IASR-logo

2014年に分離された腸管出血性大腸菌O157、O26およびO111株のMLVA解析について

(IASR Vol. 36 p. 83-84: 2015年5月号)

国立感染症研究所(感染研)細菌第一部では2014年シーズンから腸管出血性大腸菌O157、O26およびO111についてmultiple-locus variable-number tandem-repeat analysis (MLVA) による分子疫学解析の運用を開始している。本稿では2014年に発生した主要な集団事例関連株、広域株等を中心にMLVAによる解析結果をまとめた。2015年3月30日までに感染研に送付された2014年分離株は2,725であり、このうちO157は1,609、O26は540、O111は118であった。これらの株をMLVAによって解析した結果同定されたタイプはそれぞれ610、197、42であり、それぞれのSimpson’s Diversity Index*は0.980、0.984、0.854であった。
(*多様性を表す指数の一つ。0-1の範囲で1に近いほど多様性が高く、0に近いほど多様性が低いことを示す。)

MLVAでは、リピート数が1遺伝子座において異なるsingle locus variantなど、関連性が推測される型をコンプレックスとしてまとめる様式をとっている。2014年に発生した大規模な集団事例としては4月の馬刺しによる事例、ならびに8月の花火大会に関連した事例があり、当該事例関連株のコンプレックス(14c001ならびに14c018)に含まれる菌株および型数は、14c001では110株9型が、14c018では114株7型であった。14c001、14c018ならびに後述の14c007に含まれる菌株の分離地域およびMLVAに基づくminimum spanning treeを図1に、メジャーな型の各遺伝子座におけるリピート数を表1に示す。ほとんどの株は当該事例関連株であり、菌の解析結果からもクラスターを形成することが認められた。一方で、これらには同時期に発生し、直接的な疫学的関連性が見出されていない事例の株も含まれていた。

上記MLVAによって試験した菌株に関し、送付地方衛生研究所(地研研)等に基づいて広域株の検索を行った。5以上の地衛研等で検出された広域コンプレックスは16種類、コンプレックスに含まれない広域型は7種類であり、該当するコンプレックス/型および分離地域(ブロック)は表2に示す通りである。14c007は24地衛研(17都府県)で分離され、179株から成る。14c007を構成する菌株のほとんどは6~7月に分離されたものであったが、疫学的な共通性は見出せなかった(図2)。

一方、MLVAの結果に基づいて自治体で実施された疫学情報の交換などから散発事例間のつながりが明らかにされた事例や、集団事例における菌株(患者および食品分離株など)の同一性および広域性の有無について迅速に情報還元することで事例対応に有益な情報を提供した事例なども少なからずあり、MLVAを活用することでよりリアルタイムに近いサーベイランスが可能となっている。

今後も上記の3血清群についてはMLVAを基に分子疫学解析を実施していく予定であり、引き続き関係機関のご理解とご協力をお願いしたい。

 

国立感染症研究所細菌第一部
   泉谷秀昌 石原朋子 伊豫田 淳 大西 真

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan