国立感染症研究所

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エボラウイルス病支援:シエラレオネ派遣体験

(IASR Vol. 36 p. 99-100: 2015年6月号)

背 景
2014年3月に西アフリカのギニアよりエボラウイルス病(Ebola virus disease: EVD)が世界保健機関(WHO)へ報告されて以降、EVD症例は増加し、リベリアとシエラレオネからも確定例が報告され、過去最大のEVD事例となるまでに至った。同8月にWHOは「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)」を宣言し、国連は同9月には、国連エボラ緊急対応ミッション(UN Mission for Ebola Emergency Response:UNMEER)を設立した。WHOは、国際的なアウトブレイク対応時に、必要な人的・技術的支援を供給することを目的としたGlobal Outbreak Alert and Response Network(GOARN)を保持しており、著者らも日本政府の関係省庁、国際協力機構(JICA)、国立感染症研究所の協力のもとにGOARNの枠組みでシエラレオネに派遣された。本文はその活動(2014年10月20日~11月21日)の総説である。記述内容はあくまでも派遣時のものである。

活動内容と所見
1)シエラレオネにおけるEVD対応のしくみ
著者らは10月21日にWHO本部においてトレーニング等を受け、10月22~24日にWHOシエラレオネ支局においてブリーフィングを受けた。UNMEERをはじめとする国への支援はシエラレオネ政府を通じて行われており、上部組織はNational Ebola Response Centre (NERC)であった。その下部組織の、公衆衛生政策・対応を担当する部署としては、順にMinistry of Health and Sanitation(国レベル)、District Health Management Team: DHMT(都道府県レベル)、Chiefdom health office/Peripheral health unit(市レベル/保健所)が設置されていた。国のEVD対応の柱として、以下の6つが挙げられていた:コーディネーション、資材の調達・管理、サーベイランスと検査体制、患者管理と感染予防・対策、住民の啓発・動員とリスクコミュニケーション、児童の保護・心理社会的支援。

2)Koinaduguにおける背景とミッション
直近の疫学状況から、派遣先は、シエラレオネ北東部のKoinadugu District(以下Koinadugu)に決定した。国内の12のdistrictのうち、もっとも面積が広く、山岳地帯も多いdistrictである。派遣当時は、国の西部でEVDが蔓延している中、Koinaduguは、EVD確定例が最も遅く(同9月)報告されたdistrictであり、症例の発生もNieni Chiefdom(以下Nieni)という僻地に限られていた。そのため、Koinaduguで早期探知・対応と感染拡大防止を可能とすることが期待された。

3)派遣時のKoinaduguにおける現状と課題
著者らはKoinaduguのDHMTが設置されているKabalaに3週間(10月26日~11月16日)常駐し、サーベイランス の支援を行った。EVD疑い症例の情報は、「アラート」として、住民、接触者調査員、医療従事者等よりDHMTにもたらされた。DHMTでは情報の確認を行い、疑い症例に対する調査、検体採取、症例の搬送、安全な葬儀・埋葬[直接死体に触れる伝統的な方法によらない、個人防護具(PPE)を装着した担当者による埋葬]を行っていた。また、疑い症例の一時的な収容施設としてholding centre (HC)が設置されていた。HCは、疑い症例への早期対応、検体採取、地域からの隔離を主な目的としており、症例へは、食事、対症療法としての解熱剤、マラリアの治療薬、飲料水等が提供され、PPEを装着した担当者が介護にあたっていた。疑い事例に基づいた迅速な情報の収集と、得られた情報の確認を系統的に実施する仕組み(event-based surveillance)は整っており、疫学調査、検体採取、疑い/確定症例の搬送、埋葬の担当者も定められていた。しかし、症例数の推移を含め、全体像が十分把握できておらず、情報の記録、集約、共有が課題であった。

4)Koinaduguにおける主な活動内容と成果
課題に対応すべきことを優先し、アラートの関連情報の記録と関係者との共有を開始した。DHMTの建物の一室をEmergency Operation Centreとして機能させ、最新のアラート(情報の確認、症例調査、搬送等)、救急車の稼働(症例や検査検体の搬送)、埋葬の実施数等の情報を明記し、継続的にフォローした。これによりDHMTの関係者が、疫学状況と対応、課題をより良く把握できるようになった。また、必要に応じて調査や埋葬へ著者らは同行し、症例発生のHotspotであるNieniで2日間視察活動を行った。これらの情報から得られた内容は主に以下であった(派遣当時の状況)。

・Koinaduguでは、継続的に疑い例、確定例が探知され、検査の陽性率も上昇傾向であった。確定例はすべてNieniから報告されており、その他のchiefdomから報告された疑い例はすべて検査でエボラウイルス感染が否定された。疑い例も陽性率もNieniで上昇傾向であったことから、真のアウトブレイクが、Nieniで進行中であると判断した。

・活動開始時点では、確定例の大半が伝統的な葬儀・埋葬(成人だけが参加し、遺体を洗い、洗った水を顔や体につけたりする)に関連しているとのことであった。実際に、Koinaduguの流行初期には成人症例のみが報告されていた。しかし、その後、小児の症例が報告され始め、これは葬儀・埋葬で感染した成人症例が徐々に家庭内で二次、三次感染を起こすようになった、という疫学の変化をとらえているものと考えられた。

・二次感染以降を防ぐための対策(接触者の隔離)には改善の余地があった。ただし、DHMTの職員には、感染者はなかった。

これらの情報や観察から、Nieniでの遺体や症例との濃厚接触が感染経路の中心と思われた。疫学的記述・解析に加え、現状と課題、課題の解決のための提言を日報としてWHOに報告した。これらの報告はNERCの会議でとりあげられ、Koinaduguへの迅速な対応の重要性が認識され、資材の提供と新たなcommunity care centre(CCC;HCの改善版)の立ち上げに繋がった。最新の情報を適時提供することにより、疫学状況に基づいた、ニーズにあった対応と結び付けることができたと思われる。

最後に
シエラレオネでは新規症例数は11月をピークに減少しているが(2015年4月現在)、依然として感染が継続しており、油断は禁物である。何処かでEVD感染が続いている限り、再び感染拡大する可能性がある。西アフリカ全体としてのEVD新規発生が減少傾向に向かっている今こそ、それぞれの発生国で徹底して終息を目指すことが重要である。

 

国立感染症研究所
  感染症疫学センター 有馬雄三 島田智恵

 

 

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