国立感染症研究所

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高齢者関連施設で発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例―石川県

(IASR Vol. 33 p. 123-124: 2012年5月号)

 

2011年9月29日、県内の高齢者関連施設において、患者9名(男1名、女8名:80~90代)からなる食中毒事例が発生した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)により、付合せ(大根おろし大葉)を原因食品、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7 (VT2 )を病因物質とする食中毒と断定したので、その概要を報告する。

2011年10月3日18時頃、K市内の医療機関から10月2日に受診した高齢者関連施設Aの入所者1名からEHEC O157(VT産生性不明)が検出されたと保健所に一報があった。4日に調査を開始したところ、隣接する施設Bで5名の有症者が医療機関を受診しており、隣接する施設Cの利用者にも有症者がいた。

有症者の検査の結果、施設Aの上記入所者のEHEC O157(VT産生性不明)からVT2 が検出され(10月4日)、施設Bの有症者4名からもEHEC O157 (VT2 )(以下O157とする)が検出された(10月7日)。施設C利用の有症者1名はO157陰性であった。施設A、B、Cの入所者等の食事は、すべて施設Bにある調理場で調理されているが、この時点では施設内感染、食中毒のいずれとも断定できなかった。検出された5名の菌株のPFGE解析を実施したところ、DNA 切断パターンはすべて一致した(10月11日)(図1-1 )。

この調理場で調理された未加熱あるいは加熱後和えるなどの食事10品目(9月24~30日)に絞って食品検査を開始したところ、9月25日昼食メニューの付合せ(大根おろし大葉)からO157が検出された(10月14日)。この付合せ(大根おろし大葉)と施設Bの患者4名(前述の患者のうち1名を含む)の菌株のPFGE解析を実施したところ、DNA 切断パターンはすべて一致した(10月17日)(図1-2 )。これにより、付合せ(大根おろし大葉)を原因食品、EHEC O157(VT2 )を病因物質とする食中毒事例と断定した。

9月25日昼食はご飯、いわし梅しょうゆ煮、付合せ(大根おろし大葉)、煮びたし(白菜)、味噌汁(ふかし、ネギ)、ブドウのフールであり、25日は4施設 196名に提供されていた。患者、健康者ともにすべてのメニューを喫食しており、統計上の有意の差はみられなかった。付合せ(大根おろし大葉)の食材である大根と大葉はいずれもO157陰性であり、大根の下処理をした施設従事者5名の検便からもO157は検出されなかった。

24日の夕食、25日の朝食および夕食はO157陰性であり、25日昼食以前と25日夕食以降の汚染の可能性は低いと考えられた。調理場の調理従事者15名の検便もO157陰性であった。26日昼食のおろし和え(大根おろし、なめこ)は25日昼と同じ調理器具を使用していたがO157陰性であった。調理作業の調査でも特記するものは無く、付合せ(大根おろし大葉)がどのようにしてO157に汚染されたかは解明できなかった。

なお、同時におこなった感染症調査では、O157の陽性者数は施設A(患者1名、健康保菌者1名)、施設B(患者8名、健康保菌者8名)で、合計18名となった。

施設職員(A:17名、B:57名)はO157陰性であった。疫学調査では、感染源は食事以外に見当たらなかった。後に行った陽性者18名の菌株と食品のPFGEのDNA切断パターンは先のPFGE解析を含めすべて目視で一致した。また、国立感染症研究所でのPFGE解析の結果でも、1バンド違いですべて一致していた(初発患者g382、食品と残り17株はg446)。

この事例は、食中毒患者9名が9月29日~10月11日にかけて2施設で発症しており、喫食者が 164名と多いこと、潜伏期間が88~ 352時間と長く、3食の食事を提供していることなどから、なかなか食中毒と断定できず苦慮したが、疫学調査およびPFGE解析により原因食品、病因物質を特定し食中毒と断定できた事例であった。

石川県保健環境センター健康・食品安全科学部細菌・飲料水グループ 川上慶子 北川恵美子 淺田征彦*1 坂本真美(*1現食品薬品科学グループ)
南加賀保健福祉センター 北西陽一 崎川曜子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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