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IASR 457(3), 2024【特集】メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月

  メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症 1999年4月~2022年12月 (IASR Vol. 45 p33-34: 2024年3月号) (2024年3月27日黄色部分加筆、横線部分削除)   黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は, ヒトや動物の皮膚, 粘膜...

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海外帰国患者より新型カルバペネマーゼ(OXA-48型)産生肺炎桿菌等の分離

(IASR Vol. 33 p. 336-337: 2012年12月号)

 

2009年以降、欧州各国の医療機関で、OXA-48型の新型カルバペネマーゼを産生する肺炎桿菌などが急速に広がり、本菌による感染症では死亡率も高いことなどから、医療関係者の間で警戒されている1)  。OXA型β-ラクタマーゼは、クラスDに属するセリン型のβ-ラクタマーゼであり、元来、オキサシリンを効率よく分解するため、OXA 型と命名された。近年、OXA 型β- ラクタマーゼの中に、カルバペネムを分解するもの(OXA-23-like、OXA-24/40-like、OXA-51-like、OXA-58-likeなど)が出現し、それらは、主として、多剤耐性アシネトバクターで問題となってきた。しかし、OXA-48-like(以降、OXA-48型と記述)カルバペネマーゼが、2001年にトルコで分離されたカルバペネム耐性肺炎桿菌で最初に確認され、その後、地中海沿岸、欧州各国、インドなどに急速に広がりつつある。OXA-48型カルバペネマーゼの遺伝子は多くはプラスミド媒介性であり、これまで、主に肺炎桿菌で検出されるという特徴を示す。2010年頃より、フランス、スペイン、アイルランド、イタリアなどの医療機関で本菌によるアウトブレイクが発生するなど、欧州では医療関係者の間で大きな関心事となっている2, 3) 。

2012年11月に東南アジアのとある国で脳梗塞の治療処置を受け帰国し、東日本地域の医療機関に継続治療のため入院した60代の男性患者の喀痰や便などより、OXA-48型カルバペネマーゼを産生する肺炎桿菌や大腸菌が分離された。これらの株は、他に、CTX-M-1 グループのESBLも同時に産生し、OXA-48型カルバペネマーゼ単独では分解し難いセフタジジムにも耐性を示し、さらに、アミノグリコシド系やフルオロキノロン系など多くの抗菌薬に多剤耐性を獲得していた。しかし、イミペネムやメロペネムなどに対しては、日常的な検査方法では、「耐性」と判定されず、ともするとカルバペネマーゼ産生株であることが見逃されるところであった。今回の株は、多くの広域セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示したことから、ESBLの産生などが疑われ、種々のβ- ラクタマーゼ阻害剤を用いた検査が実施されたが、クラブラン酸で弱い阻害活性が観察されるものの、メタロ-β-ラクタマーゼの阻害剤であるEDTAや、AmpCやKPC型カルバペネマーゼの阻害剤であるアミノフェニルボロン酸では、阻害が確認されず、その耐性機序に疑問が残った。そこで、念のため、エルタペネムのdiskを用いた変法ホッジテストが実施された結果、エルタペネムの不活化現象が観察されたため、何らかのカルバペネマーゼを産生していることが強く疑われた。そこで、PCRによる遺伝子検出を実施したところ、NDM、IMP、VIM、KPC、OXA-23などの遺伝子はすべて陰性であったが、唯一、OXA-48型の遺伝子が陽性となった。なお、この患者からは、OXA-48型カルバペネマーゼを産生する肺炎桿菌や大腸菌とともに、OXA-23型カルバペネマーゼとArmAを産生する多剤耐性アシネトバクター・バウマニが、同時に分離されている。

オランダのロッテルダム地域では2011年の8月時点で98名の患者がOXA-48型カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌による感染症を発症し、そのうちの27名が死亡したとされる(参考資料)。また、最近、米国でも初めての2例の感染症例が報告されているが、そのうちの1名は、肝機能不全と敗血症性ショックで死亡している4) 。これらの事実から、この種の新型耐性菌が感染症を引き起こした場合、患者の生命予後を著しく悪化させることが懸念される。国内にOXA-48型カルバペネマーゼを産生する肺炎桿菌や大腸菌が侵入し医療現場で伝播拡散した場合、深刻な事態が発生することが想定されるため、監視と対策の強化が必要となっている。

海外帰国者等より、セフェム薬を含む広範な薬剤に耐性を獲得した肺炎桿菌や大腸菌が検出され、既知の耐性機構では説明がつけ難いなどの特徴を示す菌株である場合には、エルタペネムのdiskを用いた変法ホッジテスト5) を実施し、「陽性」と判定された際には、国立感染症研究所・細菌第二部または、名古屋大学大学院医学系研究科・分子病原細菌学/耐性菌制御学に相談して頂ければ、必要な解析支援を致します。

 

参考文献
1) Tzouvelekis LS, et al ., Clin Microbiol Rev 25: 682-707, 2012
2) Cuzon G, et al ., Antimicrob Agents Chemother 55: 2420-2423, 2011
3) Pitart C, et al ., Antimicrob Agents Chemother 55: 4398-4401, 2011
4) Mathers AJ, et al ., J Clin Microbiol, in press, 2012
5) Girlich D, et al ., J Clin Microbiol 50: 477-479, 2012


<語句の解説>OXA-48型カルバペネマーゼ:PCRにてOXA-48の検出用プライマーで「陽性」と判定される一群のOXA型カルバペネマーゼであり、OXA-48、OXA-54、OXA-162、OXA-181などが含まれ、これらは英文学術雑誌ではOXA-48-likeと総称される (荒川宜親、β-ラクタマーゼの構造と分類、化学療法の領域  Vol.28, No. 10, pp32-46,2012)。

 

参考資料:
     http://www.nih-janis.jp/participation/material/janis_knowledge_20111103.pdf

 

国立感染症研究所細菌第二部 柴山恵吾
名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学分野 荒川宜親

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan