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海外帰国患者よりカルバペネム耐性肺炎桿菌、多剤耐性アシネトバクターおよびVREが同時に検出された事例に関する報告

(IASR Vol. 35 p. 200-201: 2014年8月号)

多剤耐性アシネトバクターやCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)などの新型のグラム陰性多剤耐性菌が広がっている欧州の1国を旅行していた女性(65歳)が、脳出血のため現地で入院。入院中に呼吸停止となり人工呼吸器を装着し肺炎を併発した。15日間の治療ののち日本での治療を希望して帰国し、2014(平成26)年5月某日に名古屋市内の基幹的総合病院に入院した。重症肺炎と診断され、人工呼吸管理下でPIPC/TAZ、DRPM+VCMにより治療を行ったが、肺炎による呼吸不全のため入院10日目に死亡した。

起炎菌の検索のため実施した培養検査の結果、血液よりバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、喀痰よりVRE、Acinetobacter baumanniiKlebsiella pneumoniae が検出され、同病院の細菌検査室でいずれも多剤耐性株と判定された。

厚生労働省が推進する地域連携の一環として名古屋大学において、分離菌の詳しい解析を実施した。その結果、VREはVanB型、多剤耐性Acinetobacter は、A. baumannii の国際流行クローンI型(IC I)であり、かつ獲得型のOXA-23-like型カルバペネマーゼの遺伝子陽性株、さらに多剤耐性K. pneumoniae は、KPC型カルバペネマーゼ産生株と判定された。

これらの3種類の多剤耐性菌の早期検出に成功した当該基幹病院では、名古屋大学中央感染制御部とも連携し、医療環境のスクリーニング検査や接触者の保菌検査等を行い、2名のカルバペネム耐性A. baumannii 、3名のカルバペネム耐性K. pneumoniae の保菌者、さらに院内数カ所のA. baumannii による環境汚染を特定した上で、環境整備とともに、保菌者を含めた隔離と移動制限、スタッフのコホーティングを含めた厳重な接触予防策の徹底を図ったところ、2014年6月25日時点で、これらの耐性菌の院内伝播の阻止に成功している。

用語の解説 A. baumannii の「国際流行クローンI型」は、最近では「international clone I (IC I)」と表記され、2000年代初期に「European clone 1」とか「pan-European clone 1」などとも呼ばれていたものと同等である。同様に、「国際流行クローンII型」は、以前は、「European clone 2」とか「pan-European clone 2」、最近では「international clone II(IC II)」と表記される。Pasteur研究所のMLST解析法1)では、IC Iはsequence type 1(ST1)、IC IIはST2と判定され、BartualらのMLST解析法2)では、それぞれ、clonal complex 109 (CC109)、CC92と判定される。多剤耐性Acinetobacter としては、海外ではA. baumannii のIC IIが主流であるが、今回分離されたIC Iも欧州等で広く流行しており、2000年代前半から中期にかけて、イラクの米軍等の傷病兵で流行した多剤耐性Acinetobacter の中にもIC Iが含まれていた3)。また、多剤耐性Acinetobacter については、既に国内で数件のアウトブレイク事例が確認されている。なお、A. baumannii は、ほぼ例外なく染色体上に生来OXA-51-like型カルバペネマーゼの遺伝子を保有しているため、今回の分離株は、OXA-51-like型とOXA-23-like型の2種類のカルバペネマーゼの遺伝子を保持しているやや稀な株であった。

KPC型カルバペネマーゼを産生するカルバペネム耐性K. pneumoniae については、2013年3月に米国CDCが、全米に対し警告を発している4)が、この種のCREは、米国のみならず、数年前から欧州各地、さらに世界中に広がりつつあり、感染制御の対象耐性菌の一つとして強く警戒されている。KPC型カルバペネマーゼ産生K. pneumoniaeについては、国内ではこれまでに数件が確認されているが、多くは海外からの帰国患者等より検出された株であり、これまでのところ国内では大規模なアウトブレイクは発生していない。

参考情報:2011(平成23)年6月17日付けで、厚生労働省医政局指導課より、「医療機関等における院内感染対策について」が発出されているが、2014(平成26)年6月23日付けで、新たに「医療機関等において多剤耐性菌によるアウトブレイクを疑う基準について」の事務連絡が発出されたので、CRE等多剤耐性菌のアウトブレイクが発生した際にはそれらに従い対処していただく必要があります。

 

参考文献
  1. http://www.pasteur.fr/recherche/genopole/PF8/mlst/Abaumannii.html
  2. Bartual SG, et al., J Clin Microbiol 43: 4382-4390, 2005
  3. Huang XZ, et al., Epidemiol Infect 140: 2302-2307, 2012
  4. http://www.cdc.gov/hai/organisms/ cre/

名古屋大学大学院医学系研究科分子病原細菌学/耐性菌制御学分野         
  和知野 純一 荒川 宜親
名古屋大学医学部附属病院中央感染制御部
  冨田 ゆうか 八木 哲也

 

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