国立感染症研究所

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血液から分離されたHaemophilus influenzae  e型について―秋田県

(IASR Vol. 33 p. 164-165: 2012年6月号)

 

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae )は、1×0.3μmほどの多形性のグラム陰性桿菌で、気管支炎、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎といった市中感染症のほか、小児における細菌性髄膜炎の重要な起因菌として知られている。菌体の表面に莢膜と呼ばれる構造を持つ菌と持たない菌が存在し、莢膜は血清学的にa~fの6型に分けられる。しかしながら、小児の細菌性髄膜炎等の侵襲性感染症から分離される菌型はほとんどがb型(Hib)である。今回、患者の血液培養からH. influenzae  e型を確認したので報告する。

臨床(患者)情報
76歳男性。1995(平成7)年から狭心症として内服治療を受け、2006(平成18)年7月には、症状増悪にて右冠動脈病変に対してCypher stentが留置されていた。

2011(平成23)年1月に胃角部の胃癌のため腹腔鏡下幽門側胃切除術を受ける。手術自体の合併症はなかったが、術後から経口摂取不良による栄養障害が著明となり、一般状態が低下、全身の衰弱も顕著となっていた。

平成23年11月22日、咳嗽が強く、誤嚥性肺炎の診断にて入院となった。入院後ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)2.25g、1日2回の点滴などで治療が行われ、肺炎はいったん改善した。入院中に誤嚥性肺炎を再発し、12月7日からセフェピム(CFPM)1g、1日2回で治療が行われた。以後は中心静脈栄養で管理が行われたが、肺炎を反復し、12月26日からはセフメタゾール(CMZ)1g、1日2回で加療されたが高熱が続いた。2012(平成24)年1月6日からはセフォペラゾン/スルバクタム(CPZ/SBT)1g、1日2回で加療されたが、臨床的な改善はなく、1月18日にはCO2ナルコーシスとなり昏睡状態となった。家族の希望で人工呼吸器治療は施行されず、平成24年1月31日に永眠した。

菌分離と血清型別
平成24年1月5日の患者の静脈血培養から、H. influenzae (HI-2544)を分離した。HI-2544について、莢膜の血清型別を市販の抗血清(デンカ生研)を用いた免疫学的手法とPCR法(Falla, et al ., J Clin Microbiol, 32: 2382-2386, 1994)により行ったところ、e型の抗血清に特異的に凝集を示すとともに、PCRにおいてもe型に特異的なバンドが検出された(図1)。これらの結果から、H. influenzae  e型と判定された。

薬剤感受性
PIPC、CPZ/SBT、セファクロル(CCL)、セフタジジム(CAZ)、セフジニル(CFDN)、イミペネム(IPM)、レボフロキサシン(LVFX)についてディスク法により阻止円を計測した。また、アンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、メロペネム(MEPM)についてはE-testを用いてMICを測定した(表1)。

薬剤耐性遺伝子の検出
HI-2544について、PCR法によりbla TEM(今野ら, IASR 31: 209-210, 2010)およびbla ROB(Tenover, et al ., J Clin Microbiol 32: 2729-2737, 1994)の検出を試みたが、いずれも(-)であった。次に、penicillin binding protein(PBP)の変異を検出するため、β-lactamase-negative ampicillin-resistant H. influenzae (BLNAR)のgroup I、IIおよびIIIに特徴的なアミノ酸変異部分にプライマーを設計し、PCRを行ったところ、BLNAR group IIIに該当する増幅断片が得られた(図2)。

考 察
今回、誤嚥性肺炎から菌血症に至る中で血液培養よりH. influenzae  e型を確認した。

2008年の小児向けHibワクチンの販売に伴い、b型以外の菌型による侵襲性感染症の発生動向が注目されており、b型以外の血清型を確実に把握することは本菌による感染症の動向を把握する上で極めて重要である。特にe型が分離された症例は稀であるが、その臨床的な特徴はHibと同様と考えられている(Cerquetti, et al ., Clin Infect Dis 38: 1041, 2004)。また、BLNARの場合、治療に難渋することが多く、薬剤耐性の状況も併せて注視していくことが必要と思われる。

 

秋田県健康環境センター保健衛生部 今野貴之 八柳 潤 高橋志保 熊谷優子 和田恵理子 千葉真知子 齊藤志保子
大館市立総合病院 臨床検査科 佐藤謙太郎 奈良昇悦 三浦浩子 太田和子
ICD 高橋義博
大館市立扇田病院院長(内科医) 大本直樹

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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