国立感染症研究所

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<特集> 急性B型肝炎 2006年4月~2015年12月

(IASR Vol. 37 p. 147-148: 2016年8月号)

急性B型肝炎は, ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)のB型肝炎ウイルス(HBV)感染による急性肝炎である。潜伏期は約3カ月間である。一般に全身倦怠感, 感冒様症状, 食欲不振, 悪感, 嘔吐などの症状で急性に発症して, 数日後に褐色尿や黄疸を伴うことが多い。B型肝炎は感染年齢により予後が異なり, 乳幼児の感染では無症状のままキャリア化することが多い(本号10ページ)。一方, 成人の感染ではそのほとんどが一過性で1~2カ月で治癒する。しかし1%は劇症化し, その約6~7割は死亡する。免疫状態が正常な成人ではキャリア化することは少なく, 乳幼児および成人のキャリアの一部が慢性肝炎となる(本号11ページ)。

感染症発生動向調査に基づく届出

急性B型肝炎の発生動向の把握は, 1987年に感染症サーベイランス事業の対象に加えられ, 全国約500カ所の病院定点から月単位の報告による調査として開始された。その後, 1999年4月の感染症法施行により, 4類感染症の「急性ウイルス性肝炎」の一部として全数把握疾患となり, さらに2003年11月の感染症法の改正に伴い5類感染症の「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に分類され, 慢性肝炎, 肝硬変, 肝がんを除く急性B型肝炎が感染症発生動向調査の対象となっている。届出基準に基づき診断した医師は, すべての症例の診断後7日以内の保健所への届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html)。本報告では, 感染症法の下で, 届出票が改訂された2006年4月以降2015年12月までに診断・報告された急性B型肝炎についてまとめる。

2006年4月~2015年12月に「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」の届出報告は2,400例(2016年5月27日現在)で, そのうちB型肝炎が1,933例(81%), C型肝炎366例(15%), B型肝炎およびC型肝炎1例, その他のウイルス性肝炎100例(サイトメガロウイルス73例やEBウイルス24例など。重複あり)であった。急性B型肝炎と診断・報告された年当たり報告数は174~236例(男性134~195例, 女性34~54例)である(図1)。

症状:2006年4月~2015年12月までに報告された急性B型肝炎1,933例の症状および所見は, 肝機能異常が1,492例(77%), 全身倦怠感1,412例(73%), 黄疸1,163例(60%), 褐色尿716例(37%), 発熱385例(20%), 嘔吐315例(16%)である。劇症肝炎は44例(2%)であった。その他, 224例(12%)で食欲不振, 腹部違和感, 胃部違和感, 関節痛等が記載されていた。2006年4月~2015年12月における届出時点での死亡は10例であった。

性別・年齢分布・感染原因:2006年4月~2015年12月に報告された1,933例は, 男性1,503例, 女性430例で, 男女比(男/女)は3.5であった。各年の男女比は3倍以上(2006年のみ2.5)で, 明らかな性差が認められた(図1)。
 
年齢群別では, 男女ともに25~29歳にピークがみられ, 14歳以下の小児や70歳以上の高齢者の報告は少なかった(図2)。

1,933例の感染原因・経路(複数回答を含む)は, 性的接触が1,349例(70%)と大部分を占め, 針等の鋭利なものの刺入47例(2.4%)(男性28例, 女性19例), 輸血・血液製剤13例, 母子感染3例, 静注薬物常用1例, その他・不明は533例(28%)であった。さらに, 性的接触を詳細にみてみると, 男性の性的接触感染(1,091例)のうち, 異性間性的接触が715例(66%), 同性間性的接触226例(21%), その他・不明170例であった(同性間・異性間の重複20例)。女性の性的接触感染(258例)では, 大半が異性間性的接触(231例, 90%)で, その他・不明27例であった。性的接触が感染原因の患者年齢分布のピークは男性25~34歳, 女性20~29歳であった。

1,933例における確定・推定された感染地域は, 国内感染が1,786例(92%), 国外感染127例(7%), 国内あるいは国外での感染11例, 国内・国外不明が9例であった。国内感染では69%(1,234/1,786)が性的接触感染で, 国外感染においても83%(105/127)が性的接触感染であった。

都道府県別報告状況:2006年4月~2015年12月の間に全47都道府県から1,933例報告された。東京都380例, 大阪府182例, 兵庫県139例の順に報告数が多く, 13県は報告数10例以下であった()。人口当たりの報告数では, 岡山県, 宮崎県, 広島県の順に多かった。

733医療機関から届出があり, 20例以上の届出があったのは8医療機関(1.1%), 407医療機関では1例報告のみであった(56%)。

診断方法:2006年4月~2015年12月に報告された1,933例のうち, 1,921例(99%)は血清検査によるIgM-HBc抗体の検出, 16例はPCR法による診断であった(うち抗体検査併用13例)(本号3&8ページ)。

さらに, 2013年以降に報告された遺伝子型分類では, 遺伝子型Aは164例(49%), 遺伝子型Bは65例(20%), 遺伝子型Cは104例(31%)であった(本号5ページ)。

輸血後肝炎対策
わが国では輸血後肝炎対策として, 1960年代後半に輸血用血液を売血中心から献血制度に変更し, 1972年から輸血用血液のHBs抗原スクリーニングが導入された。1989年からはHBV検出のために輸血用血液および血漿分画製剤原料血漿についてHBs抗原, HBc抗体**検査が実施されてきた(図3)。2008年にHBs抗原陽性率, 2012年にHBc抗体陽性率が増加したのは, それぞれ化学発光酵素免疫法の導入, 検査基準厳格化が行われ, 検出感度が上がったためである(本号3ぺージ)。さらに, 抗原・抗体検査では陰性のHBVのウインドウ期の献血があるため, 1999年10月からは全献血血液中のHBV血清学的検査陰性検体に対する核酸増幅検査(NAT)が導入され, 感染後検査陽性になるまでのウインドウ期が短縮された。
母子感染対策
1985年6月から「B型肝炎母子感染防止事業」が開始され, これにより母子間のHBV感染によるキャリアの発生は劇的に減少した。2016年10月からB型肝炎ワクチンの全出生児を対象にした定期接種が開始されるため, 小児における水平感染の減少が期待される(本号6,9&10ページ)。
まとめ
最近数年間の急性B型肝炎の報告数は年間170~240例の範囲でほぼ横ばいである。輸血による感染は減少し, 性的接触による感染が約7割を占めている。性的接触による感染は20代~30代前半に年齢のピークがあることを考慮し, 適切な時期の予防啓発を行う必要がある。急性B型肝炎と診断・報告された症例中, 4割は黄疸を示していなかったことから, 肝機能異常が指摘されるまでは, 感染を自覚しない感染者が多数いる可能性がある。機会があれば肝機能検査を受けることが望ましい。

HBs抗原:HBV感染後早期に検出される。HBs抗原が陽性であればHBVに感染している状態。
**HBc抗体:HBc抗体陽性であればHBVの既往がある。IgM-HBcは感染初期に検出される。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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