国立感染症研究所

ブルーリ潰瘍の検査

(IASR Vol. 33 p. 93-94: 2012年4月号)

 
検査に用いるサンプル
ブルーリ潰瘍の検査に必要なサンプルは、基本的には一般細菌感染症と同様で、抗菌薬治療の前に採取すべきである。ブルーリ潰瘍のみならず、一般細菌感染の疑いがある場合には、綿棒で潰瘍底などの皮疹部をこすり(swab)、あるいは浸出液や膿汁、さらに生検皮膚組織などをサンプルとして用いる。初期の検査で診断がつかず、再度の検体入手が困難な場合でも、病理組織標本のパラフィンブロックが保存されていれば、PCRによるブルーリ潰瘍スクリーニング検査のサンプルとして使用できる。また、小川培地での培養に成功し、鑑別同定する場合、その菌、あるいは抽出したDNAもサンプルとして用いられる。表1にはサンプルとその処理方法についてまとめた。

検査でわかること
a)抗酸菌の有無
スタンプ標本検査、あるいは病理組織検査で、チール・ニールセン(Z-N)染色により抗酸菌を検出する。Mycobacterium ulcerans subsp. shinshuense は、比較的菌体が短い特徴があるが、菌種の識別はできない。

b)M. ulcerans/M. ulcerans subsp. shinshuense M. marinum との鑑別
PCR法によってM. ulcerans およびM. ulcerans subsp. shinshuense に特異的なインサージョンシークエンス(IS)2404 を検出する(図1)。全長が1,274bpのIS2404 の154bpを標的にしたPCR法は感度が高く、サイズが短いためパラフィン切片サンプルからも検出できる。ただし、魚病由来のM. pseudoshotosii などヒト以外でIS2404 陽性となる菌種も知られているので、環境調査の際には注意が必要である。

c)M. ulcerans M. ulcerans subsp. shinshuense の鑑別
16S rRNA遺伝子検査を行い、特に3´末端のシークエンスを比較する。これまでの日本の症例や中国の症例はすべて、M. ulcerans subsp. shinshuense であった。

ブルーリ潰瘍確定診断検査のフローチャート図2を示した。培養検査は長期間を要するが、薬剤感受性検査や詳細な細菌学的検査を行うためには非常に重要である。培養11カ月でようやく培養に成功した例もあるので、25℃(室温)~34℃で、少なくとも3カ月は培養を続ける。あるいは国立感染症研究所ハンセン病研究センターへ、培養を委託することも可能である。

おわりに
日本ではこれまでブルーリ潰瘍の報告が少なく、認知度が低いため、ブルーリ潰瘍の検査が行われずに、慢性化してしまう症例が多かった。いったん症例を経験した施設では、早期の適切なサンプル採取により培養検査にも成功する場合が多い。今後この疾患を多くの人が知ることで、早期の検査で診断、治療が迅速に行われるであろう。

 参考文献
1) WHO, Buruli ulcer: diagnosis of Mycobacterium ulcerans  disease: amanual for health careproviders, 2001
 (http://whqlibdoc.who.int/hq/2001/WHO_CDS_CPE_GBUI_2001.4.pdf)
2) Nakanaga K, et al ., J Clin Microbiol 49: 3829-3836, 2011
3) Portaels F, et al ., J Clin Microbiol 34: 962-965, 1996
4) Nakanaga K, et al ., J Clin Microbiol 45: 3840-3843, 2007

国立感染症研究所ハンセン病研究センター感染制御部 中永和枝

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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