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Hibワクチン定期接種化に至るまでの経緯と小児ワクチン接種の現状

(IASR Vol. 34 p. 199-201: 2013年7月号)

 

Hib ワクチン国内導入までの経緯
2007年1月26日に薬事法に基づいて製造販売承認されたインフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b: Hib)ワクチン(以下、Hib ワクチン)は、2008年12月19日から国内で接種可能になった。当時は任意接種であったことから保護者の費用負担が大きく、接種希望者数に対してワクチンの供給量が十分でなかったこともあり、希望者が全員受けられる体制ではなかった。

2010年11月26日から「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」(以下、ワクチン接種緊急促進事業)が始まり、接種を受けやすい環境が構築された。接種に必要な費用については、実施主体である市区町村からに加えて、厚生労働省から臨時特例交付金が交付されることとなり(平成22年11月26日厚生労働省発健1126第13号)、接種に際しての自己負担額が軽減された。

Hibワクチン接種の一時見合わせ
ワクチン接種緊急促進事業が軌道に乗り始めた2011年3月2日以降に、Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンを含む同時接種後の死亡報告が相次ぎ、2011年3月4日に接種が一時見合わせられた。その後、数名の追加報告があり7名の死亡例について厚生労働省医薬品等安全対策部会安全対策調査会、子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会の合同開催で複数回の検討が行われた。

検討の結果、接種と一連の死亡との間に、現時点では直接的な明確な因果関係は認められないこと、接種後の死亡事例で、接種との因果関係がわからないものは海外でもある程度報告されていること、これまでの国内外の調査では、Hibワクチンと小児用肺炎球菌あるいはDPTワクチンなどの複数のワクチンを同時に接種しても、重い副反応の増加は報告されていないこと等により、現在得られている知見の範囲では、これらのワクチンの安全性について心配はないとされ[平成22年度薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(第13回)及び子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会(第4回)(合同開催):http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000017imb.html]、2011年4月1日に接種が再開となった。

一時的に接種者数は激減したがその後回復し、2011年6月以降は、概ね30~35万人/月の範囲で接種が実施された(図1)。

予防接種法に基づく定期接種への導入
厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で定期接種化が望ましいとして提言されていたHibワクチンは、2013年の予防接種法改正により、同年4月1日から定期接種に導入され、A類疾病として実施されることになった(日本の小児における予防接種スケジュール:http://www.niid.go.jp/niid/ja/component/content/article/320-infectious-diseases/vaccine/2525-v-schedule.html )。

A類疾病は「人から人に伝染することによるその発生及びまん延を予防するため、又はかかった場合の病状の程度が重篤になり、若しくは重篤になるおそれがあるもの」として区分され、従来の一類疾病に相当する。A類疾病は、国の積極的勧奨があり、保護者は子どもに受けさせるように努める義務(努力義務)があるワクチンである。

接種方法
生後2カ月以上5歳未満の間にある者に行うが、標準として生後2カ月以上7カ月未満で接種を開始し、27日(医師が必要と認めた場合には20日)から56日までの間隔をおいて3回、接種開始が生後7カ月以上12カ月未満の場合は、27日(医師が必要と認めた場合には、20日)から56日までの間隔をおいて2回皮下接種する。追加接種は、上記いずれの場合も、初回接種終了後7カ月から13カ月までの間隔をおいて1回皮下に接種する。接種開始が1歳以上5歳未満の場合、通常、1回皮下接種する(図2)。

ただし、初回接種および追加接種において、発熱や急性疾患等のやむを得ない事情により、27日(医師が必要と認めた場合には20日)から56日までの間隔または7カ月から13カ月までの間隔で接種が実施できなかった者については、その要因が解消された後、政令で定める接種の期間内に、速やかに実施した場合、当該接種間隔を超えて接種したとしても、接種間隔内における接種とみなされ、定期接種として取り扱われる。

接種スケジュールの立て方
乳幼児の接種スケジュールは過密であり、特にHibワクチンが対象となる乳児期前半は接種するワクチンが多く、現在国内で接種可能なワクチン(表1)の中から定期接種、任意接種ともに希望した場合、同時に受けるワクチンの本数あるいは受診回数のいずれかが多くなる。

感染症疫学センターでは、乳幼児期の接種スケジュールが過密であることから、接種のスケジュール案を複数紹介し、接種の際の参考資料として例示している[乳幼児予防接種スケジュール(0~6歳)、http://www.niid.go.jp/niid/ja/component/content/article/320-infectious-diseases/vaccine/2525-v-schedule.html]。同時接種を希望する場合、単独接種を希望する場合、DPTワクチンと不活化ポリオ(IPV)ワクチンを別々に接種する場合、DPT-IPVワクチンを接種する場合で合計6通りの案を作成した。

しかし、接種のスケジュールは、(1)今周りで流行している感染症、(2)発症すると重篤になる疾患、(3)被接種者の生活環境(例:集団生活の有無、兄弟姉妹の有無、海外渡航の有無等)、(4)被接種者の基礎疾患の有無、(5)自治体によっては集団接種で実施しているところがあるので、その日程など、被接種者の体調と周りの環境を総合的に考えて、最適な接種スケジュールをかかりつけの小児科医と保護者で相談して決めることが望まれる。

おわりに
Hibワクチンの効果により、Hibによる侵襲性感染症の患者数は激減している(本号10ページ参照)。接種を受けたことによる効果と、接種後に起こる副反応について正しく理解した上で、接種を受けられる環境を構築していくことが、理解される予防接種に繋がると考える。疾患を正しく理解することは、予防接種を正しく理解することにも繋がる。ワクチンならびに予防接種で予防可能な疾患の理解を深めることが大切である。

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 多屋馨子

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