国立感染症研究所

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世界におけるペストの現状, 2010~2015年(1)

(IASR Vol. 37 p. 84: 2016年4月号)

ペストは主に小哺乳類に起こる, ノミが媒介する細菌感染症である。地理的には非常に局所的である。ペストの病原体であるYersinia pestisは, 感染ノミによりヒトに感染することがある。ヒトにおけるペスト, 特に敗血症型ペストと肺ペストは重篤である。肺ペストは早期に治療をしなければ致命的であり, 感染性も高い。直接的なヒトとヒトの接触で重大な集団発生が起こりうる。このような状況から, ペストは医学的にも公衆衛生的にも緊急性を要する感染症である。

2010年1月1日~2015年12月31日の間に, 3,248例のヒトのペスト症例が報告され, 584例が死亡した。主要な保有動物(地域によって異なる)やその地域の社会経済の状況によってペストの疫学的特徴やヒトへの感染リスクはさまざまである。アフリカ, 南米, インドではげっ歯類が保有動物であり, 貧困層の感染症である。しかし, 他の流行地域では屋外での仕事に関連して散発的に発生する傾向にある。

アフリカ:4カ国での報告が継続している。

マダガスカルは世界で最も深刻な流行国である。疑い例の95%から検体が採取され, 約55%がペストと確定されている。過去2年間で報告数は減少しているが, 肺ペストの頻度が高いこと(23%)に関連して, 致命率は上昇している(2015年は23%)。2014年, 首都のアンタナナリボで肺ペストが1例報告されたが(後に死亡), 保健当局の迅速な対応により二次感染者は認めなかった。

コンゴ民主共和国でも近年報告数が減少している。北東部に流行地区があり, 散発例に加えて, 数十人の集団発生が定期的に報告されている。たとえば, 2014年には腺ペストの集団発生(致命率8.7%)と肺ペストの集団発生(致命率41%以上)を認めた。

ウガンダはアウラ県において症例を報告しており, 30%が検査にて診断が確定されている。

タンザニアのマニャラのムビュ地区で, 2014年の年末, 腺ペストの集団発生がみられ, 38症例中5例が死亡した。

北アフリカでは, 過去10年でいくつかの集団発生が探知されてはいるが, 今まで報告はされていない。
以下後半は次号につづく

(WHO, WER 91(8): 89-93, 2016)
(抄訳担当:感染研・藤谷好弘)

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