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アメーバ赤痢報告数の増加、2010~2013年

(IASR Vol. 35 p. 223-224: 2014年9月号)

アメーバ赤痢は腸管寄生性原虫であるEntamoeba histolyticaの感染により引き起こされる感染症で1)、感染症法では5類全数把握疾患(2003年11月の法改正以前は4類)である2) 。近年、健診時などに大腸内視鏡検査で同定される報告例が散見される3)。2011年2月から、症状欄の「その他」に記載されていた「大腸粘膜病変」が、新たに症状欄に追加された。アメーバ赤痢による大腸潰瘍の内視鏡所見は、アフタ様、またはヘビタマ様と称されるものが多く、潰瘍周囲は浮腫状に盛り上がることが多い4)

その後の発生動向の変化を調べることを目的とし、2000~2013年の感染症発生動向調査のデータを2014年3月1日に抽出した。罹患率算出のために、厚生労働省の人口動態統計(各年の10月1日現在の人口)を用いた。

 2011年以前の報告数は約800例前後で推移していたが、2012年以降900例を超えてきており、人口10万人当たり報告数も同様に2012年以降増加していた()。この増加は国内感染例によるものであった。国内感染例に関し、2010~2011年と2012~2013年の各2年間における報告数を比較したところ、男性の報告数が9割近くを占める傾向は変わらなかったが、女性の報告数は増加傾向であった(増加率は男性17.9%、女性26.7%)()。

主な増加は無症状例で、大半は男性によるものであり、男性では110例(9.4%)から229例(16.7%)、女性では6例(3.6%)から14例(6.7%)へと増加していた。無症状例の大半を占める男性のほとんどが、大腸内視鏡検査を診断で利用していた〔108例(98.2%)から228例(99.6%)〕。推定感染経路の割合は、男女ともに性行為感染が依然として多かった。男女ともに約半数の症例は不明であったが、女性では不明の症例は減少した。感染経路が判明している中で、男性は同性間性的接触と異性間性的接触が同程度であり、女性では性的感染の割合が26.0%から37.3%に増加し、大半が異性間性的接触であった()。

2012年以降、国内例を中心に報告数が増加していた。無症状で大腸内視鏡検査により診断される男性例が増加していたことから、これまで無症状で診断されていなかった症例が診断・報告されてきている可能性が考えられた。また、推定感染経路の分析からは、これまでハイリスクグループとして指摘されてきた男性と性行為をする男性(MSM) 5)以外の集団にも感染が広がっている可能性が危惧された。無症状病原体保有者や再感染を繰り返す場合は、メトロニダゾール投与後にパロモマイシンが併用される。本邦では、2014年にパロモマイシン内服が認可された。国内で有効な治療の選択肢が増えたことから、今後、積極的な診断および治療が期待される。また、無症状病原体保有者からの感染例の報告もあり6)、感染予防の観点から無症状病原体保有者を含む感染例の適切な把握が重要であると考えられる7)

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている全国の地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

 

参考文献
  1. Walsh JA, Rev Infect Dis 8: 228-238, 1986
  2. IASR 28: 103-104, 2007
  3. Kishihara T, et al., Progress of Digestive Endoscopy 73(2): 77-79, 2008
  4. IDWR 30: 9-12, 2002
  5. Hung CC, et al., Am J Trop Med Hyg 84(1): 65-69, 2011
  6. Blessmann J, et al., J Clin Microbiol 41(10): 4745-4750, 2003
  7. Blessmann J, et al., N Eng J Med 347(17): 1384, 2002

国立感染症研究所      
  実地疫学専門家養成コース 
  同感染症疫学センター     
  同寄生動物部 

 

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