国立感染症研究所

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ガーナにおけるブルーリ潰瘍

(IASR Vol. 33 p. 88-89: 2012年4月号)

 

ガーナの背景
ガーナ共和国は、アフリカ西部の赤道直下に位置し、人口は2,442万人、人口1人当たりの国民総所得(GNI)は1,240ドルで世界銀行の分類で低中所得国(Lower Middle Income Country)に位置づけられる。医療状況は、施設も人員も十分といえるレベルにはほど遠い(表1)。病院は大都市と州・県の行政機関がある街に限られ、他地域に居住する国民がアクセス可能な医療機関である保健センター(行政が設置したものが全国に1,081カ所)に常勤医師はいない。

疫 学
ガーナは、国別患者数でコートジボワールについで世界で2番目にブルーリ潰瘍の患者が多い1) 。1971年に初報告例があり、1993年以降で11,000人以上の患者が確認されている1) 。2010年の患者(再発例を含む)数は1,048例2) にのぼる。患者は、全国の全10州でみられている(図1)。2002年に報告された大規模調査(National Search for Cases of Buruli Ulcer)によれば、全国平均有病率は20.8人(対人口10万人)3) 。また、National Buruli Ulcer Control Programmeによる2009年の調査結果では、全国平均で新規感染患者 3.55人(同)が罹患し、特にAshanti州において新規患者総数の50.3%、Central州で新規患者総数の19.1%と多い2) 。一方、1989年van der WerfがDensu川流域(Ashanti州)に多く患者が居ることに着目し、以降、水辺とブルーリ潰瘍に因果関係が疑われている3) 。National Buruli Ulcer Control Programmeも、湖沼地帯、大きな河川沿いで発生していると指摘している。男女比について、2002年大規模調査(National Search for Cases of Buruli Ulcer)5,596例で51:49 3) 、2009年National Buruli Ulcer Control Programmeの調査851例では45.4:54.6 2)と報告している。発症年齢について、15歳以下に多いとの意見1)があるが、2009年846例の調査結果で0~5歳77例9.1%、6~15歳246例29.1%、16~49歳308例36.4%、50歳以上215例25.4%となっており2) 、2002年調査の5,596例では0.8歳~100歳で罹患者がみられ、平均は25歳、20歳以上は女性に、20歳未満は男性に多い3) と報告されている。

診断と治療
2002年のガーナにおけるブルーリ潰瘍の診断は、主に経験のあるHeath Workerによる臨床症状で行われていた3) 。近年では、臨床検査が併用され、実施率2004年4.1%、2005年15.9%、2006年23% 2) と、以降急速に普及している。Dorothy Yeboah-Manuによれば、現在ガーナでは、患部スメアおよび針穿刺組織の抗酸性染色検鏡、同培養、PCR(IS2404)が用いられるものの、PCRの普及は経済的理由で難しい4) 。このため抗酸性染色検鏡検査の精度を上げる努力がされている。患者が発生した場合、現在でも村落部では95%がまず伝統医療術師に相談する。このため大きな潰瘍に進展する例が多い5) 。運良くHealth Worker等にブルーリ潰瘍と診断されると、病院の医師へ紹介される。主には外科的治療となる6) 。この場合、再発は16~30% 6,7)。近年抗菌薬の役割が重要視され併用(または単独)されるようになった6) 。抗菌薬を使った場合、再発は2%程度となっている6,7) 。一般的に使用される化学療法は、WHOが推奨するRS8療法(Streptomycin 15mg/kg筋注1回/日+Rifampicin 10mg/kg経口1回/日を8週)または、同治療を4週行った後Rifampicin 10mg/kgとClarithromycin 7.5mg/kgを経口で1回/日で、良好な結果が得られている7) 。

問題点とその対応
ガーナの村落においては、ブルーリ潰瘍への偏見は根強く、「祟り」が原因と考え祈祷師や伝統医療術師に頼る者が多い。また、呪術師等により潰瘍創面に薬草を塗布され深刻化する例が後を絶たない5)。これに対し政府は、郡/市・集落ごとに保健センターや地域のHealth Workerを教育、教師等に学校衛生プログラムを実施、地域ごとに疫学ボランティアを養成する等を行い、ブルーリ潰瘍の正しい知識普及と早期発見に務めている8)。他方、患者が早期に診断を受けられた場合であっても、治療を行うための医療機関へのアクセスが難しい状況がある。解決すべき問題は少なくない。

 参考文献
1) WHO, http://www.who.int/buruli/en/
2) National Buruli Ulcer Control Programme-Ghana, http://www.burulighana.org/data.html
3) Amofah G, et al ., Emerg Infect Dis 8: 167-170, 2002
4) Yeboah-Manu D, et al ., J Clin Microbiol 49: 1997-1999, 2011
5) A Service of the UN Office for the Coordination of Humanitarian Affairs, http://www.irinnews.org/printreport.aspx?reportid=92036
6) National Buruli Ulcer Control Programme-Ghana, http://www.burulighana.org/about%20us.html
7) Sarfo FS, et al ., Antimicrob Agents Chemother 54: 3678-3685, 2010>
8) Health Foundation of Ghana, 
    http://www.hfghana.org/hfg_maincat_SUBselect.cfm?tblNewsCatID=5&prodcatID=1

外務省(在ガーナ日本大使館) 栗田 実

 

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