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デング熱の実験室診断とその留意点

(IASR Vol. 36 p. 40-41: 2015年3月号)

デング熱は、典型的な症例では発熱・発疹・痛みが3主徴であるが、発疹の出ない症例もあり、鑑別疾患としてはチクングニア熱、マラリア、チフス、麻疹、風疹、レプトスピラ症、伝染性紅斑(成人初発例)、発疹チフス、発疹熱、ウエストナイル熱、急性HIV感染症などと多い。したがって、実験室診断により確定する必要がある。

実験室診断には、病原体診断と血清診断がある。病原体診断には、ウイルス遺伝子検査(PCR法、リアルタイムPCR法)、非構造タンパクNS1抗原検出、ウイルス分離が用いられる。血清診断には、IgM捕捉ELISA法による抗デングウイルス特異的IgM抗体検出、中和抗体検査、IgG抗体ELISA法によるIgG抗体検出、HI(赤血球凝集阻止)抗体検査がある。

デングウイルスの非構造タンパクの1つであるNS1(non-structural protein 1)抗原は、46kDのタンパクであり、デングウイルス感染哺乳類細胞質内、細胞膜表面に発現するとともに感染細胞から分泌されるウイルス抗原である。したがって、NS1抗原は患者血清中に検出できる。NS1抗原検査迅速診断イムノクロマトキットは、デングウイルス迅速診断キットの迅速および簡便性が最大のメリットであり、特異性もそれほど低くなく、早期診断にとって重要である1)

ウイルスは発病1~2日前から有熱期に血液中に存在するため、ウイルス遺伝子は解熱とともに検出されなくなる。ウイルス遺伝子は発病後約4日目以内であれば比較的容易に検出できるので、従来のPCR法でも十分検出できる。しかし、解熱傾向が始まると、高感度なリアルタイムPCR法でしか検出できない場合がある。また、尿中にウイルス遺伝子を検出できる場合もあり、尿中ウイルス遺伝子は解熱後も検出できることが多く、補助的診断法として有用である2)

ウイルス遺伝子の解析は、血中ウイルス量が十分でない場合は必ずしも配列情報を得られない場合がある。もちろんウイルス分離ができた場合は、分離ウイルスから遺伝子解析は可能である。昨年の代々木公園に端を発する流行の原因となったデングウイルスは、デングウイルス1型(血清型)の遺伝子I型に分類される(GenBankアクセス番号;LC002828)。ウイルス遺伝子の塩基配列は、東京都内で感染したあるいはその可能性があった症例で遺伝子解析ができたウイルスは、その構造領域で100%塩基配列が一致していた。また、このウイルス株はウイルス血症期間が長い傾向があったが、ウイルス株によっては比較的短い場合もあり、ウイルス遺伝子解析のためには発病早期の有熱期の検体の確保が重要である。

一方、NS1抗原は解熱後も数日間検出できる場合が多い。ただし、ウイルス遺伝子検査と異なりNS1抗原検査ではウイルス型別は決定できない。一方、IgM抗体は解熱前から検出され出すことが多いため、PCR法とNS1抗原検査およびIgM抗体検査を組み合わせることで診断の精度は非常に高くなる。また、IgM抗体を捕捉する方法は感度の面で優れているが、リウマチ因子のような抗ヒトIgM-IgG抗体が血中に存在する患者の場合は、非特異反応を示すことがある3)。したがって、単一時点の検査結果でIgM抗体のみ陽性の場合、その解釈には注意が必要である。(1)数カ月前の感染時のIgM抗体を検出している。特に発病日から発病後2日目の血清で陽性の場合はその可能性がある。(2)日本脳炎ウイルス感染との交差反応の可能性もある。(3)非特異反応である。これらの可能性を否定する意味でも、2ポイントの検体でIgM抗体の上昇を確認することが望ましく、ペア血清の条件を満たしていなくても2ポイント以上での検体確保は重要である。もちろん数カ月以内のデング熱流行地への渡航歴の確認も重要である。

これらの診断法のなかで、ウイルス型別を決定できる診断法としては、ウイルス遺伝子検査(型別逆転写PCR法)と中和抗体試験である。ただし、中和試験による型別の決定は回復期血清(発病後2~3週以後の血清)が望ましい4)

特異性が100%である実験室診断法というものは存在しない。臨床経過や検体採取の病日も考慮して検査結果を解釈することが重要である。

 
参考文献
  1. Moi Meng Ling, 高崎智彦, 感染症迅速診断キットの有用性と限界「デング熱」
  2. Hirayama T, et al., J Clin Microbiol 50(6): 2047- 2052, 2012
  3. Takasaki T, et al., J Virol Methods 102: 61-66, 2002
  4. 田部井由紀子, 他, 臨床とウイルス 32(1): 30-35, 2004

 

国立感染症研究所 ウイルス第一部 高崎智彦

 

 

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