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サトウキビジュースが原因と推定された腸管出血性大腸菌O157広域散発食中毒事例について(疫学調査)―沖縄県

(IASR Vol. 38 p.94-95: 2017年5月号)

2016年8月, 15都道府県にわたる広域散発事例として探知された腸管出血性大腸菌O157 VT2(以下O157)感染事例が, 沖縄県観光旅行の際に摂取したサトウキビジュースが原因の集団食中毒事例と判明したので, その概要を報告する。

 1.探 知

(1)第1波

2016年8月1日~4日に5自治体から沖縄県および那覇市に対して, 沖縄旅行歴のあるO157症例発生の通報および利用した施設の調査依頼が相次いだ。自治体Aからは小児の溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)の兄弟例の発生報告があった。当該症例らは同一の団体ツアーではなく, 家族や仲間同士の個人旅行客であり, 喫食歴も事例ごとにそれぞれ異なっていた。また, 当該症例と同行者らは, 沖縄本島全域を旅行しており, 喫食した施設は, 那覇市保健所, 沖縄県南部保健所, 中部保健所, 北部保健所の4保健所管轄区域に及んだため, 那覇市-沖縄県間で情報共有を行いながら調査を実施した。しかし, 通常の食中毒調査票では共通する喫食が見出せず, この時点で食中毒の原因が特定できなかった。

(2)第2波

8月5日以降は他自治体からの通報や調査依頼がなく, 終息したかに思われたが, 8月15日に那覇市内医療機関より旅行客でHUS疑いの入院症例の報告があった。その翌日の8月16日~23日にかけて, 新たに7自治体からO157症例発生の通報や調査依頼があった。

2.積極的疫学調査

沖縄県生活衛生課, 沖縄県健康長寿課, 沖縄県南部保健所, 那覇市保健所, 沖縄県衛生環境研究所(沖縄衛研)で合同調査を行った。

第2波探知時, 新たに作成した追加調査票〔間食摂取歴, ジュース類などを含む飲料水摂取歴, 飲食摂取歴の無い訪問歴(滞在中のすべての行動歴), 動物接触歴などの追加の質問票〕を患者が発生した自治体に対して速やかに送付し, 情報収集を行い, 曝露源がサトウキビジュースである仮説を立てた。関係機関による対策会議後, 全国衛生主管課宛通知を発出し, 積極的症例探索を実施, 沖縄衛研において, 各自治体で実施されたIS-printing system(IS法)による解析結果の収集および照合を行った(本号9ページ参照)。

調査のデザインは症例対照研究とした。

症例定義は2016年7月20日~9月2日に, 沖縄県県内居住者または沖縄県への旅行歴がある沖縄県外居住者で, 以下を満たした者とした。
 ・確定例:少なくとも一つの消化器症状(下痢, 血便, 腹痛, 嘔吐)を呈し, かつ便の培養検査でO157 VT2が陽性となった者または抗O157抗体陽性者
 ・疑い例:少なくとも一つの消化器症状を呈した者(ただし, 確定例を除く)
 ・保菌例(無症状病原体保有者):無症状, かつ便の培養検査でO157 VT2が陽性となった者

対照は上記症例を除く, 症例の同行者とした。

3.結 果

最終的に症例定義に合致したのは, 17自治体(15都道府県)18事例で, 症例は35人であった。その内訳は確定例25人, 疑い例4人, 保菌例6人で, すべて県外からの旅行者であった。有症者(確定例および疑い例の29人)()のうち, 男性は13人(45%), 年齢中央値は11歳(範囲:1-78歳)であった。症状は, 症状の情報が得られなかった3人を除き, 血便が21人(81%)で最も多く, 次いで水様性下痢19人(73%)であった。合併症はHUSが4人(14%), 腸重積が1人(3%), 入院が18人(62%)であった。

35人すべてに共通していた曝露源は観光施設B訪問で, ついで共通性の高かった曝露源は, サトウキビジュースの摂取ありが32人(91.4%)であった。

サトウキビジュースの曝露と発症との関連の解析は症例35人のうち, 二次感染例と判断された2人および曝露歴不明の1人を除いた32人を症例として解析した。対照は症例の同行者のうち, 曝露歴不明者1人を除いた38人とした。症例32例は, 全例サトウキビジュースを摂取していた。一方, 対照38例のうち, 24例はサトウキビジュースを摂取していた。サトウキビジュースの摂取はオッズ比が24.69(95%信頼区間: 4.93-∞)で, サトウキビジュースの摂取がO157による発症と有意な関連があった。

一方, 南部保健所による観光施設Bへの立ち入り調査では8月23日に実施した観光施設Bのサトウキビ圧搾機のふき取り検査, サトウキビジュースの収去検査, 従業員の便検査はすべて陰性であった。

沖縄衛研によるIS法の解析では, 情報提供のあった13症例23株においてISパターンが一致した。また, 国立感染症研究所細菌第一部で実施された反復配列多型解析法(MLVA法)では, 本事例株は5つのMLVA typeに分類されたが, 同一MLVA complexであり, 同一由来株であった(本号14ページ)。

4.考 察

本事例は, 疫学調査および菌株解析の結果から, 沖縄県内の観光施設内で販売されていたサトウキビジュースが原因と推定された広域食中毒事例である。サトウキビジュースは, 店舗内の冷蔵保管されていたサトウキビを機械で圧搾し, 非加熱の状態で提供されていた。南部保健所の立ち入り調査の結果, 加工段階で何らかの原因によりO157に汚染された可能性が考えられたが, 汚染経路の原因究明には至らなかった。また, 菌株解析の結果, 7月に県内で発生した2例のO157感染事例と遺伝子型が一致したが, これらの症例は遡り調査で本事例との共通項が見出されなかった。

広域食中毒事例では, 患者所在地管轄保健所による調査票が重要な情報源になるが, 通常の調査票では, 主に3食の喫食状況を聴取するため, 調査当初は共通食が判明しなかった。しかし, 第2波の調査の際, 3食以外の可能性を疑い, 新たに作成した追加調査票による調査依頼を行ったことで, 共通曝露源が判明した。通常の調査票で共通曝露が見出せない場合は, 症例の記述疫学での特徴を見出し, 追加調査票を作成することが重要であると考えられた。また, 感染症対策主管課と食中毒主管課の担当部署間や自治体を越えた迅速な連携も曝露源究明に大きく寄与したと考える。

本調査にご協力いただいた各自治体担当者の皆様, そしてご助言を頂きました国立感染症研究所関係者の皆様に深く感謝いたします。

 

那覇市保健所
 安藤美恵 赤嶺隆子 細田千花 山下将哉 池間 学 岸本 敦 仲宗根 正
 東 朝幸
沖縄県南部保健所 
 宮本雄二郎 大野 惇 崎山八郎
沖縄県保健医療部生活衛生課 
 平安綾子 大城哲也 與那原良克 
沖縄県保健医療部健康長寿課
 仁平 稔 山内美幸 山川宗貞
沖縄県衛生環境研究所
 髙良武俊 仲間絵理 喜屋武向子 柿田徹也 久場由真仁 加藤峰史 久高 潤
 上里 林

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