国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.35 No.5(No.411)

腸管出血性大腸菌感染症 2014年4月現在

(IASR Vol. 35 p. 117-118: 2014年5月号)

 

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症を医師が診断した場合には、感染症法に基づき3類感染症として保健所に全数届出を行い(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)、感染症サーベイランスシステム(NESID)に報告される。その一部については(医師が食中毒として保健所に届出をした場合や、保健所長が食中毒と認めた場合)、食品衛生法に基づき、各都道府県等において食中毒の調査および厚生労働省(厚労省)への報告も行われる(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO233.html)。地方衛生研究所(地衛研)等はEHECの検出、血清型別、毒素〔ベロ毒素(VT)または志賀毒素(Stx)と呼ばれる〕型別等を行い、NESIDに報告している(本号3ページ)。国立感染症研究所(感染研)・細菌第一部では、必要に応じて血清型別、毒素型別の確認検査を行うと同時に、PFGE法やMLVA法による分子疫学的解析を行い、集団事例株および散発的に発生している散在的集団発生事例株の解析を行っている(本号1213ページ)。これらの解析結果は各地衛研へ還元されるとともに、食中毒調査支援システム(NESFD)で情報提供されている。 

感染症発生動向調査:感染症法に基づくNESIDへの報告では、2013年にはEHEC感染症患者(有症者)2,624例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される) 1,422例、計4,046例が診断された(表1)。有症者数は2009~2012年まで(それぞれ2,602例、2,719例、2,659例、2,363例)と比較してほとんど変化がない。季節的には夏期に報告が多く、2013年も同様であった(図1)。都道府県別報告数(無症状を含む)は、東京382例、福岡271例、神奈川218例、愛知211例、北海道207例の上位5都道県で全体の32%を占めるが、人口10万対では宮崎(8.35)が最も多く、佐賀(8.19)、富山(7.95)がそれに次いだ(図2左)。0~4歳について人口10万対報告数を都道府県別にみると、宮崎、長崎、島根が多かった(図2右)。例年同様有症者の割合は男女とも30歳未満、60歳以上で高かった(図3)。

溶血性尿毒症症候群(HUS)を合併した症例は87例(有症者の3.3%)で、そのうち55例から菌が分離され、血清群はO157が48例、O26が3例、O76、O111、O121、O165が各1例で、毒素型はVT2 陽性株(VT2単独またはVT1&2)が54例、VT型不明が1例であった(本号14ページ)。届出時またはその後に情報が得られた死亡例は4例(うちHUS発症例は1例; 5歳、他は70代1例、90代2例)、すべて女性であった。

地衛研からのEHEC検出報告:2013年のEHECの菌検出数は2,086であった(本号3ページ)。この検出数はEHEC感染者報告数(表1)より少ないが、これは、医療機関や民間検査機関で検出された株の一部が地衛研に届いていないためである。全検出数における上位3位のO血清群の割合は、O157が52%、O26 が25%、O111が7.2%であった。分離EHEC株の毒素型(産生性が確認されたVT型またはVT遺伝子型)は、2013年も例年同様、O157ではVT1&2 が最も多く、63%を占めた。O26 ではVT1 単独が最も多く、96%を占め、O111ではVT1&2 が最も多く、78%であった。O157が検出された1,077例中、不詳を除く1,044例の主な症状は腹痛60%、下痢60%、血便50%、発熱22%であった。 

集団発生:2013年に地衛研からNESIDに報告されたEHEC感染症集団発生は34事例あった。このうち菌陽性者10人以上の22事例を表2に示す。19事例では保育施設における人から人への感染が拡大原因とされた(本号1011ページ)。一方、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2013年のEHEC食中毒は13事例、患者数105名(菌陰性例を含む)であった(2011年は25事例714名、2012年は16事例392名であった)(本号4ページ)。感染研・細菌第一部での解析から、相互の疫学的関連が不明な散発事例間で同一のPFGEパターンを示す菌株が広域から分離されていることが報告されている(本号12ページ)。

予防と対策:牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚労省では生食用食肉の規格基準を見直し(2011年10月、告示第321号)、牛肝臓内部からEHECO157が分離されたことから、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月、告示第404号)(IASR 34: 123-124, 2013)。これらの措置により、生肉・生レバーの喫食が原因と推定されるO157感染事例の報告数は2011年以降に減少し、2013年末現在までその傾向は継続していると考えられる(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000041452.pdf)。2012年には、漬物によるO157の集団発生を受けて、漬物の衛生規範が改正されている(2012年10月12日、食安監発1012第1号)。EHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本を守り、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないことが重要である(http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html)。2013年には大規模な食中毒事例は発生しなかったが、今後も食品および調理従事者の適切な衛生管理を徹底する必要がある。

EHECは赤痢菌同様、微量の菌でも感染が成立するため、人から人への経路で感染が拡大しやすい。2013年は保育所での集団発生が多数発生しており(表2、本号1011ページ)、その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(2012年改訂版・保育所における感染症対策ガイドラインhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02_1.pdf)。もし患者が出た場合には、家族内またはコミュニティ内での二次感染を防ぐため、保健所等は、感染予防の指導を徹底する必要がある。

 

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