託検査が可能となっている。

検査診断の適用時期

米国疾病予防管理センター(CDC)では, 患者の病日により検査法の使い分けを提唱している()。菌培養検査の適用は咳嗽出現から2週間以内であり, 既に抗菌薬投与がされた患者には適用できない。一方, 遺伝子検査は咳嗽出現から3週間以内, 乳児やワクチン未接種者では4週間以内まで使用することができる。血清学的検査は抗PT IgG抗体が誘導されるまでに時間がかかるため, 咳嗽出現後2週間以降からの適用となる。しかし, 感染により誘導された抗PT IgG抗体は長期間維持されるため, 血清学的検査は発症後8~12週まで使用できるとされている。

百日咳類縁菌の検査

国立感染症研究所では, パラ百日咳菌とB. holmesiiの遺伝子検査としてマルチプレックスリアルタイムPCR法とLAMP法を開発し, 地方衛生研究所を対象に検査キット(研究用試薬)の供与を行っている5,6)。マルチプレックスリアルタイムPCR法は4種類の病原体(百日咳菌, パラ百日咳菌, B. holmesii, Mycoplasma pneumoniae)を一度に検査することが可能であり, 百日咳疑いのアウトブレイクなどで原因菌の検索に有用である。

おわりに

わが国では2016年から遺伝子検査が健康保険適用となり, 今後百日咳の早期診断に大きく貢献することが期待される。ただし, 遺伝子検査を含め百日咳の検査診断には患者病日に合わせた適用時期があり, 正確な診断にはこれら検査法の使い分けが重要となる。

 

参考文献
  1. Nakamura Y, et al., Clin Microbiol Infect 17: 365-370, 2011
  2. Laboratory manual for the diagnosis of whooping cough caused by Bordetella pertussiss/Bordetella parapertussis, update 2014, WHO/IVB/14.03
  3. 小児呼吸器感染症診療ガイドライン 2017, 株式会社協和企画, p236-240
  4. Kamachi K, et al., J Microbiol Methods 133: 20-22, 2017
  5. Kamachi K, et al., New Microbes New Infect 22: 70-74, 2015
  6. Otsuka N, et al., Microbiol Immunol 56: 486-489, 2012

国立感染症研究所細菌第二部 蒲地一成

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version