国立感染症研究所

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東京都内におけるA型肝炎ウイルスの検出状況(2014年)

(IASR Vol. 36 p. 5-6: 2015年1月号)

A型肝炎は感染症法では4類感染症に分類され、無症状病原体保有者を含む全診断症例の届出が義務づけられている。

東京都においては食中毒検査または積極的疫学調査として、疑い例または発生届が提出された患者の糞便もしくは血清を確保し、A型肝炎ウイルス(HAV)の検出を行っている。東京都のA型肝炎患者報告数は、2012年35件、2013年19件で、このうちの57%の遺伝子検査を実施している。2014年10月末(第44週)現在、33件の報告があり、検体が確保できた21例(糞便7件、血清14件)について、HAVの検出および分子系統樹解析を行った。

HAV検出は、HAVゲノム構造/非構造領域中のjunction領域を標的としたRT-nested PCR法により実施した。HAV遺伝子増幅を確認後、塩基配列を決定し、BLAST検索およびMEGA4を用いたNJ法による系統樹解析を行った。

21検体中18検体からHAV遺伝子が検出され、genotype IAが12例(67%)、IBが2例(11%)、IIIAが4例(22%)であった(図1)。系統樹解析の結果、genotype IAの12例のうち9例はAB020567(2006年:滋賀県類似株1))およびAY226610(2006年:新潟市類似株2) )を含む一つのクラスター(IA-1、石井ら3,4))を構成した(図2)。このうち6例はAB969748(2012年:鹿児島県)と同一型であり、2014年3~4月の検体から検出されていた。また、残りの3例はAB819870(2012年:神奈川県)と同一型であり、2014年5~9月の検体から検出されていた。

石井らの報告3,4)によると、2010年に日本で検出された株の過半数はEU825868を含むIA-2クラスターに分類された株であったが、2014年に東京都で検出されたHAVのうちIA-2クラスターに属するのは1例のみであり、それ以外の多くはIA-1であった。

genotype IBの2例は、食中毒疑い事例の調査において搬入された検体であるが、食品や調理従事者等との関連は明らかにならなかった。

genotype IIIAの4例のうち2例は、1つのクラスターを形成した。2010年に日本で検出されたIIIA株のクラスターとは別のクラスターに属し、韓国流行株(GU991288、GU991309)とは異なることが示唆された。

A型肝炎は潜伏期が長く、発症までに時間がかかるため、感染源や感染経路の特定が困難な場合が多い。しかし、HAVの分子疫学的解析を行うことにより、各症例間の関連性や感染地域の推定などが可能になることから、引き続き調査を行っていくことが重要である。

 
参考文献
  1. Hasegawa Y,et al.,Jpn J Infect Dis 60:150-151,2007
  2. Takeuchi Y,et al.,Jpn J Infect Dis 59:346,2006
  3. 石井,他,IASR 31:287-289,2010
  4. Ishii K,et al.,J Clin Virol 53(3):219-224,2012

東京都健康安全研究センター微生物部
  長島真美 原田幸子、吉田 勲 根岸あかね 天野香奈子
  北村有里恵 新開敬行 林 志直 甲斐明美

 

 

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