国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.37 No.1(No.431)

伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)

(IASR Vol. 37 p. 1-3: 2016年1月号)

伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、主に幼児学童期の小児にみられる流行性の発疹性疾患で、原因病原体は、ヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19、以下PVB19と略す)である。PVB19は、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属に属する1本鎖DNAウイルスで、知られる限り、ヒトのみに感染する。PVB19は標的細胞表面にあるP抗原を介し赤芽球前駆細胞に感染し、アポトーシス誘導により細胞を破壊する。典型的な臨床症状は、小児にみられる両頬の蝶形紅斑で、このため「リンゴ病」と呼ばれるが、紅斑が網目あるいはレース状に上肢体幹等他の部分に広がることもある(本号3ページ)。

感染症発生動向調査
伝染性紅斑は、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から報告される5類感染症である(届出基準:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-21.html)。流行が大きい年には季節変動性があり、6~7月頃にかけてピークがある(図1)。年間患者報告数は、2010~2014年の間で、各年、50,061、87,010、20,966、10,118、32,352例が報告されたが、2015年は第50週現在92,625例が報告されており(表1)、過去10年間で最多となった。現行の感染症法施行後における流行の大きな年(報告数の全国平均のピークが定点当たり1以上)は、2001年、2007年、2011年、2015年で、4~6年の流行周期を持つ(図2および IASR 19: 50-51, 1998参照)。2015年は関東地方から全国への伝搬状況がみられ(図3)、第28週にピークを迎えた後いったん減少したが、秋から初冬にかけて再度の患者報告数の増加がみられる(図1)。

伝染性紅斑患者の年齢分布は、2015年第50週までのデータによると、9歳以下が93%、5歳児は全年齢中最多の17%である(図4)。伝染性紅斑は小児科定点把握疾患であるため、成人における正確な発生状況は不明であるが、成人の地域流行も報告されている(本号5ページ)。

海外からの、伝染性紅斑あるいはPVB19感染症としてのサーベイランス情報は断片的であるが、集団発生や胎児死亡が報告されている(本号11ページ)。

感染経路と臨床像
PVB19の潜伏期は4~15日で、飛沫感染もしくは接触感染により伝播する。感染1週間後頃にウイルス血症を起こし、感冒様症状を示すことがある。特徴的な発疹を呈した時点では、ウイルス血症はほぼ無くなり、周囲への感染性はほとんどない(本号3ページ)。発症前のウイルス血症の時期に採取された血液には感染リスクがあるため、国内ではすべての献血血液について、血漿分画製剤の原料血漿に対しては凝集法(RHA法)によるスクリーニング検査が1997年に導入された(IASR 19: 52, 1998; https://idsc.niid.go.jp/iasr/19/217/dj2171.html)。以後、2007年までの11年間で輸血用血液製剤由来の感染は9例であったが、2008年に検出感度を約106copies/mLに高めたCLEIA法(chemilumi-nescent enzyme immunoassay)を採用したところ、2008~2015年までの8年間で報告された感染例は1例に留まっている(本号8ページ)。

不顕性感染は全症例の4分の1程度である。PVB19は一度感染すると終生免疫が得られ、一般に再感染はない。ただし、本ウイルスは免疫不全者において持続感染を起こす場合がある。

成人では、症状は多彩なことから、他の疾患との臨床鑑別診断が難しい。20歳以上の麻疹疑い患者の約3割からPVB19 ゲノムが検出されたとの報告もある(本号4ページ)。また、成人(特に女性)では関節炎症状を呈するケースが多い。その他の重要な合併症として一過性骨髄無形性発作(transient aplastic crisis)が溶血性貧血を基礎疾患に持つものに、慢性貧血などが免疫不全者において発生することが知られている。

妊婦がPVB19に感染すると、約20%に経胎盤感染が起こり(本号7ページ)、そのうち約10%が流産あるいは死産となる。胎児水腫は、妊娠20週以前、特に妊娠9~16週の感染で多い(ただし、このリスクは妊娠28週以後低下する)。不顕性感染であっても経胎盤感染が起こることから、流行期には、小児を持つ家庭や、小児との接触機会が多い職業の妊婦は感染に注意する必要がある。

PVB19の検査診断法
一般に使用されているPVB19の検査診断法は、EIA法によるPVB19 IgMおよびIgG抗体測定とPCR法によるPVB19のDNA検出である。

IgM抗体は、初感染では紅斑の出現する感染後2週間位に検出され、約3カ月間持続する。IgG抗体は、IgM抗体陽転数日後から検出され、生涯持続する。初感染か否かの診断は、臨床症状、および、PVB19 IgM抗体、PVB19 DNAの陽性から判定する必要がある(本号9ページ)。定量real-time PCR法は病勢や感染時期の推定などに用いられることがある。「紅斑の出現している妊婦について、PVB19感染症が強く疑われ、IgM抗体価を測定した場合」の検査には公的医療保険の適用が可能である。

伝染性紅斑への対応
伝染性紅斑は、小児に好発する一般的に予後良好な疾患である。しかし、多彩な臨床像のために診断が難しいこと、不顕性感染者からの感染があること、症状出現前1週間がウイルス排泄時期であること等の理由によりその対策は容易ではない。特に溶血性貧血あるいは免疫不全を基礎疾患に持つものは、感染すると重篤になることがあり、また、妊婦では胎児への重篤な感染が起こり得ることなどを考慮する必要がある。流行のみられる地域においては、感染対策、特に易感染者への対策(院内感染対策、家庭内感染対策等)が重要である。

 

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