国立感染症研究所

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当初は水痘を疑って対策を行ったCA6による手足口病の1例-臨床現場からの報告

(IASR Vol. 34 p. 204: 2013年7月号)

 

2013年6月10日、当院Infection Control Team(ICT)に小児科から小児科病棟内にある小児集中治療室(PICU)で水痘疑い症例が発生したとの連絡が入った。当該患児は5月中旬よりPICUに収容されており、同室に収容されている他の児との直接の接触はなかったが、水痘は空気感染を感染経路に持つ極めて感染力の強い感染症であり、また発疹が6月8日から出現していたことから感染拡大防止対策の早急な立案と実施が求められていた。ICTは直ちに小児科病棟に赴き、小児科と共同で対策に当たった。以下にその結果を記述する。

症例:2歳0カ月 女児

基礎疾患:ダウン症、心室中隔欠損、肺高血圧症

水痘罹患歴・水痘ワクチン接種歴:ともに無し

現病歴:2013年5月16日に喘鳴が出現、低酸素血症をきたして当院小児科病棟にあるPICUに入院。低酸素血症は順調に改善して退院も予定されていたが、6月8日に臀部を中心に限局した発赤を伴う丘疹が多数出現し、6月10日には両上下肢、顔面等全身に同様の丘疹が多発、一部水疱形成をきたした。発疹出現に伴った発熱はみられなかった。

小児科病棟にて協議を行い、当該患児の隔離、PICUの使用制限、また同室児の発症予防策として6月14日から抗水痘・帯状疱疹ウイルス薬の内服を開始すること等が決定された。一方、当該患児の発疹は両上下肢に多発しているものの体幹部にはほとんど認められておらず、頭皮にはみられなかった。丘疹は5mm程度と水痘に矛盾しない大きさであったが水疱形成の程度は軽く、痂疲化しているものはなく、また色素沈着しているものもなかった。PICU入室後26日目に発疹が出現していたこと等からも、当該患児の水痘発症の可能性は否定できないものの、2011年に全国的に流行したコクサッキーウイルスA6(CA6)による手足口病に類する感染症を発症している可能性が考えられた。

既に水痘・帯状疱疹ウイルスに対する特異的検査のための検体提出は行われていたが、協議を行った結果、エンテロウイルスの感染を検知するための検査についても、当該患児の咽頭ぬぐい液、水疱内液、糞便の3検体を採取し、実施することとなった。

水痘・帯状疱疹ウイルスに対する特異的検査の結果は6月12日に明らかとなり、血清検査による特異的IgG、IgMはともに陰性、また水疱内液に対する同ウイルス特異的抗原検査も陰性であった。また、同日のうちに咽頭ぬぐい液、水疱内液、糞便の3検体すべてからPCR検査によりエンテロウイルスの存在が明らかとなった。この連絡を受け、当院ではPICUの使用制限を解除し、当該患児の水痘の治療を中止するとともに、14日から開始予定であった同室児達への水痘発症予防内服も中止とし、接触感染予防策の強化維持に努めることとした。その後14日にはVP1領域の塩基配列が決定され、3検体由来のエンテロウイルスはすべてCA6であると同定され、当該患児はCA6による手足口病であると確定診断された。

手足口病の原因ウイルスはエンテロウイルスであり、これまでは主にコクサッキーウイルスA16(CA16)やエンテロウイルス71(EV71)によるとされてきたが、2009年頃からCA6を病原とする手足口病が多くみられるようになり、2011年はCA6による手足口病が全国的に大きく流行したことは記憶に新しい(IASR Vol. 33, No. 3,  March, 2012 参照)。CA6を病原とする手足口病は、水疱がかなり大きく、四肢末端に限局せずに広範囲に認められるといった臨床的特徴がある。本症例は、CA6による手足口病に矛盾しない臨床所見であったが、水痘であった場合の同室児への影響の大きさを考え、検査によって手足口病であることがほぼ確定し、水痘が否定されるまでは水痘に対する対策を続行する方針であった。その後の迅速な検査対応により、水痘発症阻止のための予防内服は実施前に中止となり、またPICUの使用制限も早期に解除できた。なお、今後はCA6による手足口病の特徴である爪甲脱落症について注意していく必要がある。

本年はこれまでのところ、2011年に続いてCA6を病原とする手足口病の割合が多くを占めており(国立感染症研究所ホームページ:https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data37j.pdf 参照)、今後の発生動向の推移に注意が必要であると思われる。

 

大阪府済生会中津病院ICT
  安井良則 堀越敦子 田中敬雄  
同小児科   
    大和謙二 末廣 豊  
国立感染症研究所感染症疫学センター第4室   
    藤本嗣人 小長谷昌未 花岡 希

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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