国立感染症研究所

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保育所における腸管出血性大腸菌O26 集団感染事例―岐阜県

(IASR Vol. 33 p. 126-127: 2012年5月号)

 

2011年7月、岐阜県北部の保育所において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O26 による18名の集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

2011年7月25日、医療機関から管轄保健所にEHEC O26感染症患者1名の発生届があった。患者(幼児)は7月16日から水様性下痢や発熱の症状を呈し、20日に医療機関を受診していた。保健所が健康調査を実施したところ、患者が通園していた保育所において、この児童以外にも下痢などの症状による欠席者があり、7月中旬から欠席者が増加していることが判明した。このため、この保育所の児童(70名)と職員(20名)全員を対象とした検便および健康調査を開始した。また、防疫措置として、保育所の施設消毒の実施、手洗い・消毒の指導、プールの使用自粛などの指導を行った。初発患者および検便により菌陽性が確認された者に対しては、家庭内での二次感染防止のため、家屋の消毒、手洗いなどの衛生指導を行った。

検便の結果、8月1日までに保育所の児童13名と職員1名からEHEC O26が検出された。また、菌陽性者の家族の検便において3名(うち県外1名)の菌陽性者が確認された。初発患者を含めた県内の菌陽性者計17名から検出されたEHEC 17株は、すべて血清型がO26:H11、毒素型がVT1 であった。また、制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析では、17株すべての泳動パターンが一致し、同一の感染源に由来した集団発生であったと考えられた。PFGEの泳動結果の一部(6株)をに示した。また、岐阜県内では5月頃からEHEC O26感染症が複数発生していたため、同時にPFGE解析を実施したところ、本事例と同時期(7月)・同地域(県北部)で発生していた2件(家族)4名の分離株が、本事例の株と同一パターンを示した。このパターンは同時期に同地域のみで検出されていたことから、同一の感染源による発生が強く示唆されたが、この4名と保育所との接点は確認されず、感染源の特定には至らなかった。

菌陽性者18名のうち、有症者はこの保育所の児童(10名)のみで、発症日は7月16~29日であった()。症状は、軟便6名、下痢3名、発熱3名、腹痛1名と比較的軽度で、血便や溶血性尿毒症症候群などの症状は認められなかった。今回児童においても無症状の保菌者が4名いたこと、また、有症者の症状も軽度であったことが、EHEC感染の発見の遅れと感染拡大の要因となったと推測された。

検査対象者および児童のクラス(A~F)別発生状況では、初発患者が在籍していたDクラスの他に、CクラスおよびEクラスにおいて高い陽性率であった()。この3クラスは保育室が横並びで、CクラスとDクラスはトイレが共用、また、DクラスとEクラスは続き間となっており、普段から児童らの接点の多い関係にあった。このため、特にこの3クラス内において感染が拡大したと推測された。この3クラス以外にはBクラスに2名の菌陽性者がいたが、ともにこの3クラスの菌陽性者の家族であったため、感染経路として保育所内での感染以外に自宅での家族内感染も考えられた。特にうち1名はさらに別の家族からも菌が検出されていたことから、家族内感染の可能性が高いと推測された。


岐阜県保健環境研究所 白木 豊 野田万希子 小林香夫
岐阜県飛騨保健所

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