IASR-logo

Cyclodextrin Pyruvate Solid Medium(CPSM培地)を用いた百日咳菌の分離

(IASR Vol. 38 p.34-35: 2017年2月号)

はじめに

宮崎県では2010年と2014年に中学校を中心とした百日咳が集団発生し, それに伴い行政検査依頼と集団発生の証明としてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の実施が求められた。これらの事例から, 百日咳の集団発生時には遺伝子検査に加え, 菌の分離も行うことが望ましいと考えられた。また, 突発的な集団発生では大量の培地が早急に必要となることから, 培地をいかに迅速かつ簡便に準備できるかが課題であると考えられた。

 百日咳菌の分離には, 通常BG培地, CA培地, CSM培地, 市販のCFDN培地のいずれかが用いられる。このうち, BG培地とCA培地は血液を加えるため保存が難しく, CFDN培地は突発事例に備え常備しておくことは難しいと思われた。

以上の経緯から, 当所では保存性に優れたCSM培地を迅速に準備できるよう作製法を変更し, さらに最終濃度5mMのピルビン酸ナトリウム(抗酸化作用を有する)を添加したCPSM培地として改良することで, 原法に比べ百日咳菌を良好に分離できることが確認されているので報告する。

CPSM培地作製法

基礎培地:各試薬の保存液を作製し, メジューム瓶等に入れ121℃15分滅菌する。滅菌後は冷蔵保存しておく。

サプリメント:各試薬の溶液を混合後, DWで全量を100mLとし, 0.22μmのフィルターでろ過滅菌する。ろ過滅菌後は5mLずつ分注し-20℃以下で凍結保存しておく。なお, 当所では種々の実験のためピルビン酸Naをサプリメントとして入れているが, 先に基礎培地に入れ高圧滅菌しても効果は変わらない。

培地が必要になった際は冷蔵保存しておいた基礎培地の各保存液を規定量混合し, 寒天を加えて121℃15分高圧滅菌する。滅菌後は52℃に冷却後, 凍結保存しておいたサプリメントを加え平板とする。なお, 臨床材料中に夾雑菌が多い場合もあることから, 別に5μg/mLのセファレキシン(CEX)を加えた培地も作製しておくとよい。また, この培地に寒天を入れなければ液体培地となるため, 当所ではCEXを添加した液体培地を検体採取用溶液として用いている。

培養法およびCPSM培地上でのコロニー鑑別

百日咳菌は培養後4~5日目から微細なコロニーとして観察されるが, 7~10日後に出現することもあるため, 乾燥しないよう空き缶などに入れ長期培養する。なお, CEX添加培地では百日咳菌が分離されにくい傾向があり, CEX非添加培地を優先的に用いた方がよい。百日咳菌は教科書的に培養4~5日目に形成される真珠様の光沢のあるコロニーと表現されるが, 夾雑菌との鑑別が難しい場合は実体顕微鏡を利用した方がよい。実体顕微鏡での観察はHenryの斜光法で行い, 白色光を透過させ水滴様のコロニーを探す。夾雑菌は微細顆粒状に(細かい砂をまいたように)見えるが, 百日咳菌は透明に見える。ポイントは最初に夾雑菌が微細顆粒状に見えるようライトの角度を調節し, その角度のまま平板をずらして観察することである。疑わしいコロニーはグラム染色を行い, グラム陰性短桿菌であれば検査マニュアル等に準じ同定を行う。また, 分離株の多くは粘稠性が高く, 釣菌時にコロニーがソフトクリーム状になることも参考になる()。なお, パラ百日咳菌が分離された場合は培地が褐色を呈するので鑑別は容易である。

おわりに

百日咳菌の分離はワクチン未接種の乳児では比較的容易であるが, 検査対象がワクチン既接種の学童・青年・成人層では難しい。しかし, 培地改良後の2015年以降, 乳児以外の散発事例や家族調査においてLAMP法陽性者の約54%から菌が分離され, 60~70代の高齢者や無症状者からも菌が分離されていることから, 当所では遺伝子検査で陽性になった検体については積極的に菌の分離を実施することにしている。また, 今回示した方法は保存溶液を作製しておけば, 集団発生などの突発的な事例でも迅速に培地が作製できることから, 地方衛生研究所として菌の分離やPFGEまで含めた行政検査依頼にも対応できるものと思われる。


宮崎県衛生環境研究所 吉野修司 水流奈己 荒井路子 元明秀成

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan