国立感染症研究所

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焼き串が原因と推定された腸管出血性大腸菌O157散発食中毒事例

(IASR Vol. 39 p77-78: 2018年5月号)

2017年10月, 新潟市および県内近隣自治体において腸管出血性大腸菌(以下EHEC)感染症が散発し, 患者はいずれもEHEC O157(以下O157)に感染していた。調査の結果, 市内事業者が製造した焼き串(豚と鶏の串焼き)が原因と考えられた散発食中毒事例であったので報告する。

1.概 要

2017年10月19日, 市内医療機関よりO157の感染症発生届出が新潟市保健所に1件あり, 当所は積極的症例探索を開始した。その後3週間にわたり当所および新潟県管轄の保健所に届出が相次いだ。

2.調査状況

患者は10月16日~11月8日にかけて発症し, 患者およびその家族に対して, 聞き取り調査または喫食・行動状況調査票による調査および検便検査を実施したところ, 10月1日以降に複数の食料品店にて購入した焼き串を喫食している者が多い(87名中31名)ことが判明した。焼き串は製造施設Aで製造され, そのまま喫食できる製品として市内を中心に複数の食料品店へ流通していた。また, 焼き串以外に患者らが共通する食事や感染症を疑うエピソードは確認できなかったため, O157の感染源は焼き串喫食と仮説を設定した。仮説検証のため, 焼き串喫食とO157による発症との関連を症例対照研究で検討した。

症例定義は10月1日~10月27日までに新潟市および県内の近隣自治体の食料品店を利用した者で, 明らかな二次感染者を除き, 以下を満たす者とした。

1)確定例:10月2日~11月24日の間に少なくとも1つ以上の消化器症状(下痢, 血便, 腹痛)を呈した者で, O157感染症発生届出のあった患者

2) 疑い例:10月2日~11月24日の間に少なくとも1つ以上の消化器症状を呈した者で, 検便検査未実施または検査陰性者(確定例を除く)

3) 保菌例:無症状かつ, 検便検査でO157が陽性で感染症発生届出され, 焼き串の喫食の有無が確実に判明した者

なお, 対照は上記症例を除いた, 症例の家族または生活を共にする者で無症状者とした。

3.結 果

症例定義を満たした症例数は35名で, その内訳は確定例が23名(66%), 疑い例が4名(11%), 保菌例が8名(23%)であった。症例の男女比は女性が22名(63%)で, 年齢は中央値が24歳(範囲:1-88歳)で, 10代が10名(29%)で最も多かったが, 一部の年代だけの発症ではなかった。症例のうち有症者(確定例または疑い例)は27名で, 症状は下痢が26名(96%)で最も多く, 次いで腹痛が23名(85%), 血便が20名(74%)であった。3名(11%)が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し, 急性脳症および死亡例の発生はなかった。

焼き串の喫食とO157による発症との関連は症例35名のうち焼き串の喫食の有無が不明な3名を除外した32名を症例として解析した。対照は焼き串の喫食の有無が確実に判明している42名とした。焼き串の喫食歴があったのは, 症例32名中22名(69%), 対照42名中7名(17%)であった。

検便検査の結果, 症例35名の便検体のうち30名の便検体からO157が検出され, 5検体は陰性(うち1名は患者血清中の抗O157 LPS抗体陽性)であった。O157が分離・同定された30検体を国立感染症研究所細菌第一部でMLVA(multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis)法による遺伝子解析を実施した。MLVA typeは17m0361(19名)が最も多く, 次いで17m0372(5名), 17m0362(4名), 17m0220(1名), 17m0374(1名)に分類された。これらはすべて同一MLVA complex 17c049(ただし17c049pを1件含む)であった。

焼き串製造施設への立ち入り調査では, 施設内で焼き串を汚染する可能性のある場所が複数確認された。施設内のふきとり検査(50検体)ではすべて陰性で, 従業員の検便検査(56検体)は従業員4名からO157が検出された。従業員由来の株のMLVA typeはすべて17m0361で, すべて症例と同一のMLVA complex(17c049)であった。

4.考 察

本事例は, 新潟市および近隣自治体から散発的に発生したO157感染症であった。疫学調査の結果, 焼き串が原因と推定された散発的発生の食中毒事例であった。

感染源を特定するために焼き串の製造施設への聞き取り調査を行ったところ, O157を保菌している牛等の反芻動物の食肉の取り扱いがなかった。しかし, 原材料の遡り調査から, 豚内臓の仕入元の食肉処理業者は牛および豚の内臓を同部屋で処理し, 従業員は牛内臓の処理後に着替えを行わずに豚内臓を処理していた。この食肉処理業者で, 牛由来のO157が焼き串の原材料の豚内臓肉を汚染した可能性が考えられた。また, 焼き串製造施設の従業員4名(全員無症状)の検便から患者らとMLVA typeが一致するO157が検出され, 製造施設へO157が持ち込まれた原因は原材料由来または従業員由来によるものと考えられた。焼き串の加熱調理条件は十分であったので, 以下の4つが焼き串を汚染した要因の可能性として考えられた。

1)焼き串は製造ラインの原材料取り扱い区域と加熱後製品取り扱い区域が交差する場所に設置されたビニールカーテンを介した交差汚染の可能性

2)原材料および未加熱製品の運搬容器と加熱後製品の運搬容器の洗浄機が隣接し, 洗浄する時間や作業員が共通であり, O157に感染した従業員からの容器汚染の可能性

3)施設内のたまり水からのはね水による汚染の可能性

4)O157に感染した従業員からの汚染の可能性

今回の発生届出のあった33名中11名は焼き串の喫食を確認できず, 感染源の検討を実施したが, 焼き串および焼き串以外の曝露との関連性を見出すことはできなかった。

本事例は初動調査の段階で共通食の焼き串が早期に把握でき, 施設への立ち入りと営業停止処分を速やかに実施でき, O157の感染拡大を最小限に抑えることができた。また, 本事例の経験で, 疫学情報の収集およびそれらの解析・検証に基づき, 自主回収や営業自粛の助言, 回収命令や営業停止処分が実施された。MLVA解析の結果と喫食歴等の疫学情報は原因探索やその後の予防策を講じる上で重要な役割を果たしたことを再認識できた。今後は迅速で適切な調査実施のため, 職員に対し疫学研修等を実施する予定である。また, 同様の感染症や食中毒発生を防止するために, O157の汚染を広げる可能性があると考えられた食肉処理業者等に対してさらなる監視指導を行う予定である。

本調査にご協力いただきました国立感染症研究所感染症疫学センターの八幡裕一郎先生, MLVA解析を実施いただきました国立感染症研究所細菌第一部の皆様, 関係各位に深謝いたします。

 

新潟市保健所食の安全推進課
 佐藤諒介 平 裕幸 飛田三枝子 齊藤哲也 石井輝之 羽賀 隆

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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