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茨城県で過去4シーズンに検出されたノロウイルス遺伝子型GII.17の分子疫学

(IASR Vol. 37 p.182-183: 2016年9月号)

はじめに

2015年, 本邦(埼玉県,長野県および川崎市)において, 食中毒事例からノロウイルス(NoV)GII.P17-GII.17 Kawasaki 2014(以下GII.17 Kawasaki 2014)の検出が初めて報告された1)。さらに, GII.17 Kawasaki 2014は, 本邦のみならず, 中国などアジア諸国でもほぼ同時期に流行し2), 米国でも散発事例から検出されていたことが明らかになった3)。GII.17 Kawasaki 2014は, 以前に検出されたGII.17やGII.4と大きく抗原性が異なることも示唆された1)。最近の調査によれば, GII.17 Kawasaki 2014は, 関東近隣のみならず, 全国規模で検出されていることも明らかになった4)。以下, 本県における過去4シーズン(2012年9月~2016年4月まで)の食中毒事例および感染性胃腸炎から検出されたGII.17の動向について報告する。

方 法

常法により, NoVのポリメラーゼ領域およびキャプシド領域をRT-PCR法により増幅し, ダイレクトシークエンス法により得られた塩基配列を基にNorovirus genotyping toolにより遺伝子型を決定した1)。次に,キャプシド領域(282bps)の分子系統樹解析を最尤法(ML法)によって行った。なお, これらの解析は原則として, 1事例につき1株ずつ行った。

結果および考察

キャプシド領域の塩基配列を用いたNorovirus genotyping toolの分子系統樹解析によりGII.17 Kawasaki 2014クラスターに分別された65株について, ポリメラーゼ領域の塩基配列を用いて同ツールの分子系統樹解析を行った。65株中60株はGII.P17クラスターに分別され, GII.17 Kawasaki 2014と推定された。65株中5株については, ポリメラーゼ領域の遺伝子増幅ができず, 同領域の遺伝子型を決定できなかった。過去4シーズンのNoVGIIの遺伝子型別検出状況を図1に示した。調査期間中, 2013/14シーズンまで, 本県において検出された遺伝子型の大半はGII.4であった。しかし, 2014/15シーズン以降, GII.17 Kawasaki 2014がGII.4と同様に多く検出されるようになった。また, 2012/13, 2013/14シーズンにおいても, GII.17 Kawasaki 2014が1事例ずつ検出されていた。次に, 月別遺伝子型検出状況(GII.17と?GII.4のみ)を図2に示す。GII.17 Kawasaki 2014の検出は, GII.4より数カ月遅れて検出のピークを迎えた。キャプシド領域(282bps)の塩基配列に基づく最尤法による分子系統樹(塩基置換モデル: k80 invariant)を図3に示した。本県で2013/14シーズンまで検出された2株のGII.17 Kawasaki 2014は, 川崎市で2014年の検体から検出されたHu/GII.P17 GII.17/Kawasaki323/2014/JP(Kawasaki323株)と100%塩基配列が一致した。それ以降に検出された株は, Kawasaki323株と比較して, Hu/GII.P17 GII.17/Kawasaki308/2015/JP(Kawasaki308株)と塩基配列相同性の高い株が大半を占めた。また, 本県で検出されたKawasaki308類似株のキャプシド領域の解析部位において, IBARAKI15-760株ではAla9Val, IBARAKI15-704株およびIBARAKI15-583株ではIle75Valのアミノ酸置換が認められた。本県において, GII.17 Kawasaki 2014は2014/15シーズンで検出数が急速に増加し, それ以降, GII.4に並ぶ主要流行株の一つとなった。GII.17 Kawasaki 2014は, 今後も本県のみならず他都道府県において主要流行株として流行する可能性があり, 全国の流行動向と合わせ, GII.17 Kawasaki 2014を含む主要流行株の推移を注視していくとともに, ゲノムデータの蓄積を継続する必要がある。

 

参考文献
  1. Matsushima, et al., Euro Surveill 20(26): pii=21173, 2015
  2. de Graaf M, et al., Euro Surveill 20(26): pii= 21178, 2015
  3. Parra GI, et al., Emerg Infect Dis 21(8): 1477-1479, 2015
  4. 松島勇紀ら, IASR 36: 175-178, 2015

茨城県衛生研究所
 梅澤昌弘 黒澤美穂 後藤慶子 土井育子 本谷 匠 永田紀子 小林雅枝
国立感染症研究所感染症疫学センター
 第六室 木村博一
国立感染症研究所ウイルス第二部
 第一室 片山和彦

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