国立感染症研究所

logo40

大阪市におけるロタウイルス感染症集団事例発生状況と流行株の特徴(2009~2013年)

(IASR Vol. 35 p. 67-68: 2014年3月号)

 

主に小児の感染性胃腸炎患者検体から検出されるA群ロタウイルス(RVA)は11本の分節ゲノムを有し、その遺伝子型の組み合わせはGx-P[x]-Ix-Rx-Cx-Mx-Ax-Nx-Tx-Ex-Hx(xは数字)と表記される1)。この中で、最初の三つはRVAの中和抗原を包含する外殻蛋白質VP7(G型)およびVP4(P型)、そして内殻蛋白質であるVP6(I型)である。一般的には、遺伝子型をG型とP型の組み合わせ(GxP[x])のみで簡便に示すことが多く、遺伝子型別もそれに合わせて行っているが、本稿ではさらにI型を加え、2009~2013年の5年間に大阪市で発生したRVA胃腸炎集団事例から検出されたG-P-I遺伝子型について報告する。

大阪市では、施設から感染症の発生が報告された場合に、感染拡大防止および病原体特定のために保健所の調査が行われる。上述の期間に発生したヒト-ヒト感染が疑われる小児の感染性胃腸炎集団事例のうち、当研究所で実施したELISA(ロタクロン、TFB社)でRVA陽性となったRVA集団事例は2009年に1事例、2010年に2事例、2011年に2事例、2012年に9事例、2013年に7事例の計21事例であった。これらのうち、小学校における事例は2010年12月の1事例のみで、残りは保育所あるいは幼稚園において3~5月に発生した事例であった。ELISA陽性の全検体について、RVAのVP7、VP4ならびにVP6遺伝子をRT-PCR法にて増幅し2)、ダイレクトシークエンス後、RotaC3)を用いてG-P-I型を決定した。その結果、5年間の合計としてG1-P[8]-I1が5事例、G1-P[8]-I2が12事例、G2-P[4]-I2が1事例、G9-P[8]-I1が3事例から検出された。興味深いことに、2009~2011年に年間1もしくは2事例だったRVA事例数が2012年以降増加した際に、その6割以上を占めたのがG1-P[8]-I2であった()。検出されたすべてのG1-P[8]-I2株の塩基配列は、いずれも高い一致率(>99%)を示したため、互いに近縁であると考えられる。また、BLAST検索の結果、G1-P[8]-I2が検出された2012年以前の登録株の中では、VP7およびVP4遺伝子はともにRVA/Human-wt/USA/2007719635/2007/G1P[8](以後、2007719635株)と最も高い一致率を示した(VP7、99.6%; VP4、99.4%)。

次に、G1-P[8]-I2が検出された12事例のうち6事例の株について11分節すべての遺伝子型を決定したところ、それらはすべてG1-P[8]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2を有していた4)。RVAのプロトタイプとしてWa株(G1-P[8]-I1-R1-C1-M1-A1-N1-T1-E1-H1)とDS-1株(G2-P[4]-I2-R2-C2-M2-A2-N2-T2-E2-H2)があるが、G1-P[8]-I2株はI2以下9分節がDS-1株様の遺伝子構成をもつ非典型的なG1P[8] であるため、DS-1様G1P[8]であるといえる。葛谷らは、岡山県における2011/12シーズンに検出されたRVAの5分節を解析し、7割以上がDS-1様G1P[8](G1-P[8]-I2-E2-H2)であったと報告している5)。岡山県ならびに大阪市で検出されたDS-1様G1P[8]の各遺伝子の一致率はVP7遺伝子で99.8~100%、VP4遺伝子で99.9~100%、VP6遺伝子で99.8~100%、NSP4(E型)遺伝子で98.8~99.7%、NSP5(H型)遺伝子で99.7~100%と非常に高かった4)

また、2013年に沖縄県石垣島で検出されたRVAのVP7およびVP4遺伝子は、ともに前出の2007719635株に最も高い一致率を示すG1P[8]であったとの報告があり6)、近縁株が日本で広範に流行していたことが示唆される。この石垣島のRVA株のG型およびP型以外の遺伝子型については不明であるが、DS-1様G1P[8]であった可能性は高いと考えられる。

大阪市では、DS-1様G1P[8]は過去2年間にわたって検出された。2014年の集団事例はG2P[4]に始まり、DS-1様G1P[8]はまだ検出されていない。現在のところ、日本以外の国でDS-1様G1P[8]が流行しているとの報告はないが、今後の動向を注視したい。

本事例に関して疫学調査等の情報収集にご協力いただいた関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

 

参考文献
1) Matthijnssens J, et al., Arch Virol 156: 1397-1413, 2011
2) Fujii Y, et al., Microbiol Immunol 56: 630-638, 2012
3) RotaC2.0 automated genotyping tool for Group A rotaviruses (http://rotac.regatools.be/)
4) Yamamoto SP, et al., Emerg Infect Dis, 2014 (in press)
5) Kuzuya M, et al., J Med Virol, 2013 Sep 16. doi: 10.1002/jmv.23746 (Epub ahead of print) 
6) 仁平 稔, 他, IASR 34: 264-265, 2013

 

大阪市立環境科学研究所 
  山元誠司 入谷展弘 改田 厚 久保英幸 長谷 篤    
大阪市保健所
  藤森良子 森 宏美 伯井紀隆 辻本光広 半羽宏之

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version