国立感染症研究所

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2011年に沖縄県で発生した急性出血性結膜炎の流行およびコクサッキーウイルスA24変異型の分離

(IASR Vol. 33 p. 168-170: 2012年6月号)

 

急性出血性結膜炎(AHC)は、エンテロウイルス70(EV70)とコクサッキーウイルスA24変異型(CA24v)を主原因ウイルスとする激しい出血症状を伴う結膜炎である1,2) 。沖縄県では、2011年5~11月にAHCの流行が認められ、患者の結膜ぬぐい液からCA24vが検出された。本県におけるCA24vを原因としたAHCの流行は、1985~1986年の大規模な流行以来約25年ぶりである3) 。今回、その患者情報および病原体情報について解析したので報告する。

患者発生状況
2011年の県内におけるAHCの患者発生状況は、第1~20週まで累計3人と散発の発生であったが、第21週(5/23~5/29)に沖縄本島南部の保健所管内で患者報告数が3.0人/定点、第22週(5/30~6/5)には沖縄県全体で3.4人/定点と警報レベルに達した(図1)。第27週(7/4~7/10)には51.0人/定点でピークとなり、その後、患者報告数は増減を繰り返しながら減少傾向になったが、第45週(11/7~11/13 )以降再び増加傾向が認められ、第47週(11/21 ~11/27)までに17.1人/定点に達した。その後、第52週に報告数は0となり、流行は終息した(図1)。第21~33週(8/15~8/21)は沖縄本島を中心に流行し、その後、宮古島や石垣島の離島でも流行が認められた(図1)。AHC患者の男女比は1:1であった。年齢階級別では、10~14歳が834人と最も多く全体の20.4%を占め、次いで、5~9歳539人(13.2%)、0~4歳519人(12.7%)、15~19歳519人(12.7%)、30~39歳475人(11.6%)、40~49歳368人(9.0%)、20~29歳309人(7.5%)、50~59歳240人(5.9%)、70歳以上158人(3.9%)、60~69歳133人(3.2%)の順であった(図2)。

患者数のピーク時には、公立中学校1校が学校閉鎖となり、公立小中高校4校7学級が学級閉鎖の措置を取った。

病原体検出状況
県内の医療機関にてAHCまたはその疑似症と診断された患者の結膜ぬぐい液を、2011年6月に沖縄本島の26例、同年10月に石垣島の10例、合計36例から採取した。これらを検査材料とし、エンテロウイルスのVP4-VP2領域を標的としたRT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出およびHEp-2、Vero、Vero E6、RD-18Sの4種の細胞によるウイルス分離を実施した。検査を実施した36例中、16例(沖縄本島の13例と石垣島の3例)がPCR陽性(44.4%)であった。PCR陽性16例について、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した結果、いずれもCA24vと同定された。また、10例(沖縄本島の7例と石垣島の3例)がRD-18S細胞における培養1~2代目でCPEを示したため、培養液上清を上記と同様の方法を用いて解析した結果、いずれもCA24vと同定された。分離された10例は結膜ぬぐい液のPCRも陽性であり、PCR陽性検体およびウイルス分離陽性検体は、すべて発病から検体採取までに要した日数が2日未満であった(表1)。

さらに、VP4領域(207bp)について、系統樹解析を行った(図3)。今回、CA24vと同定された16株のうち、沖縄本島13株の塩基配列は100%一致しているが、石垣島3株とでは1~3塩基の置換が認められた(図3)。また、これら16株(沖縄本島の13株と石垣島の3株)は2002年、2007年、2010年に中国で分離された株(AY876913、EU221292、JF742576)と同一のクラスターを形成し、1985年に本県で分離された株(AB053972)とは異なっていた(図3)。

まとめ
本県では1985~1986年以来、約25年ぶりにCA24vによるAHCの大流行が発生した。当時の流行と比較すると、1985年と1986年の流行のピークはそれぞれ9月と10月に認められたのに対し3) 、2011年のピークは7月であった。2011年のAHC患者の割合は、5~14歳が最も多く全体の33.6%を占めており、学校を中心に流行が拡大したと考えられる。この点は1985~1986年におけるAHCの流行と同様であった。今回のAHC流行は、沖縄本島に続いて石垣島や宮古島でも確認され、沖縄本島から離島へ流行が拡大した可能性が示唆された。

ウイルス検出において、発病から検体採取までの日数が経過するほど検出率は低下し、2日目以降の検体ではRT-PCRおよびウイルス分離のいずれの方法でもウイルスは検出されなかった。このことから、発症後速やかに検体を確保することが重要であると示唆された。

今回検出されたCA24vは、沖縄本島と石垣島の株とでは1~3塩基の置換が認められた。この変異は、今回の一連のAHC流行の中で生じたものと考えられる。

約25年前の本県におけるAHC流行は、1985年と1986年の2年連続の流行であったことから今後も注意が必要であり、引き続きその発生動向を注視する必要がある。

 

参考文献
1) Mirkovic RR, et al ., Bull Wld Hlth Org 49:341-346, 1973
2) Mirkovic RR, et al ., Intervirology 4: 119-127, 1974
3) Miyamura K, et al ., Japan J Med Sci Biol 41: 159-174, 1988

 

沖縄県感染症情報センター 久場由真仁
沖縄県衛生環境研究所 仁平 稔 平良勝也 喜屋武向子
北部福祉保健所 東 朝幸
南部福祉保健所 松野朝之
八重山福祉保健所 糸数 公

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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