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幼稚園でのO157:H− VT2集団発生事例―青森県

(IASR Vol. 34 p. 136-137: 2013年5月号)

 

2012年10月、青森市内のA幼稚園において、腸管出血性大腸菌(以下EHEC)O157による29名の集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

発生状況
2012年10月3日、市保健所に市内のC小児科医院の医師から4歳男児が腹痛、血便、下痢、嘔吐、発熱の症状を呈し、大腸菌O157が分離され、Vero毒素(以下VT)検査中であるEHEC疑いの園児がいるとの連絡があった。保健所はEHECと確定していなかったが、その説明を受けて、ただちに状況確認を行うこととした。

翌10月4日、通報した医師とは別のB小児科医院からEHEC感染症(O157 VT2)の発生届出があった。B小児科医院の発生届出情報とC小児科医院からの連絡による状況確認から、2人の幼児は、同じA幼稚園であることが判明し、幼稚園の疫学調査を実施した。5日には、C小児科医院からもVT2 が確認され発生届出があった。

9日には、A幼稚園児の保護者説明会が行われ、翌10日には、最初に届出のあった患児2名の接触者(幼稚園児および職員)77名を対象に健診が行われ、21名からEHECが検出された。さらに21名の接触者100名について、接触者健診が実施され、10月16日に接触者100名のうち6名からEHECが検出された。検出されたEHEC分離株の内訳は、最初に届出のあった患児2名、接触者(幼稚園児および保護者と職員)から21名、その接触者から6名の計29株であった。また、幼稚園に供給している給食業者の調理従事者の検便を実施した結果はすべて陰性であった。

EHECが検出された29名のうち、小学生以下は21名(うち小学生は1名)、成人は8名であった。小学生以下21名のうち、腹痛か下痢または軟便症状を示した児童が15名、無症状児童は6名であった。職員、保護者8名では有症者が4名、無症状者は4名であった。 有症者の発症月日と発症者数は、9月27日1名、28日2名、29日5名、30日2名、10月1日4名、2日1名、6日1名、9日1名、10日2名であった(図1)。保健所は、菌消失の確認を行い、11月22日に全患者のEHEC陰性が確認できたことから調査を終了した。

解析結果および考察
菌株の解析は、25株についてH型別および生化学的性状試験、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を行い、H型別では、25株すべて(-)、LIM の性状では、リジン陽性、インドール陽性で、EHECの典型的な性状であった。PFGE解析では、制限酵素XbaIを用いて行った結果、25株がほぼ同じDNA切断パターンであることが確認された(図2)。

疫学調査から、最初に発生届出があった2名の園児は、異なるクラスであり、また、EHECが分離された園児は4クラスのうち3クラスに散在していた。このことは、トイレの手拭きタオルを共有していたこと、クラスを越えて遊んでいたこと、加えて、幼稚園の行事である運動会の練習があり、接触する機会が多かったことが園内における集団発生の要因と考えられた。

PFGE解析では、25株がほぼ同じ泳動パターンで、国立感染症研究所での解析結果では、2012年12月時点において、全国で同じ泳動パターンを示す菌は検出されていないとのことから、今回のA幼稚園での発生は、同一PFGEパターンの菌により発生したもので、今後、同様のパターンを示すEHEC菌の動向に注視が必要と考える。

EHECの年間報告数の約40%は10歳未満であり、重篤な病態となる溶血性尿毒症症候群(hemolyticuremic syndrome; HUS)は、小児や高齢者で発症率が高いとされている1)。今回の事例では、症状が血便、水様性下痢、腹痛などであり、重篤な病態に至るHUS 発症者は認められなかった。また、健診により確認された園児6名、成人4名の無症状菌保有者合計10名は、全体の約3割を占めていた。この無症状菌保有者の存在は、感染予防および感染拡大、再発防止対策上重要な課題の一つである。

 

参考文献
小児の養育者、保育施設、介護保険施設等に対する腸管出血性大腸菌感染症予防啓発の重要性について, 厚生労働省健康局結核感染症課感染症情報管理室, 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室, 国立感染症研究所感染症情報センター

 

青森県環境保健センター微生物部
  武沼浩子 福田 理 三上稔之
青森市保健所保健予防課
  三浦裕子 鹿内千恵子 前田敦子
青森市保健所生活衛生課
  小田桐典子 相馬善範 増田昌輝

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