国立感染症研究所

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神戸市における風疹流行状況(続報)と先天性風疹症候群2症例からの風疹ウイルス検出

(IASR Vol. 34 p. 95-96: 2013年4月号)

 

流行状況
神戸市では2012年3月から風疹患者発生届出数が増加し始め、5月をピークに2013年2月末までに風疹脳炎を含む風疹患者89名(男性66、女性23)および先天性風疹症候群(CRS)2名の発生が届けられた(図1)。CRSを除いた患者89名中20~50代の男性が66.3%を占め、ワクチン未接種者かつ未感染者が蓄積していると考えられる年代の男性層に集中している。また、妊娠可能年齢である20~40代の女性が12.4%を占めていた。

検査診断
材料と方法:神戸市環境保健研究所では2012年3月~2013年2月末まで、風疹および風疹疑い患者33名、CRS疑い患者5名、麻疹ウイルス陰性と判断された麻疹疑い患者21名、脳炎患者1名の検体から風疹ウイルスの検出を試みた。方法に関しては前報告1)を参照されたい。

結 果:26名(男性16、女性10)から風疹ウイルスを検出した(図1)。風疹ウイルスが検出された患者の診断名は風疹(疑いも含む)15名、麻疹疑い8名、脳炎1名1)、CRS 2名であった。検出患者の年齢中央値はCRS患者を除いて34.3歳であった。

CRS患者を除いた患者24名の症状は以下のとおりである。2名は発熱が無く、有熱者の平均体温は38.3℃であった。24名全員に発疹がみられた。リンパ節腫脹のあったものは19名(79.2%)で、頚部の腫脹がほとんどであったが、少数ながら耳介後部、顎下の腫脹もみられた。その他、関節痛・筋肉痛9名(37.5%)、結膜炎(眼球発赤も含む)8名(33.3%)、上気道症状5名(20.8%)であった。ワクチン接種歴がある患者は1名のみで、無しが12名、不明が11名であった。

同時に採取された7組の咽頭ぬぐい液と血液(検査検体は血清または血漿)との検出感度を比較すると、両方ともが陽性であったものは5名(第2~6病日)で、残り2名(第6、10病日)は咽頭ぬぐい液のみ陽性であった。間隔をあけて2回(第1、5病日)血液を採取された1名では、ウイルスが検出されたのは第1病日の血液のみであった。このことから咽頭ぬぐい液は発症後長期間ウイルスを検出することが可能であるが、血液では早期にウイルスが検出できなくなる可能性を示唆した。風疹ウイルスの検出においては咽頭ぬぐい液が血液よりも有用であると考えられる。

25名の検体または分離ウイルスにおいてE1蛋白質領域の739塩基を決定することができた。系統解析の結果(図2)、遺伝子の型別は1Eが3名、CRS 2名を含む22名は2Bであった。

CRS症例1
母体は風疹ワクチン接種歴がなく、前回妊娠時に風疹抗体陰性を指摘されていた。2012年3月、妊娠7週5日に発疹・発熱・リンパ節腫脹を認め、風疹と診断された。児は34週4日に胎児モニタリング異常を認め緊急帝王切開で出生。在胎週数に比して低体重・一過性血小板減少・動脈管開存症・脳室拡大・片側角膜混濁を認めた。風疹IgM抗体指数は7.72。日齢4に採取された咽頭ぬぐい液、尿において、風疹ウイルスのNS領域とE1蛋白質領域の増幅を認めた。両検体をVero-E6に接種し、ウイルス分離1)を実施した。接種約1週間後に回収した培養上清の抽出RNA液を10-1~10-6階乗希釈し、NS遺伝子のRT-PCR法による検出を実施したところ、first stepにおいて10-5~10-6希釈までNS遺伝子が検出され、ウイルスが分離されたことを確認した。遺伝子型は2Bであった。

CRS症例2
母体は風疹ワクチン接種歴あるも、前2回妊娠時に風疹抗体低値を認めていた。2012年3月、妊娠5週時に発熱を1週間認め、妊娠10週時に風疹HI抗体高値(256倍)を認めていた。妊娠34週時に胎児発育遅延および胎児先天性心疾患を指摘された。児は37週6日出生。出生体重2,078gと低出生体重であった。大血管転位2型を認めた。出生時より体幹の紫斑と血小板減少、高IgM血症(159mg/dl)、片側先天性白内障を認めた。出生時血清の風疹IgM抗体指数は9.38であった。日齢5に採取された咽頭ぬぐい液、尿、血漿において風疹ウイルスのNS領域とE1蛋白質領域の増幅を認めた(血漿はNS領域のみ実施)。咽頭ぬぐい液と尿において症例1と同方法においてウイルスが分離されたことを確認した。遺伝子型は2Bであった。

まとめ
風疹ウイルスが妊娠初期の女性に感染すると出生児にCRSを引き起こす可能性があり、ワクチン接種が急がれてきた。神戸市では2012年3月から風疹が流行し、10月と11月に計2名の兵庫県内のCRS患者から風疹ウイルスを検出した。2013年になり、再び風疹の届出が急増している。今後も警戒が必要であるとともにワクチン接種を今まで以上に促進することが重要である。 

 

参考文献
1) IASR 33: 305-308, 2012
2) WHO, WER 80: 126-132, 2005
3)小児科 Vol.53 No.9, 2012
4) VPD Surveillance Manual, 5th Edition, 2012, Congenital Rubella Syndrome: Chapter 15
5) http://www.cdc.gov/rubella/lab/inoculate-protocols.htm

 

神戸市環境保健研究所 秋吉京子 須賀知子 森  愛
兵庫県立こども病院周産期医療センター 坂井仁美 藤岡一路 中尾秀人
神戸市保健所 黒川 学 竹内三津子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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