国立感染症研究所

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福井市でみられたアデノウイルス54型による流行性角結膜炎

(掲載日 2015/10/29)  (IASR Vol. 36 p. 227-228: 2015年11月号

2015年6月8日、当院に右眼の充血と眼脂で1歳女児が受診した。3日後には左眼にも同様の症状が出現したため、アデノウイルス迅速キットで検査したところ陽性であった。その後も6月19日、25日に1歳男児、3歳女児のアデノウイルス結膜炎がみられた。2例目の1歳男児は発熱もみられたため、咽頭結膜熱を疑った。6月に8例、7月に6例、8月に5例のアデノウイルス結膜炎を迅速キットで診断した。2015年1月以降8月末までの間に、アデノウイルス陽性であった26検体を福井県衛生環境研究センターにて型別を行った。その結果、6月8日からの乳幼児3例を含む18例がアデノウイルス54型であり、その他に37型5例、19型1例、53型1例、56型1例であった。実にアデノウイルス結膜炎26例の約70%が54型であった。また、18例の54型のうち7例が3歳以下で、成人では86歳の高齢者もみられた。

当院では、2003年から福井県衛生環境研究センターとアデノウイルス病原体サーベイランスを実施して型別を行っているが、54型は2005~2006年にかけて大流行した後は、2009年に1例みられただけであった。ところが、昨年2014年11月末に1例、12月に3例、2015年1月に4例と、突然アデノ54型が乳幼児を中心に増加した。その後2月に1例の成人で検出され、以降はみられなくなっていたが、6月に入って再び急増した。感染経路は保育園での集団感染とその後の家族内感染によるものが多かった。当院近隣の複数の眼科診療所でも、今年の夏はアデノウイルス結膜炎が多いとの情報を得ており、54型の関与が示唆される。

臨床症状は、前回の54型の大流行の時と同様に、成人では感染後約1週間が過ぎて結膜充血や眼脂が減少してきた頃から、角膜に点状あるいは雪玉状の角膜上皮下混濁が出現してくることが少なくない。このため視力障害を訴える患者もいて、混濁が消えるまでステロイド点眼剤を必要とすることが多い。近年に検出が稀になったアデノ8型によく似た眼障害を生じているように考える。

これに対し37型では、急性期が過ぎた頃から、点状の角膜びらんを生じてくる軽症例や、角膜の上皮が大きく剥離してくる重症例がみられる。角膜上皮が剥離してくると眼痛を訴えることも多いが、角膜混濁を残す症例は54型に比べて少ない。

53型と56型は新型のため、それぞれまだ5例観察しただけであるが、角膜に軽度のびらんや混濁を生じるものが多いようにみえ、54型のような強い角膜混濁を残す重症例はこれまでみていない。

アデノウイルス3型は、咽頭結膜熱を生じ眼症状は重症化しない。発熱や咽頭痛を伴うことも多く、比較的鑑別し易い。今回の乳幼児の54型感染患者の中には、発熱や咽頭痛を伴い3型と間違えやすい症例が少数みられたが、結膜に小児特有の偽膜や強い角膜混濁を生じるような重症例はなく、成人に比べて眼合併症を残さずに治癒していくものがほとんどであった。

9月以降も54型の流行がどのような経過をとるのか調査し、異なる型の流行が起こっていないか調べていきたい。また、型による角膜障害の重症度の違いについても、症例を増やして調べたいと考えている。

 
山岸眼科クリニック 山岸善也
福井県衛生環境研究センター 外川佳奈 小和田和誠 平野映子
二州健康福祉センター 野田 希
福井健康福祉センター 山田 聖
 

 

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