国立感染症研究所

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スペインにおけるクリミア・コンゴ出血熱(ECDCリスク評価:2016年9月8日現在)

(IASR Vol. 37 p.258: 2016年12月号)

2016年8月31日,スペインのマドリードにある自治コミュニティより2例のクリミア・コンゴ出血熱(CCHF)症例の報告がなされた。最初の1例は62歳の男性で,スペイン国内のÁvila州において,CCHFウイルスへの曝露があった可能性が考えられている。2例目は1例目が入院した集中治療室において当該患者の診療にあたった50歳の医療従事者である。これらの患者はヨーロッパの南西部に位置するスペインにおいては初めての国内例であることから,ECDCは本事例に関して迅速なリスク評価を発出した。

 近年,スペイン西部のExtremadura州の自治コミュニティのマダニよりCCHFウイルスが検出されていることから,野生動物の間でCCHFウイルスの循環があることが示唆されている。ゆえに,CCHFウイルス感染の発生はスペインにおいては予期せぬものではない。CCHFの非侵淫地域におけるCCHFの院内感染も,適切な感染防護策が行われていなければ発生する可能性はある。

以上より,スペインにおけるCCHFウイルス感染の発生する確率は低いが,今後も孤発例の発生はあり得る。医療機関における,さらなるヒト?ヒト感染については,適切な感染防護策の適用によって著しくリスクを下げることができる。

リスクを減少させる選択肢については以下の通りである。

・CCHFウイルスの循環している可能性のある地域における医療従事者においては,早期診断および検査確定の重要性があることをさらに知らしめること。迅速かつ適切な症例の治療は症例の死亡を減らすためには非常に重要である。

・標準予防策を,できるだけ接触および飛沫予防策と連携して実施することが,出血熱に合致する症状を示すCCHFの疑いを含む患者の診療に従事する医療機関においては採られるべきである。

・患者検体を用いた検査診断は感染伝播の高いリスクがあり,適切な生物学的封じ込めの対応が可能な機関においてのみ行われるべきである。

・予防策としては,リスクのあるグループに対しては感染経路について周知されるべきであり,マダニ刺咬の予防策に関する助言を遵守するように促すべきであること。

-動物,特に家畜に近接して働く人々(例:畜産業または屠殺場の労働者,獣医師など)

-野外での活動を通じて,ダニへ曝露されやすい人(例:ハンター,森林労働者,ハイカーなど)

-ヒトからヒトへの感染のリスクがある医療提供者

・予防策をより効果的に実施し,臨床上の注意喚起を行うために,CCHFウイルスが循環している地域およびイベリア半島においてCCHFが循環することが適していると考えられる地域を,多分野の調査により定義するべきである。特に,CCHFリスク・マッピング,生態学的および環境に関する研究,宿主動物の血清調査および昆虫学的調査を実施することが含まれる。

・曝露後予防としてのリバビリンの使用については,有効性に関する低いレベルの証拠しかないが,リスクの高い曝露の後には考慮されるべきである。

・スペインにおいて検出されたCCHFウイルス遺伝子のシークエンスは,イベリア半島において循環しているウイルスの遺伝子学的な多様性に関して追加の情報を提供するものである。

・スペインの侵淫地域においては孤発症例が発生する可能性はあることから,輸血および移植の専門家は,侵淫地域におけるCCHFの可能性を認識すべきである。しかし,この段階では,ヒトに由来する物質 (SoHO) の安全性に関する特別の措置は推奨されていない。

イベリア半島におけるダニおよびCCHFの背景

イベリア半島南東部にはHyalomma marginatumとHyalomma lusitanicumのマダニが生息している (スペインおよびポルトガル)。CCHFウイルスは,2010年にスペインのCáceres州にて採集されたHyalomma lusitanicumのマダニより検出されたが,CCHFウイルス遺伝子の200bpのフラグメントによると,このウイルスはバルカン半島における遺伝子型Vよりも,アフリカにおける遺伝子型IIIに近いと考えられている。2010~2013年の間に,スペインのExtremadura 州自治コミュニティにおいて採取された681頭のマダニのうち24頭のHyalomma lusitanicumについてCCHFがPCRで陽性となり,アフリカにおける遺伝子型IIIとシークエンス上の相同性が認められた。また,2014年にはExtremadura州において,鹿,キツネ,牛から採取されたHyalomma lusitanicumの3頭のマダニにおいて,CCHFが陽性であった。予備的な遺伝子解析の情報からは,今回(2016年)の2例のヒト感染症例から得られたCCHFウイルスのシークエンスと,2010~2013年の陽性例Hyalomma lusitanicum23頭におけるCCHFシークエンスは類似している。

 

(元文献)
(抄訳担当:感染研・砂川富正)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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