国立感染症研究所

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世界の麻疹ウイルスの流行状況, 2016年

(IASR Vol. 38 p.58-59: 2017年3月号)

世界保健機関(WHO)加盟国は6つの地域(アメリカ地域:AMR, ヨーロッパ地域:EUR, 西太平洋地域: WPR, 南東アジア地域:SEAR, 東地中海地域: EMR, アフリカ地域:AFR)に分類されている。各地域における2016年の麻疹の流行状況を述べる。

AMRにおける麻疹の状況

2016年AMRでは, エクアドル, 米国, カナダの3カ国から報告があり, その数は, それぞれ1例, 70例, 11例であった1-3)。エクアドルの1例は, SEARからの輸入症例で, 遺伝子型はD8型であった4)。米国の70例は14州から報告され, そのうちの44例で遺伝子型が解析された。その内訳は, B3型が12例, D8型が32例で, 疫学調査から, B3型のうち5例, D8型のうち8例の感染者に海外渡航歴があることが判明している。カナダの11例は4州より報告され, 解析できなかった1例を除き, B3型7例がEMRまたはEURからの, D8型3例がWPRからの輸入症例であった。

EURにおける麻疹の状況

EURの2016年における報告症例数は, 3,067例であった。報告数の多い国は, ルーマニア(925例), イタリア(648例), ドイツ(278例), ポーランド(114例), カザフスタン(106例) などであった。また, 12カ月以上の流行阻止状態を維持していた英国からも2016年の初頭より麻疹の流行が報告され, その報告症例数は548例にのぼった。特に6~8月に開催されたアート・ミュージックフェスティバルでは, 参加したワクチン未接種の青年層(19~40歳)を中心に52例の麻疹が発生した5)。EURで報告されたウイルス遺伝子型は, D8型(582例), B3型(302例)が主流であった。輸入症例としてWPRからH1型(25例), EMRからD4型(2例) が報告されている。国別でみると, ドイツからB3型(26例), D8型(54例), H1型(3例), イタリアからB3型(140例), D8型(30例), カザフスタンからH1型(8例), ルーマニアからB3型(27例), 英国からB3型(10例), D4型(2例), D8型(403例)が報告されている。

WPRにおける麻疹の状況

WPRにおける2016年の報告症例数は56,194例であった。2014年に麻疹排除認定を受けていたモンゴルは, 2015年から首都ウランバートルを中心に大規模な流行(20,731例)が発生し, その流行は2016年も継続して, 最終的な報告症例数が28,909例にのぼった。ウイルスの遺伝子型をみると, 中国で伝播しているH1型に近く, 感染者の多くは, 8~9か月の乳児, 18~30歳のワクチン未接種者であった6)。その他, 中国(24,557例), マレーシア(1,462例), フィリピン(442例), ベトナム(335例), ニュージーランド(103例)から報告され, さらに麻疹排除認定を受けている日本(153例), オーストラリア(77例) からも麻疹が報告された。WPRで検出されたウイルス遺伝子型は, H1型(2,503例), D8型(215例), B3型(90例), D9型(48例), D4型(1例) で, H1型は主に中国, モンゴル, D8型はオーストラリア, ニュージーランド, ラオス, マレーシア, B3型は主にフィリピン, マレーシア, D9型は主にマレーシア, D4型はオーストラリアから報告されている。本邦からは, H1型, B3型, D8型が報告されている。

SEARにおける麻疹の状況

2016年のSEARにおける報告症例数は63,328例で, 麻疹含有ワクチン第1期接種率が90%未満のインドとその周辺国, およびインドネシアを中心に流行が発生した。国別でみると, インドからは, 報告症例数の90%以上を占める58,986例, インドネシアからは2,378例, バングラデシュからは735例, ネパールからは262例, ミャンマーからは157例が報告されている。また, 麻しん含有ワクチン第1期接種率が95%を超えるタイ(648例), スリランカ(111例)からも報告があがっている。伝播しているウイルス遺伝子型は, B3型(59例), D4型(9例), D8型(237例), D9型(1例), H1型(4例)で, インドからはB3型, D4型, D8型, バンを策定グラデシュからはD8型, ミャンマーからはD8型, H1型, ネパールからはD8型, D9型, インドネシアからはD8型, タイからはB3型, D8型, H1型が報告されている。

EMRにおける麻疹の状況

2016年におけるEMRの報告症例数は前年の1/3となり(14,035例→4,609例), 特にエジプト, イラク, およびスーダンにおいて著しい減少が報告されている(エジプト:5,431例→117例, イラク:1,455例→24例, スーダン:3,585例→735例)。しかしながら, EMR?21カ国のうち, イラクを含めた6カ国の麻しん含有ワクチン第1期接種率は50~79%未満, ソマリアにおいては50%未満と低い7)。伝播しているウイルス遺伝子型は, B3型(23例), D4型(11例), D8型(18例) が報告されている。

AFRにおける麻疹の状況

2016年のAFRからの報告症例数は30,246例で, 前年(55,263例)より25,000例以上減少した。AFR諸国のうち, 麻しん含有ワクチン第1期接種率が90%以上の国は4カ国(アルジェリア, タンザニア, ザンビア, ボツワナ)のみで, 2016年は, ナイジェリア(16,198例) を筆頭にエチオピア(4,212例), 赤道ギニア(1,683例), コンゴ(1,284例), ガボン(1,185例), 南スーダン(902例), ニジェール(752例), カメルーン(581例), ガーナ(502例) から500例以上の報告があった。報告されたウイルス遺伝子型(34例)は, すべてB3型であった。

  

参考文献

国立感染症研究所ウイルス第三部 染谷健二 駒瀬勝啓 竹田 誠

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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