国立感染症研究所


DIFFUSE OUTBREAK

一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例

 EHECは、ウシの腸管内常在菌となることが多いため、解体時に汚染された牛肉自体や、直接あるいは間接的に便に汚染された、様々な食材や水源などが感染源となり得る。我が国では、加熱不十分な焼肉や生レバーの喫食が原因である事例が毎年少なからず報告されている。また、現在の複雑な流通事情を反映して、同一汚染食品が広範囲に流通した結果、一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例(diffuse outbreak)が発生している。例えば以下のような事例が存在する。

 

1998年: 北海道産のイクラを原因食品として7 都府県で患者49 名が発生。(参考文献)

2001年: 輸入牛肉を原材料とした「牛タタキ」を汚染源とし、7都県で193名の患者が発生。 (IASR 22, 135-136)。

 

 最近では、感染源が不明ではあるものの、遺伝子型が一致するEHEC O157が分離される事例が広域において発生する傾向がみられ、感染の拡大阻止にむけた原因究明が急務となっている(2007年に広域において見出された同一PFGEタイプを示す腸管出血性大腸菌O157について IASR 29: 119-120)。

上に示した図は2007年分離O157株、計1986株のPFGE解析で得られたデンドログラムと注目すべきPFGEタイプを示したものである。

中央やや右にグレーで示したPFGEタイプは宮城県で発生した集団事例で分離された菌株群を示している。ここで示した通り同一のPFGE型を示す菌株が多数になれば、デンドログラムが白く抜けたように見える。注目すべきは、赤で示した散発例由来株が、あたかも集団事例のようなクラスターを形成することがある。PFGE解析では、一見散発事例と思われる同時多発的な集団事例(diffuse outbreak)はこのような形で浮き彫りになる。時に、この中に集団事例株が含まれるPFGE型も存在する (PFGE type no. c47)。

2007年にPFGE type no. c47は、22都府県から119株が分離された。さらに詳細な解析からは、119株中114株については遺伝子構成が極めて類似し、関連性が高いことが示唆された。TN c47を示す株が分離された事例として、首都圏の大学での集団発生事例(図中左側グレー部分)(学生食堂で発生した腸管出血性大腸菌O157による大規模食中毒事例-東京都, IASR 29; 120-121)があり、その他の散発事例では、焼肉、生レバー等の食肉が原因食品として疑われた事例が複数確認されていた。しかしながら、汚染原因を確定するには至らなかった。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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