国立感染症研究所

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老人福祉施設における腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事例について─福岡県

(IASR Vol. 33 p. 124-125: 2012年5月号)

 

2011(平成23)年12月19~23日、粕屋保健福祉事務所管内の老人福祉施設において、Stx1&2を産生する腸管出血性大腸菌O157:H7 (O157)による集団食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

発生状況
12月21日、粕屋保健福祉事務所へ管内の老人福祉施設から「施設入所者6名が下痢(血便)等の症状を呈している。」との連絡があった。同施設に確認したところ、前日の20日に下痢(血便)を主症状とする複数の入院患者が出ていることが判明したことから、同事務所は食中毒および感染症の両面から調査を開始した。

当該施設は、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、短期入所生活(医療)介護サービスならびに、リハビリテーション施設等が同一施設内にある複合施設であり、同施設内の給食施設で調理した給食を入所者および通所者(昼のみ)に提供していた。在籍人数は、入所者 119名、通所者20名ならびに職員 111名、合計 250名であった。

検査結果
12月22日より、有症者便13件、職員便17件、ならびに検食(保存食)のうち調理品 145件、原材料47件、合計 222件について食中毒細菌検査を開始した。その結果、有症者便10件からO157(Stx1&2を産生)が検出された。12月14日に提供された給食の食材「きゅうり」からも同菌が検出され、その日の給食を食べた職員の便(1件)からO157(Stx1&2を産生)が検出されたため、有症者、職員由来株および「きゅうり」由来株についてIS-printing systemによる解析を行ったところ、いずれも同一のクラスターに分類された。なお、「きゅうり」の生産地までの遡り調査では、他に同様な状況は確認できなかった。

12月29日、粕屋保健福祉事務所は、疫学調査および有症者便等の検査結果から、同施設を原因施設とする食中毒と断定し、同施設に対し食品等の衛生的取り扱いについて厳重注意を行った。

考 察
本事例は、有症者、職員等の喫食状況等の疫学調査結果とO157検出状況から、12月14日の給食(昼および夜)が原因食品であることが強く疑われ、使用された原材料の「きゅうり」からのみO157が検出され、その日の給食から同菌は検出されなかった。また、原材料の「きゅうり」がO157に汚染されていた可能性は否定できないにしても、遡り調査による同様の事例が他に発生していない状況を考慮に入れると、「きゅうり」は他からの二次汚染を受けた可能性が高い。当該給食がO157に汚染された経路については特定することができなかったが、次のような問題点があった。

 (1)検食の表示が不備(朝・昼・晩を区別した表示をしていない)であった。
 (2)保存量が確保されていないものがあった。
 (3)調理された給食とその原材料が対応していない。
 (4)加熱済み食品や非加熱提供食品への二次汚染防止体制が不十分であった。
以上のことから、一般衛生管理の不備が事件発生の背景にあったことは明らかであり、調理従事者やその管理者に、衛生管理の改善と原因究明における保存食の必要性とその意義について、理解と協力を促す徹底した衛生教育が重要と考えられた。
 
福岡県保健環境研究所保健科学部病理細菌課
竹中重幸 濱崎光宏 江藤良樹 市原祥子 村上光一 堀川和美
福岡県粕屋保健福祉事務所
山口佳苗子 石川 由 高山理恵 高田ひろみ 井手 修 安田寛二
福岡県保健医療介護部保健衛生課 山崎知絵

 

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