国立感染症研究所

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外来型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌の検出状況

(IASR Vol. 35 p. 287- 288: 2014年12月号)

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌のうち、カルバペネマーゼ産生菌は、多剤耐性傾向が強いことから臨床的に問題となりやすい。さらに、IMP型、VIM型、NDM型、KPC型、およびOXA-48型の5種類のカルバペネマーゼ産生菌は、分離頻度が高く、院内感染事例の報告も多いため、特にその蔓延が警戒されている。この5種類のカルバペネマーゼ産生菌それぞれの分離頻度は国により大きく異なる。わが国では、国内感染例のほとんどがIMP型カルバペネマーゼ産生菌である。一方、海外で感染したと思われる患者からはNDM型、KPC型、OXA-48型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌が分離されることが多く、これらは外来型カルバペネマーゼといえる。

2010年~2014年11月までに、国立感染症研究所細菌第二部には、46株の外来型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌が送付された()。カルバペネマーゼの型別にみると、NDM型が16施設より25株、KPC型が4施設より15株、OXA-48型が2施設より6株送付され、菌種はKlebsiella pneumoniae が31株と最も多く、次いでEscherichia coli の13株であった。これらの株が分離された症例のほとんどに海外渡航歴、特に、海外の医療機関受診歴があった。渡航先のほとんどはアジア諸国であるが、KPC型カルバペネマーゼのみ北米があげられている。1名の患者より複数菌株あるいは複数菌種が分離された例がほとんどで、医療機関における明らかな二次感染は認めなかった。

NDM型カルバペネマーゼ産生菌は最初インドで分離され、その後、インド周辺を中心としたアジア諸国にひろまった。KPC型カルバペネマーゼ産生菌は最初アメリカで分離され、現在はアメリカ・カナダの他、中国でも拡散している。OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌は最初トルコで分離されたが、その後、ヨーロッパ各国およびインドなどアジア諸国に広まっている1)。外来型カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌が分離された症例は、渡航先の医療機関受診時に、それぞれの国で拡散している型のカルバペネマーゼ産生菌を院内感染という形で獲得した可能性が高い。

一方、これまでに当部が解析を実施した46株の中には、渡航歴のない患者から分離されたNDM型およびOXA-48型カルバペネマーゼ産生菌も含まれている。渡航歴の無い外来型カルバペネマーゼ産生菌分離患者は、いずれも国内の医療機関に複数回の入院歴がある高齢者だった。家族や、同じ医療機関の入院患者に海外渡航歴が確認された人はなく、また、周辺の医療機関からの分離報告もなかった。外来型カルバペネマーゼ産生菌を患者がどのように獲得したかは不明であるが、国内例であっても分離される可能性があることに留意する必要があると思われる。

NDM型、OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌はカルバペネム系抗菌薬に明らかな耐性を示さないことがある。にNDM型、OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌24株のイミペネムおよびメロペネムの最小発育阻止濃度(MIC)の分布を示す。NDM型カルバペネマーゼ産生菌では、すべて4μg/ml以上ではあるものの、イミペネムのMICがメロペネムよりも低い傾向がみられた。一方、OXA-48型では1μg/ml以下の株があり、感染症法の届出基準である2μg/ml以上に該当しない株もあった。OXA-48型カルバペネマーゼ産生菌の拡散が問題となっている欧州では、イミペネム、メロペネムのMICが0.12μg/ml以上をスクリーニング対象菌の基準としており、また薬剤としてはイミペネムよりもメロペネムを推奨している2)

2008年にインドでの分離が初めて報告されたNDM型カルバペネマーゼ産生菌は、わずか数年のうちに世界各地に拡散し、いくつかの国では定着した。これらの外来型カルバペネマーゼ産生菌が日本の医療環境に定着しないよう、特に海外の医療機関受診歴のある患者に対しては、適切な院内感染対策と検査の実施が必要と思われる。

 
参考文献
  1. Nordmann, et al., Clin Microbiol Infect 20: 821-830, 2004
  2. EUCAST guidelines for detection of resistance mechanisms and specific resistances of clinical and/or epidemiological importance, Version 1.0 December 2013
 
国立感染症研究所細菌第二部
  鈴木里和 松井真理 鈴木仁人 柴山恵吾
 

 

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