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エボラ出血熱:感染研の疫学対応

(IASR Vol. 36 p. 111-112: 2015年6月号)

国立感染症研究所(感染研)は、日本にとって脅威となる感染症の発生を迅速に探知・解析し、拡大を阻止するための科学的知見を行政、国内外の専門家、国民に提供しており、リスク評価と解析の結果、必要に応じて、適切な対応と対策を取っている。今回の西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関しても、これらの役割を果たしており、本稿においては、その疫学対応の概要を提供することを目的とした。

IDWR「注目すべき感染症」による情報提供
2014(平成26)年5月23日に「海外の注目すべき感染症」として、西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行に関する情報を掲載した1)。また、同年8月8日に、「西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱の流行 2014年」として疫学情報の更新とともに現時点における国内および国際社会における対応をまとめた2)。これらの情報提供によって、国内の公衆衛生担当者等に対して、エボラ出血熱の流行について注意喚起を行った。

リスクアセスメントの実施
平成26年8月8日に、感染研は、「西アフリカ諸国におけるエボラ出血熱の流行に関するリスクアセスメント」を公表した3)。得られた疫学的所見、ウイルス学的情報より、エボラ出血熱の発生国が限定されていること、主として患者の体液等との直接の接触により感染することなどから、症例が日本において探知される可能性は、現時点では極めて低いと評価したが、流行状況を慎重かつ継続して監視していくこと、発生国から帰国後に発熱、嘔吐、下痢等の症状が出現した場合には、その有症状者は渡航歴を事前に伝えたうえで医療機関を受診するようにすることの重要性などを指摘した。

同年10月31日には、ギニア・リベリア・シエラレオネにおいて症例数の増加が継続していること、米国において医療機関における二次感染症例が発生したことなどを受け、リスクアセスメントを更新した4)。今回の西アフリカにおけるエボラ出血熱の流行は、過去最大の規模に発展しているが、その要因はウイルスの生物学的性状の変化によるものではなく、発生国内および隣接国への感染拡大を断ち切るための十分な対策がとられていないことによること、ギニア、リベリア、シエラネオネにおいて累計患者数の増加が続いているが、国民に対しては発生国への不要不急の渡航を控えることが勧告されていることなどから、国内でエボラ出血熱患者が発生する危険性は低いと考えられると評価した。米国の院内感染事例を受けて、特定および第一種感染症指定医療機関における、院内での患者受け入れ手順の確認、個人防護具の着脱訓練の重要性を指摘した。

積極的疫学調査実施要領のとりまとめ
平成26年11月21日に、感染研は、エボラ出血熱に対する積極的疫学調査実施要領~地方自治体向け(暫定版)を公表し5)、厚生労働省(厚労省)を通じて、地方自治体等に周知がなされた。これは、エボラ出血熱の症例に対する積極的疫学調査の内容や、症例の接触者についての健康観察の方法等を明示したものであり、あわせて積極的疫学調査に携わる自治体職員の感染予防策についても言及がなされている。2015(平成27)年5月9日のWHOによるリベリアにおける終息宣言を受け、厚労省が平成27年5月11日よりリベリアに係るエボラ出血熱流行国としての対応を取りやめることとなったことに伴い、同実施要領についても一部修正が加えられた6)

自治体向け研修会の実施
平成26年度厚生労働科学研究費補助金により、同年11~12月にわたり全国8カ所で、感染研感染症疫学センターが中心となり、特定および第一種感染症指定医療機関の感染管理認定看護師や、感染研実地疫学専門家養成コースの研修員と修了生の協力も得て、エボラ出血熱の基礎知識と積極的疫学調査実施要領、感染防御の基礎、個人防護具の着脱等について、自治体向けのエボラ出血熱対応研修会を実施した。関連の資料はとりまとめて地方自治体に冊子として配布するとともにウェブサイトにおいて公表をしている7)

WHOを通じた疫学調査派遣
平成26年10月~平成27年5月までの期間に、日本政府は、WHOを通じて、感染研疫学センター職員4名を西アフリカに派遣し、それぞれが約6週間、現地において疫学とサーベイランス業務支援にあたった(本号7ページ参照)。

 


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