国立感染症研究所

logo

風疹抗体価の読み替えに関する検討―HI価と国際単位

(IASR Vol. 34 p. 107-108: 2013年4月号)

 

はじめに
風疹の抗体価測定には赤血球凝集抑制試験(hemagglutination inhibition test :HI法)、酵素抗体法(enzyme immunoassay:EIA法)、ラテックス免疫比濁法(latex turbidimetric immunoassay:LTI法)などの方法があるが、これまではHI法で行われることが一般的であり、風疹ワクチンを接種する抗体価の目安など、免疫状態の評価はHI価が基準にされることが多い。

国内における風疹の流行は、2011年以降拡大し、2013年3月現在も風疹患者は増加し続けている。風疹の抗体価測定の需要が高まる中、HI法で使用するガチョウ血球の入手が困難となる可能性があるため、HI法以外の方法で抗体価を測定する必要が生じてきた。しかし、EIA法やLTI法を用いた測定キットにおける抗体価は表示される数値の意味合いが異なることから、これまでHI価を基準としてきた臨床現場において結果の評価に混乱をきたす懸念がある。そこで、今回は同じ血清を用いて3つの方法で風疹抗体価を測定し、HI価を基準とした検討を行った。

対象と方法
血清は18~30歳(中央値23歳)の男性361名、女性108名から採取した計469検体を使用した。抗体価はHI法、EIA法(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社製キット使用)、LTI法(極東製薬工業社製キット使用)で測定し、HI法は病原体検出マニュアル(国立感染症研究所、地方衛生研究所全国協議会)、EIA法、LTI法はそれぞれのキットの添付文書に準じて行った。なお、各方法で得られる抗体価は、HI法はHI価、EIA法、LTI法は国際単位(IU/ml)である。

結 果
1)異なる方法で得られた風疹抗体価の相関性
HI価と国際単位の相関について、抗体価を対数(Log2)に変換後、図1-a にHI法とEIA法、図1-b にHI法とLTI法の比較をそれぞれ示した。HI法とEIA法で得られた抗体価のR値は0.956、HI法とLTI法で得られた抗体価のR値は0.972といずれも相関係数は高く、HI価と国際単位に強い正の相関が認められた。

2)風疹HI価を基準とした国際単位の決定
妊娠を希望する女性などにおいては、風疹に対する免疫状態を判断する際、HI価1:16以下が風疹ワクチン接種の目安とされている。そこで、HI価を1:16以下と1:32以上に分け、EIA法やLTI法で得られた抗体価を変化させたときの検体数の分布から、HI法に対する感度および特異度を算出した。さらに、特異度から偽陽性率(1-特異度)を算出し、感度と偽陽性率からROC解析を行った。また、EIA法およびLTI法における最適なカットオフ値は、検査結果における理想的なカットオフ値である感度 100%、特異度 100%を示す点(基準点)からROC 曲線上の最も距離が近い値を示した抗体価、およびYouden index(感度+特異度-1)が最も大きい値を示した抗体価とした。

EIA法では30IU/mlのとき基準点からの距離が0.100と最も近く、Youden indexが 0.860と最も大きい値を示した(表1-a )。一方、LTI法においても30 IU/mlのとき基準点からの距離が0.075と最も近く、Youden indexが0.903と最大値を示した(表1-b )。

まとめ
今回の結果から、シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社製キットを使用したEIA法の場合、および極東製薬工業社製キットを使用したLTI 法の場合のいずれにおいても、測定値が30IU/mL未満のときHI価1:16以下と読み替える目安と考えられた。

2013年3月6日に厚生労働科学研究費補助金新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業における研究班より、妊娠初期の風疹抗体検査をEIA法で行う場合に関する緊急提言がなされ、その参考資料(国立感染症研究所ホームページ:http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/RubellaHI-EIAtiter.pdf)で示された結果と今回の結果は同等であった。また、緊急提言ではデンカ生研社製キットならびにシスメックス・ビオメリュー社製キットを用いた場合のEIA価に関する結果も示されており、HI法以外で風疹抗体価が測定された場合、今回の結果と合わせて、抗体価を評価する際の参考となることが期待される。

 

参考文献
・『妊娠初期の風しん抗体検査をEIA 法で行う場合の取り扱いについて(緊急提言)』、厚生労働科学研究費補助金新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「ワクチンにより予防可能な疾患に対する予防接種の科学的根拠の確立及び対策の向上に関する研究(研究代表者・大石和徳)、妊婦の風疹り患および先天性風疹症候群の発生抑制等胎児期の罹患予防に関する研究(研究分担者・平原史樹)」

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 佐藤 弘 多屋馨子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version