国立感染症研究所

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海外の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと百日咳対策

(IASR Vol. 38 p.37-38: 2017年2月号)

百日咳はワクチン予防可能疾患の一つであるが, 現在多くの先進国で百日咳の再興が認められている。この原因として, 主に百日せきワクチンの免疫効果が4~12年で減衰することが挙げられている。各国の百日せき含有ワクチンの予防接種スケジュールと実施している百日咳対策についてまとめた。

 2014年WHOの百日せきワクチン専門家会議が, 現在認められている百日咳の再興について, その原因と対策を検討するために開催された。その資料1)によると, 調査対象となった国々では, 定期接種の初回接種(小児期)において最低3回の百日せき含有ワクチンの接種が行われており, さらにそれらの国々のうち一部は3回目から1年以内に1回の追加接種を実施していた()。また, 初回接種の回数のいかんを問わず, 調査されたほぼすべての国で就学時前から小学校低学年の時期に1回のブースター接種が行われている。これらに加え, 一部の国では青年, 成人に対して青年・成人用破傷風・ジフテリア・百日せき三種混合ワクチン(Tdap)の接種が行われている。従って百日せき含有ワクチンの接種回数が最も多い国では成人までに6回接種していることになる。なお, Tdapは従来の沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DTaP)に比較してジフテリア毒素抗原量および百日咳抗原量が減量されている。

各国のワクチン接種スケジュールはその国の百日咳の疫学と関係していることが多い。1996年よりDTaPワクチンを導入したアメリカでは, 2000年ごろより百日咳患者報告数が増加した。小児以外にも百日咳が蔓延しており, 青年, 成人の長引く咳をする患者を診察した際に, 医療従事者が百日咳を鑑別診断としてあげるようになったこと, PCRに代表されるような検査診断技術, 精度の向上が百日咳患者数の増加に関与したことなどがその理由と考えられた。そのなかで最も重要かつ問題視されたのは, 自然感染やワクチン接種により獲得された百日咳に対する免疫力が年月の経過に伴い減弱し, 再び感受性者となることであった。この点に対応すべく青年, 成人に対してTdapが2005年に導入された2-3)

しかし, Tdapも不活化ワクチンであり, DTaPと同様な状況が起こりうることが予想されることから, 百日咳罹患によって重症化する最もリスクの高い乳児を守るために乳児周辺の成人への接種を強化し, 乳児周辺の百日咳患者を排除することを目的とした対策が海外の一部の国では始まっている。アメリカではその一環として, 妊娠ごとに妊婦へのTdapの接種や乳児の世話をする機会がある成人, 医療従事者へのTdap接種が推奨され, 実施されている4-5)。妊婦への接種に関しては, イギリスではすでに高い接種率が達成され, 高い効果(ワクチン効果=90%)が報告されている6-7)。また, ニュージーランドでは妊娠28~38週にTdapを接種した妊婦から生まれた新生児約400名の1年間の追跡調査が行われ, 観察対象であった児は観察期間中, 地域での百日咳の流行を認めたにもかかわらず, 1人も百日咳に罹患せず, また出生時, 健診時に異常は認められなかった, との報告がある8)

なお, 本WHOの専門家会議では, 乳児周辺の青年, 成人に対するワクチンを用いた対策だけでなく, すべての子供ができるだけ早期(生後8週まで)に1回目の百日せき含有ワクチン接種を受け, 3回目までの高い接種率(90%以上)を維持することが推奨された。これは, 多くの国から報告されている1回の百日せき含有ワクチン接種で乳児の重症化百日咳を50%, 2回以上であれば80%予防できるというエビデンスに基づいている1)

 

参考文献
  1. WHO SAGE pertussis working group Background paper, SAGE April 2014
  2. CDC, MMWR 60(1): 13-15, 2011
  3. CDC, MMWR 60(37): 1279-1280, 2011
  4. CDC, MMWR 60(41): 1424-1426, 2011
  5. CDC, MMWR 62(7): 131-135, 2013
  6. Amirthalingam G, et al., Lancet 384(9953): 1521-1528, 2014
  7. Dabrera G, et al., Clin Infect Dis 60(3): 333-337, 2015
  8. Walls T, Graham P, Petousis-Harris H, et al., BMJ Open 2016; 6: e009536. doi:10.1136/bmjopen-2015-009536

国立感染症研究所感染症疫学センター 神谷 元

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