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2016年夏から冬にかけて種々の疾患から検出されたヒトパレコウイルス3型について―富山県

(IASR Vol. 38 p.64-65: 2017年3月号)

2016年8月~12月にかけて, 富山県内の5医療機関に通院または入院した無呼吸発作, 脳症および筋炎などの患者計8名から, ヒトパレコウイルス3型(HPeV3)が相次いで検出されたので報告する。患者の概要を表に示す。8名のうち, 4名が生後1か月齢の乳児であり, うち1名は意識障害や循環不全を伴う脳症例で, 2名は無呼吸発作をおこした。また, 4歳, 5歳, 7歳ならびに37歳の計4名には, 筋肉痛(四肢, 主に下肢)や下肢あるいは前腕の脱力がみられた。今回の症例のうち, HPeV3の感染経路として, 家族内感染が考えられる例が5例あり, それらの症例では, ほぼ同時期に父母や子, 兄弟が発熱や上気道症状や筋痛症状を呈していた。上述した8名の予後は良好であったが, 急性期に脳症などを発症・併発した例は, 退院後にも経過観察が必要となっている。

ヒトパレコウイルス(HPeV)の検出は, RT-PCR法1)により行った。遺伝子増幅産物の遺伝子配列はダイレクトシークエンス法により決定し, BLAST検索により確認した。無呼吸発作や上気道炎の症例については, その他にRSウイルス, ライノウイルス, エンテロウイルス, パラインフルエンザウイルス, メタニューモウイルス, ボカウイルスおよびアデノウイルスの遺伝子検出を(RT)-PCR法にて行った。筋痛症の症例については, HPeVの他にエンテロウイルス検出のためのPCRも行った。その結果, 1症例(における番号1)の糞便と咽頭拭い液からライノウイルス(A群)が, 1症例の咽頭拭い液(番号4)からエコーウイルス18型がそれぞれ検出されたが, その他の6症例からはHPeV3のみが検出された。Vero, MA104, RD, HEp-2およびCaco-2細胞を用いた細胞培養法では, ウイルスは分離されなかった。

HPeV3は, 小児や成人における胃腸炎や上気道炎の原因ウイルスのひとつであり, 2~3年周期で夏を中心に流行すると考えられている2)。また, 生後3か月未満の新生児や早期乳児においては敗血症様症状, 髄膜炎, 脳炎あるいは無呼吸発作などの併発3), あるいは小児や成人においては筋痛症をおこすことが知られている4,5)。富山県においては, 2010年と2011年にそれぞれ無呼吸発作と筋炎の各1症例から検出されている。2016年夏期は全国的にHPeV3の検出が多く報告され6,7), 富山県においても流行していたことが推察される。HPeV3の検出は冬期の現在まで続いており, 今後の発生動向に注意する必要がある。また, 親子や兄弟など, 家族間での感染事例が多いことから8), 接触感染に対する啓発も必要と思われる。

  

参考文献
  1. Ito M, et al., J Gen Virol 85: 391-398, 2004
  2. Mizuta K, et al., Epidemiol Infect 144: 128-1290, 2016
  3. 相澤雄太ら, ウイルス 65: 17-26, 2015
  4. Mizuta K, et al., J Clin Virol 58: 188-193, 2013
  5. Yamamoto S, et al., J Med Microbiol 64: 1415-1424, 2015
  6. 小川英輝ら, IASR 37: 181-182, 2016
  7. 国立感染症研究所感染症疫学センター, IASR, 速報グラフ, ウイルスその他
    https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data84j.pdf
  8. Aizawa Y, et al., J Clin Virol 70: 105-108, 2015

富山県衛生研究所ウイルス部
 板持雅恵 稲畑 良 稲崎倫子 米田哲也 佐賀由美子 小渕正次
富山県新川厚生センター 齋藤知里 広明秀一
富山県健康課 三井千恵子 新保孝治 加納紅代
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黒部市民病院小児科 篠崎健太郎
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