国立感染症研究所

IASR-logo

病原体サーベイランスからみる2013/14シーズンのインフルエンザの流行

(IASR Vol. 35 p. 258- 261: 2014年11月号)

 

はじめに
インフルエンザ病原体サーベイランスは、平成11(1999)年に発出された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の施行に伴う感染症発生動向調査事業の実施について」(厚生省保健医療局長通知)に基づき実施されている。

 感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点(小児科約3,000、内科約2,000)および基幹定点(全国約500カ所の病床数300以上の医療機関)から患者数が報告されている。基幹定点では、インフルエンザによる入院患者に限定して患者数が報告されている。全国の地方衛生研究所では、インフルエンザ定点の約10%にあたる病原体定点、基幹定点および定点以外のその他の医療機関で採取された検体から、病原体の分離・検出を行っている。検体から病原体が検出された症例(陽性についてのみ)の情報とウイルスの型・亜型等の検査結果が感染症サーベイランスシステム(NESID)の病原体検出情報に報告されている。

目的と方法
2013/14シーズン(2013年9月~2014年8月)のインフルエンザの流行実態を把握するために、病原体検出情報を基にインフルエンザウイルス検出例の型・亜型別、定点種別、患者の年齢群別、症状等について過去3シーズンと比較し特徴を調べた(2014年10月10日の集計データを使用)。

結 果
型・亜型別:2013/14シーズンのA型・B型インフルエンザウイルスの報告数は7,903例であった(※A亜型未同定4例、B系統未同定293例を除く)。型・亜型別にみると、AH1pdm09亜型が3,495例(44%)で流行の主流で、次いでB型が2,675例(34%)〔Yamagata(山形)系統が1,932例;24%、Victoria(ビクトリア) 系統が743例;9.4%〕、AH3亜型亜型が1,733例(22%)であった(図1)。前2シーズン(2011/12と2012/13)はAH3亜型が主流であり、AH1pdm09亜型は2010/11シーズン以来シーズンぶりの流行であった。

B型山形系統は、2010/11シーズンには全体の検出の0.3%であったが、その割合が年々増加していた。

定点種別:2013/14シーズンの検出報告の定点種別割合をみると、内科定点から37%(2,897例)、小児科定点から45%(3,595例)、基幹定点から4%(352例)、定点以外の医療機関から13%(1,059例)であった(図1)。定点種別割合は、前2シーズンとはあまり差はみられなかった〔内科定点(35~41%)、小児科定点(42~45%)、基幹定点(4%)、その他(13~16%)〕が、2010/11シーズンは他のシーズンに比べるとその他の割合が高かった(24%)。

さらに定点種別にインフルエンザウイルス型・亜型検出割合をみると(図1)、2013/14シーズンの基幹定点においては、AH1pdm09亜型の占める割合が58%と多く、B型の占める割合は山形系統・ビクトリア系統ともに少なかった(19%、4.8%)。小児科定点においては、AH1pdm09亜型の占める割合は41%で、B型山形系統の占める割合が27%と多かった。2010/11シーズンも同様に、AH1pdm09亜型については、基幹定点からの報告全体に占める割合が高かったことが特徴であった(61%)。

転帰・重症例:2013/14シーズンには、転帰が死亡の患者からのウイルス検出は6例(0.1%)あった(いずれもAH1pdm09亜型)()。前2シーズンも6~7例の死亡患者からの検出があった(0.1%)が、2010/11シーズンは33例(0.3%)であった。死亡例全52例中38例(73%)は定点以外からの報告であった。

2013/14シーズンには、ウイルスが検出された患者の臨床症状のうち、肺炎を呈していたものは158例(2.0%)で、そのうちAH1pdm09が117例(シーズン検出亜型のうちの3.3%)、B型山形系統19例(1.0%)、AH3亜型が17例(1.0%)、B型ビクトリア系統が5例(0.7%)であった。前2シーズンはシーズン全体で肺炎患者からの検出割合は0.8~1.5%であったが、2010/1シーズンは2.5%と高かった。肺炎患者全597例中、209例(35%)は定点以外から、153例(26%)は小児科定点から、130例(22%)は内科定点から、105例(18%)は基幹定点からの報告であった。

型・亜型別の年齢群:シーズンごとの各年齢群におけるインフルエンザウイルス型・亜型の検出数を図2に、型・亜型検出割合を図3に示す。2013/14シーズンは、0~7歳の小児ではAH1pdm09亜型の検出数が最も多く、特に0~6歳まではAH1pdm09亜型の割合も高かったが、7歳以降の小児ではその割合は減少していた。また、AH1pdm09亜型は、30代後半~40代前半にも報告数の増加がみられた。B型山形系統の検出割合は、7~14歳の小児で他の年齢群と比較し高く、また成人では35~39歳にも検出数のピークがみられた。2010/11シーズンのAH1pdm09亜型は、小児全体で検出されたが、特に15~29歳群で検出数が増加していた。

B型は、山形系統・ビクトリア系統検出例ともに、また、どのシーズンでも小児では特に低年齢(0~2歳)では検出数が少なく、7~8歳に検出数のピークがみられる傾向があった。

AH3亜型は、2013/14シーズンは全年齢群で検出されていた。過去3シーズンでみられた70歳以上の高齢者でのAH3亜型検出数の増加は認められなかった。

考察とまとめ
2013/14シーズンは複数のインフルエンザウイルスが流行していたが、流行していた型・亜型は年齢群で異なっていた。AH1pdm09亜型は0~6歳の小児および30~40代を中心に流行し、7~14歳の小児ではB型山形系統も流行していたと推測される。AH1pdm09亜型患者に肺炎症例が多い傾向がみられたが、検体サンプリングの偏りがあるのか、実際に肺炎症例数が増加していたのかは不明である。

病原体サーベイランスのデータは、各年齢群の分母数が異なり、サンプリング等のバイアスも考慮しなければいけないが、病原体サーベイランスから見えてくるインフルエンザの流行は、過去のインフルエンザ罹患歴、抗体保有状況、学校等の集団生活や児童の親の世代等の生活形態による伝播様式や、A型やB型による病態の違いなどを反映していると思われる。今後も流行の実態把握のため、患者年齢や報告定点別等も考慮しながら、インフルエンザウイルスの動向に注目したい。

謝辞:各地方衛生研究所により検査・報告された病原体情報のデータを使用させていただきました。感染症発生動向調査(患者および病原体サーベイランス)、流行予測調査等のサーベイランス業務に携わる各都道府県、衛生研究所、保健所、医療機関の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。


国立感染症研究所感染症疫学センター    

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version