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デング熱輸出症例

(IASR Vol. 36 p. 39-40: 2015年3月号)

2014年8月に東京代々木公園を中心に発生したデング熱の国内流行では、162例の国内症例が報告されている。この間に日本を訪れた3名の外国人旅行者が日本でデングウイルスに感染しており、本稿ではこの3例の輸出症例について報告された順に紹介する。

1例目は7~9月に代々木公園周辺の友人宅に滞在した33歳のイギリス人男性である。8月末に発熱(39.7℃)、頭痛、眼窩後痛、倦怠感、食欲減退等の症状が出現した1)。発症3日目にイギリスに帰国し、その2日後(発症5日目)に散在性丘疹状発疹が胸部に出現した。その後、いったん症状は緩和したが、発熱、発疹等の症状が再発したため医療機関を受診した。咽頭の紅斑性腫脹および頸部リンパ節腫脹が観察され、血液検査では肝逸脱酵素(LDH、ALT、AST)の上昇が認められた。日本でのデング熱の流行および患者が8月末に代々木公園周辺で蚊に複数刺されていたというエピソードからデング熱が疑われ、実験室診断が実施された。ウイルス遺伝子およびデングウイルス特異的IgG抗体は陰性であったが、特異的IgM抗体が陽性であったことから、疫学的な情報を考慮して日本でデング熱に感染したと結論付けられた。

2例目は39歳のニューカレドニア人旅行者で、8月10日~20日まで東京都中野区の新中野駅近辺に滞在し、代々木公園への訪問歴があった。ニューカレドニアへ帰国した後、8月23日にデング熱を疑う症状が現れた。8月26日に実験室診断が実施され、RT-PCRによってデングウイルスのエンベロープ遺伝子の一部(約1,600bp)が検出された(O. O'connor, M. Dupont-Rouzeyrol, personal communication) 2)。エンベロープ遺伝子の1,168bpの遺伝子配列 (GenBank accession number: KP052849)が決定され、日本の国内流行株の遺伝子配列 (GenBank accession number: LC002828)と100%一致した。

3例目は51歳のオーストラリア人男性で、日本から帰国後、発熱(39℃)と背部痛が出現した3)。血液検査ではリンパ球減少と肝逸脱酵素の上昇が確認された。代々木公園の訪問歴があり、デングウイルスの非構造タンパク(NS)1抗原が陽性であったことから、日本でデングウイルスに感染したと結論付けられた。デングウイルス特異的IgMおよびIgG抗体は陰性であった。

2013年9月にはドイツ人旅行者が日本から帰国後3日目にデング熱を発症しており4)、2013年の夏にも日本でデング熱の小流行が発生していた可能性がある。2010年以降、日本ではほぼ毎年200例以上の輸入症例が報告されている5)。2015年以降も輸入症例を発端にデング熱が国内で流行する可能性がある。また、デング熱流行地域から毎年8万人以上の旅行者が日本を訪れており、自国でデングウイルスに感染した外国人旅行者が日本へ入国後にデング熱を発症した事例も報告されている。今や日本へのデングウイルスそのものの侵入を防ぐことは不可能である。デングウイルスの媒介蚊であるヒトスジシマカが活発に活動する夏季期間には、日本においてもデング熱流行のリスクがあることを認識しなくてはならない。

 
参考文献
  1. Kojima G, Emerg Infect Dis 21(1): 182-184, 2015
  2. Dupont-Rouzeyrol M, Virol J, 2014 Mar 31; 11: 61
  3. ProMED-mail, Dengue-Australia (02): (Melbourne) ex Japan (Tokyo). Archive number 20140913.2771520, 2014
    http://www.promedmail.org/?archiveid=+20140913.2771520, Accessed 17 November 2014
  4. Schmidt-Chanasit J, et al., Euro Surveill. 2014 Jan 23;19(3).pii:20681
  5. Takasaki T, Trop Med Health 39 (4 Suppl): 13-15, 2011

 

国立感染症研究所ウイルス第一部 中山絵里 高崎智彦

 

 

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